哀しみよ

 月が満ちれば 

 姫のことを思い出さずにはおれません。

 姫との別れをイヤでも思い出すのです。

 それでも、

 姫への未練は断ち切ったかのように

「今宵の月は素晴らしい」と月見を楽しむしかありません。


 みかどという立場では、

 いつまでも 手の届かない姫に執着しているわけには いかないのですから。


 世継ぎをもうけなくてはなりませんから。


 とはいえ、

 帝の心は 月にとらわれたままのようでありました。


 満ちていく月を見ていると、

 もう二度と会えぬとわかっていても 姫への想いが募っていくのです。


 欠けていく月を見ていると、

 姫が地上での想いを 消されたことを思い出し、

 姫の残滓すら失われていくような気がして

 不安に苛まれていくのです。

 あの夜、

 羽衣をまとわされた姫が 別人のような顔になって 帝のことを振り向きもせず 去っていた

 あの横顔を 思い出してしまうのですから。


 だから、

 いつまでも このまはまではいてはならないのだと

 意を決して


 月を呑み込んだのだ、と。



 


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