関ヶ原の残影、死してなお異世界を翔ける ―誓いの刃胸に秘め武士道貫く異界譚―
@WhiteMoca222
男の名は千刃宗十郎
時は戦国、場所は関ヶ原。漢と漢が雌雄決する
今ここに一人の武士と大名一同がいた。迫りくるは千の忍者部隊。こちらは死屍累々。負傷者多数。最早、風前の灯火。
「皆の者!よくぞここまで付き合ってくれた。俺はこれより投降する。大将首さえ取れれば深追いはしないはずだ」
彼らが大将である
「何を言いますか。我ら一同、殿に仕えた身!この身、例え引き裂かれようとも命尽き果てるまで殿を守り続ける所存!どうか!どうかそのようなことを言わないでくだされ!!」
家臣たちは主君である網利の言葉に涙を流しながら応えた。彼らは運命共同体。その先が例え死地であろうとも、引けぬ時がある。家族同様。どうして血を分けた同胞が死を覚悟して、黙って立ち去ることができようか。
「……そうであります殿。生きるとすればそれは殿。我らブシドーは殿の刀。生まれてこの時まで殿のために力尽くすさだめ」
男の名は
「宗十郎……だがしかし、無駄死には許さぬぞ。迫り来るは千の忍者、振り切れぬ」
忍者とはサイバネティクスバイオテクノロジーの粋を極めてエリート集団。ブシドーとは異なる忍術なる奇怪な技で戦場駆け巡る恐るべき戦力である。その数、千。
「殿、今まで御身、携わり感謝の至り。拙者、主君に恵まれ至極感激でござった。殿は振り向かず、ただ走ってください。ここは拙者が……しんがりを務めさせて頂きます故」
網利の言葉に宗十郎は笑う。その瞳に一点の曇りなし。迷いなどは微塵もない。
網利は悟る。宗十郎の決意。否が応でも理解できるその決意を・
「なにっ!?宗十郎!ならぬぞ!迎え撃つのであれば我々で迎え撃つのだ!宗十郎!!」
家臣たちは宗十郎の意を汲み網利を早馬に乗せる。だが網利はこれを許さない。彼は優しき男であった。戦国の世に生まれるには、あまりにも早すぎた、優しすぎる男であった。
───嗚呼、良き主君。優しき主君よ。拙者は幸せの至りでござった。ブシドーと云うは死ぬことと見付けたり。拙者の死地はここであった。敵は千の忍者部隊、更に控える万の軍勢。こちらの戦力は一人。勝てぬ。勝てぬ戦い。それがしんがりというもの。だがそれでよし。戦い戦い戦い抜いて、主君の明日を切り拓くのだ。
宗十郎は
早馬に乗せられ、走り去る殿の姿を確認し宗十郎は安堵する。迫りくる忍者部隊。憎きトクガワの犬!
「止まれぃ!今、ここに策も謀りもござらぬ!正々堂々、ブシドーとしてここに立つ!」
忍者部隊の司令官はその叫びを聞いて立ち止まる。
「お見事、天晴。お主のブシドー、とくと受け止めた。某は忍者、ニンジャコマンドー、ハットリハンゾー!徳川に仕えしニンジャマスターである!ブシドーよ!名を名乗れ!」
「我こそは千刃宗十郎!此度は主君のしんがりを承り奉った!我がブシドー、サムライブレードに恐れぬ者はかかってくるがよい!」
宗十郎が握りしめるサムライブレードと呼ばれる武器はブシドーの本懐。魂とも呼べる。永遠とも呼べる眩い輝きを放つ剣。それこそがブシドー足る所以である。
「よくぞ言った宗十郎!貴様のブシドーに感服至極!正々堂々!推して参ろう!」
一斉に鳴り響く笛の音に、千の忍が宗十郎に襲いかかる。今、この瞬間、一人の
激しき戦いだった。
幾重にも張り巡らされた嵐の如く苛烈な戦場。しかしそれも静まる。死屍累々が残り、二人の漢が今、立っていた。
「み、見事だ宗十郎。我が忍者部隊、よもやよもや全滅とは!」
宗十郎とハンゾーである。宗十郎はハンゾーに介錯ブレードをエンチャントする。介錯とは作法。ブシドーの侘び寂び。戦場のルールである。
ハンゾーはこれにより生命活動を停止させ消滅。忍者生命を終えた。
だが……これで終わりではない。忍者部隊の後ろに控える万の軍隊。ブシドー軍隊。
宗十郎は満身創痍。忍者との戦いにより気力で動くのがやっとだった。
「逃げてください、殿……この身体動き続ける限り……しんがりを務めます故……」
万の軍勢が見えてきた。勝てぬ事はわかりきっている。忍者部隊相手にここまでやれただけでも大金星。あとは可能な限り、せき止める。
サムライブレードを握る手に力が籠もる。そう、宗十郎の戦いはこれからなのだ。
「いざ参らん!我こそは千刃宗十郎!殿のために、汝らを打ち倒す剣であるッ!」
叫びながら駆け出す。この命燃え尽きるまで、敵を一人でも殺し切るために。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおお…………おぉぉぉお?」
軍勢に向けて駆け出した筈だった。命が終わっても良いと思っていた。
だが、その先には何もいない。万のブシドーが消えていた。
先程の血と硝煙と魂散らす戦場とはまるでうってかわり、まるで平和な世界。青い空、豊かな緑。燃える大地はどこにもなく、悲鳴が少し聞こえるだけ。
どうやら村が野盗に襲われているようだったが、それは宗十郎にとって見慣れたものだった。
「奴らはどこに……?」
唖然とする宗十郎に関係なしに、悲鳴が木霊する。男は殺され、女は攫われる。
見慣れた光景だった。見慣れぬことがあるとすれば……。野盗が見慣れた姿でないこと。肌の色が違い背丈は低い。小人の類に見えなくもない。聞くところの蒙人が似たような姿だと宗十郎は聞いていた。
彼が思案していると複数の小人に取り囲まれていた。
「…………む。」
そしてその一人が宗十郎へと襲いかかる。しかし、まるでその動きに精錬さはない。まるで羽虫のようだった。こともなげに頭を掴み取る。
「それは武器か。戦場で武器を振るう意味、理解できているな。降伏の意思も感じぬ」
掴んだ頭を宗十郎は握りつぶした。脳漿が飛び散る。即死したのだ。
「なんだ貴様ら、ブシドーではないのは明白。失せよ、今は主君を救うのが最優先」
小人たちは仲間が殺され怒りの表情を浮かべて同じように宗十郎を取り囲む。しかし仲間の無惨な死体を見てか、迂闊には飛びかかれない様子だった。
「失せろと言っているだろう!貴様らとはレベルの次元が違うのだ!」
宗十郎の叫び声に反応したのか村を襲う小人たちの注目を集める。宗十郎の足元には死体がある。そして手は脳漿で汚れている。明白だった。
「どなたか存じませんが助けてください!ゴブリンに襲われていまして!」
宗十郎のよく知る背丈の者が助けを求める。見覚えのない格好だった。何より家紋をどこに記しているのか皆目見当もつかなかった。これでは敵か味方かも分からない。
───ごぶりん?知らぬ名だ。どこぞの特殊部隊か。それにしては歯ごたえがなさすぎる。だが、奴らの怒りは感じた。同胞が殺され、怒りに震えているのだ。
束の間の思案。そして結論を出した。ここが戦場であることに変わりないのならば、為すべきことは一つなのだ。
「なるほど。良いだろう来るが良い!我が名は千刃宗十郎───」
名前を言い終える前にゴブリンは飛びかかる。当然である。彼らにとってそんなものは不要なのだ。ただ本能の行くままに、動くのだ。
宗十郎は怒りに震えた。裏切られたのだ。名を名乗りもせず不意を打つ卑怯者。ブシドーの風上にも置けぬ外道。決して許されぬ悪逆。
飛びかかったゴブリンたちは真っ二つに引き裂かれる。サムライブレード?否、違う。手刀である。極限に高めたブシドーをその手に込めることで、凶器と化す。
「消え失せろッ!この外道どもッ!貴様らに見せる朝日はない!!」
哀れにもゴブリンは宗十郎のブシドーによりバラバラに切り裂かれ、無惨なミンチとなった。凄まじきは宗十郎の手刀である。ゴブリンの骨ごと両断したその巧みなる技は、まさしくブシドーの証である。
「お、おぉぉ!誰かは知りませんがありがとうございます!さぞや名のある方で……」
「次はお主か!我こそは千刃宗十郎!さぁ名を名乗れ武士よ!さぁさぁさぁ!」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
サムライブレードを取り出し名乗り上げる。だが男は悲鳴をあげて逃げ去った。
「戦意を失い逃走など武士の風上にも置けぬ奴。だが……とはいえ逃げ惑うものの背中を斬るのはブシドーに非ず故」
宗十郎はそう呟きサムライブレードを収め残心する。
彼が改めて周囲を見渡すとそこはのどかな田園風景。戦場ではないことは明らかであった。
おそらくは決死の覚悟で行った忍術の類。ハンゾーのサイコアタックなのだと推察した。
「敵ながら最後まで主君に尽くす、命を賭して戦い抜く覚悟は天晴!」
して、この忍術を破るには如何にすれば良いか、宗十郎は解決策を見いだせないでいた。
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