異郷者たち
───オルヴェリン中央庁。玉座の間へと五代表たちは向かっていた。
「おやぁ?五代表の皆様がた、どうしました?そんなに急いで老い先短いのだから無理なさるな?」
「ノイマンか……我々は忙しいのだ。お前に付き合っている暇はない」
嫌味ったらしく語りかける男は異郷者ノイマン。このオルヴェリンに超常的技術をもたらした大天才である。彼の登場で、オルヴェリンは飛躍的に進歩したと言っても良い。
「嫌だね、これだから凡夫は……余裕がない。頭が悪いからそうして必死に動き回り非効率に物事を進める……あぁ失礼!今のは暴言かな?いやいや事実が暴言になる……天才故の悩みだよ。まぁそう睨むな。私も同じだよ、目的地はね」
ノイマンもまた玉座の間へと向かっていた。五代表たちは舌打ちをして足を進める。そして重い扉を開けて玉座の間へと入っていった。玉座の間はオルヴェリン全てが見渡される高い場所にある。一面ガラス張りで、その広い街の様子が一望できるのだ。
そこに一人の男が立っていた。宗十郎を襲った黒き男である。
「エムナ!どういうことだ先程の始末は!?宗十郎は始末するのではないのか!!」
五代表の一人が声を荒げる。黒き男の名はエムナ。この地に降臨した異郷者である。
「やめた。あれは中々にして強敵だぞ?」
愉快そうに口角を上げてエムナは呟く。
「ほう!まさかエムナさんが苦戦するとは!いや、本当に素晴らしい!」
ノイマンの言葉に五代表は血の気が引いた。
エムナが苦戦をする。そんな相手が存在するなんて思ってもいなかったからだ。
「お、おいどういうことだ!我々はお前がいるからこうしてお前たちについたんだぞ!それが苦戦だって!?話が違うじゃないか!!」
「五代表どの?それは誤解だ。人間はな、幾千幾万の時を超えて、必ずやどんな困難さえも成し遂げる。それが人の美しさなのだ。俺という困難もいずれは乗り越えてくるのだ」
エムナは宗十郎のことを思い出しているのか興奮気味に語りだす。まるでオルヴェリンのことなど他人事のように。
「ふ、ふざけるな!何が人類の美しさだ!それに不味いぞ、宗十郎の消息を見失った!カーチェと一緒だ!あの女は我が国に疑念を抱いている!周辺で何を起こすか分かったものではないぞ!?」
「うむ、それはまぁいいとして。ブシドー……まったく知らない未知の力だ。その源流は人の力そのもの。なぁヨシムラ!お前、同じブシ?なんだろ?何か知ってるか?」
男が叫ぶと影から人が現れる。五代表は小さな悲鳴をあげた。気配一つ感じられなかった。この男は一体いつからそこにいたというのか。
「いやいやあっしは武士どは程遠い存在でさぁ……でもそうさなぁ……似だものどいえばサイトウ先生さ思い出すかなぁ……。んんだども、ありゃあまるっきり違うよ。まほう……っていうんかね?性質はあれに近えんじゃぁねぇの?」
「いえヨシムラさん。あれは魔法などではないですね。勿論!技術というにはあまりにも異次元!オカルトに近い技ですなぁ、いやいや科学者としては信じがたいが現実に起きている事象!凡才ならば現実逃避するところであるが天才の私は違う!」
異郷者たちはブシドーの話題に盛り上がる。彼らは全員知らない。その力の正体を。
「いい加減にしろ!緊張感がないのか!?カーチェは言うならば始まりだ!いずれ波及していくぞ……限界が近いことに!市民たちは暴徒となるぞ!」
「いいんじゃない?別に」
「なっ───!」
血相を変えて五代表は叫ぶが、それは簡単にあしらわれる。思わず言葉を失った。
「五代表どのは本当に人類に夢を見ているのだなぁ……いやいや微笑ましいよ。まるで何も知らずに箱庭で安寧を過ごす童女のようだとも。心配しなくても良い。人類は悪どく……そして残酷だとも。非人道な行為?それが自分たちの恩恵の糧と知れば、何かと言い訳をつけて正当化するものさ」
エムナは高らかに笑う。まるで気にもとめていない。それが人の本質だから。無関係の人の犠牲で成り立っている社会。
そんなことで心痛め本気で非難する人間はいない。自らの生活を犠牲にし正義を説くなど、ありえないのだ。
故に懸念すべきはブシドー。未知の力、予想がつかない。何をするかも分からない。
「なぁノイマン、宗十郎はやはり危険だ。俺がこの手で確実に始末すべきか?」
「あまりオススメはしませんなぁ。貴方はジョーカー。もしもというのがある故、科学者としては推薦しかねます」
ブシドーという未知の力。そこには計算外の要素があまりにも多い。ノイマンからすれば当然の答えだった。
「居場所もハッキリしていないのもあるしな……やはりジルの続報を待つか」
エムナとノイマンは残念げに頷く。意味がわからないのか五代表は声をあげた。
「ちょっと待ってくれ、ジルの続報ってなんだ!?何をした!?」
「おぉ、そういえば五代表どのには言っていなかったな。宗十郎と唯一同じ世界からの異郷者らしき男を捕らえるようにジルに指示したのさ。名前はたしか……ハンゾーだったか?彼からブシドーの何たるかを聞き出そうと思ってな」
勝手なことを……!そう思いながらも五代表たちは口に出さなかった。彼らのしたことに間違いはなかった。オルヴェリンの繁栄は彼らあってのことなのだから。
「うーん、そいじゃあ、あっしはこの辺で失礼するべーがねぇ、まったぐおっかねぁー連中ばりでおっかねぁーおっかねぁー、そんじゃまだ何が用事があったら呼んでぐれ」
「では私も、研究が山程溜まっているもので」
ヨシムラとノイマンは玉座の間から立ち去る。それを追うように五代表も立ち去った。
一人残されたエムナは遠い果てを見つめる。この世界での人間の行く末がどうなるのか、ただそれだけがエムナにとっての愉悦であった。
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