異界の武士
拠点は大混乱であった。思いもよらぬ援軍。圧倒的戦力。それが瞬く間に失われ、希望は絶望へと一瞬にして反転した。そんな中、出撃の準備を進めるものがいた。フェンである。
「何をしている」
宗十郎は呼び止める。
「決まっている。同胞を助けに行く。俺の責任だ。俺がドラゴンが来るから安心しろと動員したんだ。あいつらは若いんだ。分かるんだ。無惨に転がる竜の死体を見て、次は自分たちの番だと、逃げることすらできず怯えている。止めるなら殺すぞ宗十郎」
不倶戴天の決意。今、フェンは怒りに燃えている。それは不甲斐ない自分に対して。
「否、止めはせぬ。だが冷静になれフェン。一人で行ったところで無駄死にである」
宗十郎は、フェンの行動が無駄死にとなることを理解していた。しかし、フェンの怒りと責任感は、宗十郎の言葉を受け入れようとはしなかった。
「待てるか。貴様らはいつもそうだ!適当な理屈をこねて、この場を適当にごまかす!俺たちは今を生きているのだ!これからではない!今を生きれぬものに明日はないのだ!!」
フェンは、宗十郎の言葉に激昂する。彼にとって、今目の仲間たちの命を救うことが最優先だった。宗十郎は、フェンの言葉に耳を傾け、そして応える。
「聞け!一人で難しいことでも、二人ならば可能性はある!」
宗十郎は既にサムライブレードを身につけ戦場へと向かう考えだった。それは他でもない、コボルトたちを助けるためである。
「なに?ついてくるつもりか、コボルトのために?何故だ!人間に何の利がある!!」
フェンは、宗十郎の行動に疑問を投げかける。人間とは、亜人を差別している。まるで虫けらのような目で見るのがこの世界の"常識"であり"
しかし、宗十郎は迷いなく答える。
「利ではない!義で動くのだ!それこそがブシドーである!お主らがコボルトなど関係ない!仲間を救うために命を賭すなど、至極当然のことである!!」
───本気で、言っているのか。いや、本気で言ってるのだ、この男は。その目には何の偽りもない。その匂いからは謀りの気配がない。ただ真摯に、義のために動くと言っているのだ。
「……言っておくが死んでも助けないぞ?」
「それはこちらも同じ。助けるのは孤立した仲間でありフェン、お主ではないからな」
お互い微笑む。そして集落から駆け出した。今なお恐ろしい存在に震え上がる、若者たちを救い出すために!
「敵亜人連合軍見えました。密集陣形をとっているようです」
「チームアルファ、ベータ、ガンマ、シグマ。前に。突撃銃を構え。掃射」
また別のチーム。彼らが持つ兵装は突撃銃。同じくノイマンが開発した重火器。射程距離は三百メートルほどで、その精度、威力は絶大。肉をえぐり骨を砕く。それが何発も連続で発射されつづける。
硝煙と銃撃音が響き渡る。コボルトたちの阿鼻叫喚。ドラゴンが死亡しても、健気に密集陣形を取り続けていたことが仇となった。
突撃銃の銃弾は貫通し、後ろの列に並ぶコボルトを撃ち抜く。長槍など役には立たない。射程距離が、手数があまりにも違いすぎる。
これは戦争ではない。ただの蹂躙。ノイマンという天才は変えたのだ。この世界の常識を、当然のようにあった戦場の常識を。根底から覆した。
気づけば死屍累々。転がりうめき声をあげているものもいる。即殺すにはやはり首を刎ねるのが一番。しかしいずれ彼らは死ぬ。臓物撒き散らし、無様に───。
「オルヴェリィィィィィィィン!!」
咆哮。猛々しい雄叫びが響き渡る。飛び込んできたのだ!あれだけ苛烈な攻撃を見せながら、決して怯むことなく、とてつもなく素早く照準を合わせる暇さえなく、騎士たちを蹂躙する!コボルトの一人だが、先程銃殺したコボルトたちとは明らかに動きが違う!
「俺は許せぬ!己が楽観的な物の見方に!若き命を無駄に散らせたことに!だがタダで済ますと思うな!お前たちは皆殺しだ!我ら同胞の仇、その身をもって償うのだ!!」
フェンは瞬時に兵器の特性を理解した。全方位に意識を集中。一撃でも貰えば致命傷足りうると理解している。故に、射線を意識し、決して止まらない。疾風の如く、かまいたちのように切り裂く、切り裂く。まるでバターのように。
宗十郎はコボルト部隊の後退をフェンに任された。快く受け入れる。フェンの気持ちは痛いほど分かるからだ。同胞を傷つけられ、怒りに燃えている!幸いなことにコボルト部隊は全員が即死しているわけではない、故に宗十郎は鼓舞するのだ!
「死ぬ気で退け!貴様たちの大将は命を賭して貴様らを救おうとしているのだ!それに報いよ!立てぬならば這ってでも進め!生きて、生きてお前たちの大将に感謝伝えるのだ!」
サムライブレードを地面に突き刺す!ブシドー展開!蜘蛛の子散らすようにバラバラになったコボルトたちはようやく一箇所に集合してくれた!
「多少、荒っぽくなるが耐えろよ!何、足早に治療することが一番の生存策であろう!」
突然地面がくり抜かれた!ブシドーにより土砂をブシドー連結させ固定化、そしてそれを仮組みの足場としたのだ!
「ハンゾー!後は任せた!」
その巨大な円盤状の足場を、コボルト達を乗せた足場を宗十郎は思い切りぶん投げた!回転し集落へと吹き飛ばされる固定された土砂の足場!集落からネットのようなものが現れた!あれはハンゾーの忍術に違いないと確信したのだ。
ひとまずは救出成功……とは言い難い。足元を見ると、コボルトの死体が何人か転がっていた。耐えれなかったのだ。それでも息があると信じ、可能な限り、足場に載せたが……ブシドーで分かるのだ。絶命していることに。
「南無……許せよ戦士。今は戦場。焼香をあげる時間はない」
加勢しなくては。フェンにコボルト撤退の報を伝えなくてはならない。
それはまるで旋風のようであった。銃器という強大な武器、当たれば確実に致命傷。ただ狙いを定めて引き金を引くだけの簡単な殺戮兵器。だというのに、当たらない、当たらない!弾丸は全てフェンを掠めることすらしないのだ!
フェンはその高い知能と洞察力、そして数多の戦いの経験から騎士たちの持つ武器の性質を理解した。確かに当たれば致命傷。恐るべき兵器。
宗十郎にとっても予想外だった。見事な立ち回り。騎士の動き全てを把握し、射線に入る前に移動し攻撃へと移る。まさしく獣の如くその立ち振舞、しかしその本質は極めて理性的な武に通じるものであった。
加えて彼らは銃の扱いに慣れていない。おぼつかない仕草で撃ち続け弾切れを起こしリロード。そのタイミングも完全にフェンは把握し、その隙を逃さなかった。流石はコボルトの長、人類の叡智である銃器を前にして、一歩も引けを取らない戦いだった!
ハンドサインの合図を送るものがいた。騎士たちが下がり、その男は前に出る。
奴が指揮官───。
フェンは吠える。それでいて頭の中は驚くほどに冷静。今までで最高のコンディションだった。今、ここでこの男を殺せば、コボルト族の名誉は───。
「絶剣、地流し」
それと同時に、フェンの動きが止まる。
フェンの首は既に胴体から離れていた。遅れて、胴体がどさりと地面に落ちる。一刀両断。フェンの動きを完全に見切り、流れるような動きでヨシムラはその首を刎ねた。凄まじい絶技。
「な……今のは……ッ!」
宗十郎は信じられぬものを見た。
フェンは決して弱くはなかった。強く賢明で義に溢れた戦士だった。しかし、此度は相手が強すぎるのだ。認めたくなかった。その技の冴え渡りは師匠の姿さえも彷彿させたのだ。
「ブシドースタイル……!」
そう、なによりも構え、技、立ち回り。その一連の流れはまさしくサムライブレードタクティクスが一つであった。腰に携えているのはサムライブレードそのものであった!自分と同じブシドーがいたのだ。この世界に、師匠以外にも!
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