26.『7つの教会』招集会議①

 朝を迎える――『7つの教会』招集会議は正午に開催される。

 聖ヨハネウス史徒文書館には、残り3人の史徒ヒストリアが、それぞれの任務から帰還した。

 

「はっはっはっ!とんでもないことになっちまったなぁ、エル坊にリアード」

「おぉ!かわいい坊やたち!ウリエラおばさんは、もう心配で心配で」


 あっけらかんと太陽のように笑う、気のよい中年男が第7史徒ヒストリア『アーサー』で、愛嬌たっぷり、幸せ溢れんばかりの小太りおばさんが第6史徒ヒストリア『ウリエラ』である。


「ウリエラのやつ、お前さんたちのことを聞いてから、居ても立っても居られず…自分の任務どころじゃなくなってなぁ――派遣先の修道院ごと吹っ飛ばしちまった!」

「ちょっとアーサー!坊やたちの前で、変な言い掛かりはよしてちょうだい!あれは、生前が黒魔術師だった著者の地縛霊が書物に憑いていて――どうしてもあの修道院の書庫から離れたがらなかったのよ。それで仕方がなく…ボンっとね!」


 ウリエラがウインクと共にとんでも発言をするも、アーサーは思いっきり笑っているばかりだ。


「やっぱり、アーサーおじさんとウリエラおばさんの存在は心強いよ。2人が帰ってくると、一気に文書館の雰囲気が明るくなるのさ!

 ……昨日のサンマルコおじいちゃんのお話しのあとは、みんな明るくふるまってはいても少し不安そうだったもん」

 

「ほぉ!この女子が、ドラコーンの森に棲まうという、アミリア族の娘、アイリス殿ですな?

 いやはや、これはこれは!私もこの歳になって、素晴らしい出会いがあったものですな!」


 3頭身のちっさい老齢の男は、第5史徒ヒストリア『アルカンダ』だ。デフォルメされているわけではない。もともと3頭身と身長がちっさいのだ。


「私は魔獣や聖霊…生物の類には目がなくってですな!ここの書物修復班として働いている、ブラウニー小人たちには会ったかね?奴らはこの私が世話しているのだよ。やれやれ、基本的には害のない連中だが――少々いたずら好きでね。

 な~に、言葉は通じずとも、連中も私には心を開いているのさ」


 アルカンダはアミリア族のアイリスに、興味津々の様子だ。アミリア族があらゆる生物と言葉を交わせることを、知っているからであろう。


「アイリス殿にも、連中のことを紹介しますぞ、きっと仲良くなれるだろうさ。そして、今度お茶でも飲みながら、ドラコーンの興味深い話を聞かせてくだされ」


 ぜひに!と、アイリスと仲良くなりたくて堪らないアルカンダの様子に、アイリスも嬉しくなった。


 ◆


 『7つの教会』招集会議が開催されるのは、イストランダ大聖堂内の『聖女帝の玉座』のある広間だ。


 12史徒ヒストリアが勢ぞろいすること自体もめったにないことで、そこに聖女帝マリア=テレア14世、そして7地区の代表『7つの教会』の頭首とその従者が集まるのだ――イストランダ行政庁の職員は準備に余念がないし、大聖堂全体が慌ただしくバタバタとしている。


 12史徒ヒストリアはサンマルコを先頭に、揃って広間へ向かう。今回の事件の重要関係者である、アイリスとリアードも一緒だ。

 広間の両開きの扉を勢いよく開け放つと、すでに『7つの教会』側も勢ぞろいしていた。

 

 「これはこれは、12史徒ヒストリア様がた!サンマルコ史徒長様も、先日は我が『ベレンツィア』にいらっしゃっていただいたそうで。

 何でも、この度の一連の事件――発端は、我がベレンツィアの聖カルメア教会が所有する書物だった…とか。

 どうかこの通り、ご容赦くださいませ。協力は惜しみません!何卒、良いように」


 サンマルコら史徒ヒストリアを目敏く見つけるや否や擦り寄って来たのは、商人の都市『ベレンツィア』の頭首――領主のドミニコと臣下のグレークだ。小者感が満載な、如何にも商人という風貌のドミニコだが、実際のところは狡賢く計算高い男だ。


「いかにも、そなたらの領地内で起こった惨事が発端じゃ。そのことは肝に銘じておくがよい」


 ドミニコを簡単にあしらい、サンマルコらは『聖女帝の玉座』のある祭壇の最前列に着座した。


「――エルよ。7つの教会の者たちのこと…よく観察しておるんじゃぞ」

「?サンマルコおじいちゃん、どういうこと?」


 耳元で囁いてきたサンマルコに、エルは疑問を投げかける。そんな何もわかっていないようなエルに、リアードがサンマルコの意図するところを耳元で伝える。


「サンマルコじいさんは『7つの教会』側にも、『ハコブネ』に通じる奴がいるかもしれないって考えているんだろう。――少なくとも、『ハコブネ』が結社の本拠地を置いている地区が、何処かにあるはずなんだ」

「――なるほどねぇ。リア坊や、あなたって結構切れ者なのね。まあ、もとは年齢なんてあってないようなものの召喚魔獣なわけだし――その点は納得ね」


 エルとリアードのひそひそ話を、耳敏く聞きつけていたロゼリアが、口を挟んできた。


「――だとすると…最初の事件の舞台、『ベレンツィア』も十分に怪しいけれど…異教徒自治区『クルアント』も、反乱分子が隠れ蓑にするにはいいチョイスかもね」


 ロゼリアは妖艶な赤い唇をリアードの耳元に近づけ、囁いた。

 ロゼリアの視線の先には、頭から口元まで覆った異教徒の衣装を身に纏い、じっと黙って『聖女帝の玉座』を睨んでいるかのような『クルアント』の頭首――レオラ王子とその従者サルマンがいる。


「異教徒自治区…なんていうと聞こえはいいけれど、実際のところは十字教国の統一時に占領されて、主権も信仰の自由もはく奪された――お飾りの王子様よ。地区内は十字教国に反発的なテロリストの温床と化しているし、潜伏先としてはもってこいね」


 ロゼリアは視線を移し、話を続ける。


「あるいは…荒くれ者の海賊や異種族が行き交う、船乗りの港町『シーグラス』かしら?」


 大胆かつ開放的な衣装を身に纏い、退屈そうに大欠伸をしているのは『シーグラス』の頭首――女海賊ジュリアとその子分アリアナ。


「人の出入りも多い地区だし、統治という統治はほとんど機能していないはずよ。頭首自身も、航海に出ているのがほとんどだしね」


 あのお色気衣装は私とキャラが被るわね、とロゼリアは不満を漏らす。


「まぁ、そのほかの地区も各々に何かしらの火種を抱えている――『ハコブネ』の潜伏先を、現状で特定することは難しいわね。

 リア坊やに忠告だけれど、敵は聖カルメア教会でエル坊やを狙ってきた――彼らはエル坊やに、興味があるのよ。向けられる視線に注意していれば、分かることもあるかもしれないわね」

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