神を断ち切る剣
「宗十郎、本気ですか?神は私たちゴブリンの精鋭が挑んでも勝てなかった相手。あなたはオルヴェリンとは無関係でしょう?」
リンデは、恐怖に震えながら宗十郎に問いかける。
「貴様は知能が高いようだが、人の心の内までは察せぬようだな。オルヴェリンの為などというのは方便だ。元より拙者は、何年も貴様たちを苦しめ続けた外道を義憤の念に駆られ倒そうというのだ。貴様の為に力を貸す。故に黙って案内すればそれで良い」
宗十郎は、力強く宣言する。リンデは、宗十郎の言葉に言葉を失った。こんな人間がいるなど、想像だにしていなかったからだ。
「わ、分かりました。神はこの先の生贄祭壇の奥に───」
突然の地響き。周囲一体が震え上がり土砂がパラパラと天井から落ちてくる。何かが近づいてきている。とてつもなく大きなものが。道中ゴブリンたちを捕食しながら来ている。そこに分別はない。例えるのならば災害そのもの。
「案内は不要のようだ、来るぞ!総員構えよ!!」
宗十郎が叫んだ瞬間、壁が爆発した。そして中から現れるは巨大な怪生物!強靭な顎と巨大な目玉が宗十郎たちと目が合うのだ!あの顎だ、あの巨大な顎でこの洞窟を掘削し、ゴブリンたちを喰らいつくしたのだ!
「貴様が神とやらか!我こそは千刃宗十郎!貴様に立ち会いを申す!ブシドーであるならば正々堂々この一騎打ち、受けて立つが良い!!」
怪生物は宗十郎を無視し触手を伸ばす。触腕とも呼べるかその腕は、ここにいる全生物を狙っていた!だがそのようなことは許されない。宗十郎がいるのだ。かような触腕などものともしないのだから!
宗十郎はサムライブレードを振り回し触腕を全て切断!瞬く間もない出来事だった。出血!斬られた触腕から青色の血液が流れる!怪生物の血液である!
「痴れ者がッ!名も名乗らずとは恥を知れ!此度は貴様との戦い、受けて立つと申しているのだ!ならば名を名乗れ!名も無き怪物として、拙者に斬られることを所望か!」
確信した。この生き物には理性が存在する。であるならば対話が可能であることを!ブシドーとしての直感がそう訴えるのだ!
「何か戯言をほざく、活きの良い餌がいるかと思えば……名を名乗れだと?驕るなよ、貴様のような小物が、我と同じ立場で会話をするなど笑止千万。弁えろ、下等生物が」
その言葉に、宗十郎は怒りとそして笑みを浮かべる。
「ほう、なるほど。つまり、実力を示せということか。よかろう!ではその時には改めて問わせてもらうぞ、貴様の名を!!」
「愚かな。実力を見せる?既に我が胃袋の中にいる貴様がか?」
「神」は、宗十郎を軽くあしらおうとする。しかし、宗十郎の哲学には屈服の文字はない。この剣はそのためのものなのだ。
「ならば、喰らいつくしてみろ!この宗十郎の剣が、貴様の傲慢さを打ち砕いてくれる!」
サムライブレードを振りかざす。敵ならば神さえも断ち切る。それこそがブシドーなのだ。
「待て宗十郎!周囲を見ろ!」
カーチェは気が付いた。今は頭部しか見せないこの怪生物。胴体はどこにいったのか。違和感に気づいたのだ!視線を感じる!一つ二つ……無数の目玉が自分を見ている!既にこの部屋は……怪生物の巨大な胴体に囲まれていた。
あまりにも巨大なその胴体は、部屋の四方を完全に囲っていた。壁が崩れてその胴体が露わになる。
それは目玉、目玉、目玉!無数の目玉!悍ましく発狂しかねないその姿に思わずカーチェは顔を背ける。だが四方八方、怪生物に包まれているこの状況、目をそらしたところでまた別の目玉と目が合うのだ。
「あ、あああぁぁぁあ゛ぁ゛ぁ゛゛ぁあ゛!!」
ゴブリンたちが悲鳴をあげる!怪生物の悍ましい神気に触れて発狂した。
「舐めるなよ怪生物よ!このようなものは、我が祖国では日常茶飯事!児戯と知れ!かようなことなど……忍者一人にも劣る子供だましである!!」
サムライブレードにブシドーを注入する。
ブシドーの真骨頂である。バイオテクノロジーの最先端を行くサムライブレードはその組み込まれたナノマシンにより、ブシドーを力へと変える。
「貴様のような妖はブシドー数千年の歴史において既に討伐済み!此れはかつての妖バスターであるライコーの御業……秘中の秘、シークレットサービスである!」
ライコーとは正式名称ゲンジ・ライコー。かつて宗十郎の国に実在した妖バスターである。その倒してきた数は公式記録で万を超えるとされるが定かではない。
「受けよ!これこそがライコー秘伝の奥義!!」
ナノマシンは高速展開され、注入されたブシドーは大気中のクーロン力と連動し、サムライブレードに収束。
更に高速展開するナノマシンによりその電荷は極限までに高められ、一種の天災的超常現象を引き起こす。その輝きはまさしく雷光、鳴神の如し。サムライブレードに限界的に蓄積された電気エネルギーは雷となりて展開されていく。その技の名を……。
「紫電雷光ッ!ブシドーボルテッカー!!」
プシドーは数億ボルトの電気エネルギーとなりて大気中の絶縁を破壊し拡散していく。
恐ろしきはこれら全てにブシドーが込められているということ。それは即ち、雷もまたブシドー。生き物の如く制御されたその雷鳴は無秩序に周囲の味方を傷つけることは決してない。
轟くような激音、衝撃波。カーチェは唖然としていた。意味がわからなかった。目の前の男は剣士だと思っていたのだが、魔術師の類だったのか?
そう思わせるくらいの壊滅的な力。周囲一体は、自分たちを除き、雷撃で爆心地のように黒く炭化していた。
怪生物が迂闊だったのは目玉というあからさまな生物としての急所を露出していたことだった。ブシドーボルテッカーによりその目玉は全てブシドー電気により焼却され潰されていた。恐るべきは怪生物に非ず。異郷の力、ブシドーの力である。
だが、怪生物もまた異郷者。この程度でやられては矜持が許されない。たかが皮膚の表面を焼いただけで、得意顔をしてもらっては困るということだ。
しかし怪生物は今ので確信した。目の前の男は、自分の命に届きうる、怪物の類であると。
「なるほど、貴様も異郷者の類であったか。人の姿をして、その中身はまるで別物」
「否、拙者は人である。ただの人ではない、ブシドーである。ブシドーならばこの程度の技は朝飯前。改めて問おう!貴様の名を名乗れぃ!!」
そう、今のブシドーボルテッカーは挨拶代わり。力を見せつけるだけの、ただの小手調べ。怪生物の表皮を焼いただけに留まったのは決して宗十郎の実力が未成熟だからではないのだ。
「ふはは、なるほど。名か。貴様はどうやら我が名に拘る様子。ぶしどーと言ったか?良いだろう。我が名はファフニール。この世界に喚び出された異郷者と呼ばれる存在である。この世界を知るためにしばし身を潜め、暇つぶしにゴブリンどもをからかっていたのよ」
巨大な百足のような怪物、ゴブリンたちの崇拝する「神」、ファフニールは、宗十郎に語りかける。その声は、高圧的で傲慢だった。
「で、あろうな。貴様のその体躯。聞いた話の食事量で到底賄えるものではない。聞いたことはある。高次元の存在であれば、そもそも食事すら不要であると」
宗十郎はファフニールの言葉を冷静に分析する。
「高次元、なるほど良き表現だ。そのとおりであるぞ宗十郎よ。我にとって食事など不要なもの。ただ、我が姿に怯え震えながら律儀に生贄を持ってくるゴブリンどもが愉快であっただけよ。ああ、楽しきかな。生贄が足らぬと言ってゴブリンども自ら生贄になる様子。至極のものだったぞ?次は自分の番かもしれないと、日に日に衰弱する彼らを見るのはな」
人々の、ゴブリンの犠牲はただの戯れに過ぎない。日によって必要な数が変わるのも当然のこと。ゴブリンの慌て怯える姿を、ただ娯楽として見ていただけに過ぎなかったのだ。
「楽しめたぞ、ゴブリンども。だが終わりだな。もっと面白いものを見つけた。宗十郎。貴様のような異郷者は他にもいるのだろう。ゴブリンを虐げるのも良いが、やはり低次元の相手ばかりでは腐る。貴様のようなものを相手してこそ……我が力は輝くものよ!!」
そう言うと、ファフニールの胴体が輝き出す。変化をしているのだ。
否、正しき姿に戻ろうとしている。今の巨大百足のような姿は仮の姿!その真なる姿は……。
洞窟が崩れる。いや、崩れるのではない。ファフニールの巨大な身体によって洞窟の内部ごと吹き飛ばすのだ。
空が見えた。洞窟のあった山はファフニールが元の姿に戻ったことにより大穴が空いたのだ。
「さぁ宗十郎よ!我を倒すのだろう!?来るが良い!貴様の言う正々堂々の一騎打ち!承知した!受けて立とうではないか!!」
天空にその巨大な翼を広げ咆哮するその姿は巨大な竜であった。威風堂々たるその姿は、まさしく大空の支配者と言って差し支えない!
「よくぞ申した!ファフニールよ!これより貴様と一騎打ちを受けよう!この身体、塵芥となるまで、魂擦り切れるまで、雌雄を決しようぞ!!」
その言葉を受けファフニールは不敵に笑う。そして喉元が膨れ上がった。大気の膨張、瞬間的なエネルギーの爆発。灼熱のドラゴンブレスである。宗十郎のいる洞窟目掛けてブレスを叩き込んだのだ!その熱量は火山の噴火に相当する天文学的なエネルギー!
ブレスが視界全体に広がる。この程度の熱量であれば、ブシドーは耐えられる。温泉サウナで鍛え抜かれた忍耐力がものを言うのだ。だが他のものは即死しかねない。故にこのブレスは多少のリスクを背負ってしても、受け流さなくてはならないのだ。
「良いか宗十郎。ブシドーとは弱き者の剣とならなくてはならない。弱いからと言って、見捨てるようでは半人前のブシドー。誉れあるブシドーは、全てを救って見せるのだ」
亡き父の言葉が浮かぶ。他者を守りながら立ち回れてこそ一流なのだ。
サムライブレードにブシドーを再注入!ブシドーボルテッカーをアンインストールして新たなる力を導き出す!
訓練されたブシドーはあらゆるものを切断することが可能である!例えそれが実体のないエネルギーの塊であろうとも!
「父上!いざ刮目してください!これが拙者の成長の証でありますぞ!この切っ先、空穿ち星貫くものである!」
サムライブレードのナノマシンを空間散布!これにより周辺はサムライブレードと一体となる!シンプルな迎撃!技とも言えぬ単純明快、猪突猛進!
ファフニールのドラゴンブレス目掛けて、宗十郎は突きを放つのだ!衝突するはサムライブレードとドラゴンブレス!ブシドーは決してドラゴンブレスに劣るものではない!故にそれは自明の理であり、拮抗勝負のように見えたそれはドラゴンブレスの霧散により幕を閉じたのだ!
即ち宗十郎の突き一撃で、ファフニールのドラゴンブレスを打ち払ったのだ!
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