あの事故から好感度がわかるようになった俺が、気になるあの子の好感度を0から100に上げるために頑張る話
ももぱぱ
第1話 好感度0%のあの子
「自分に対する好感度がわかれば恋愛なんて簡単なのに!」なんて思ったことある? あるとすればそれは間違い。好感度なんてそうそう上がるもんじゃない。実践している僕が言うんだから間違いない。
イケメン、お金持ち、スポーツ万能、おもしろい、何かしらの武器を持っているヤツはいい。別に頑張らなくたって最初から好感度が高いんだから。
だけど、僕みたいに戦う武器を持っていない部類の人間は、好感度がわかるくらいじゃそいつらに太刀打ちできないんだ。そう思ってた。あの子に会うまでは。
〆〆〆
「はい、私はこのクラスを担当することになった一ノ瀬綾よ! 趣味は映画鑑賞、特技は英語ね! 今年一年間、みんなが楽しく過ごせるように頑張るから、よろしくね!
それじゃあ今からみなさんにも自己紹介をしてもらいます! ほらほら、文句言わないの! 出席番号の一番から始めるわよ! はい、青木君お願いね!」
高校入学初日。このクラスの担任だと自己紹介をした一ノ瀬先生が、入学初日に行われるイベント堂々の第一位であろう『自己紹介』を強要してきた。
自己紹介と聞いて、男子連中はブーブー文句を言っているが、若くて可愛らしい担任に当たってまんざらでもない顔をしている。
ご指名を受けた青木君は、先頭バッターとは思えないほど流暢なしゃべりで自己紹介を始め、何ならちょっとしたギャグなんかも織り交ぜながら笑いを取っていた。
うん、あんな風にしゃべれるなんて羨ましい。
その後、無難な自己紹介が数人続いた後、一人の女子生徒の番になった。彼女が立ち上がって振り向いたときに、教室にざわめきが起こる。
「私の名前は
美人。正真正銘の美人。黒い艶やかな髪を腰まで伸ばし、色白で、切れ長の美しい目で辺りを見回す。
鈴を鳴らすような声で自己紹介をした後、お上品にフワッと席に着いた時に、みんなが同時に息を吐くのが聞こえた。アイドル顔負けの美しさに、みんな息をするのを忘れていたようだ。
続けて自己紹介した男子が動揺して噛み噛みだったのは致し方ないだろう。
しかし、この教室の空気を全て持っていってしまったかのような彼女の後にしゃべるのは、あがり症の僕にとってもかなり辛い試練になりそうだ。
その後も自己紹介は続き、僕の番まであと一人となった。目の前の小柄な女子が立ち上がる。
「
クラスメイトの方を向くことなくしゃべりきった彼女に、教室がシーンと静まりかえる。
何てことをしてくれたんだ!? あまりにも他人を寄せ付けない自己紹介に、周りがドン引きしてるじゃないか!
神崎優女の余韻までかき消す強烈な自己紹介の後に、俺は一体何をしゃべればいいんだ!?
この状況で、事前に考えておいた『趣味も特技もありません』を重ねる勇気は僕にはない!
しかし、よいアイディアがすぐさま思いつくわけでもなく、順番が来た僕はその場にのろのろ立ち上がる。
「あ、あ、あの。ぼ、僕の名前は
クラス中がドン引きしている中で、コミュ障の僕が自己紹介をさせられる。何の罰ゲームだこれ。ただでさえ人前でしゃべるときには詰まりがちなのに、この状況じゃまともに言葉を発することすらできなかった。
おまけに、言いたくもない趣味と特技をバラすはめになってしまった。おのれ、香月花恋め!
さて、僕が自己紹介をしたことで、一応、クラスのみんなに僕という存在が認識されてしまった。ここからは、僕にとってつらい時間が始まる。
僕には過去に経験したある出来事以降、他の人にはない特殊な力が備わっていた。それは、『他人から見た自分の好感度』がわかるという力だ。
現に自己紹介をした後から、みんなの頭の上に0から100まで数字が浮かんでいる。あ、いや、最高が100って意味で実際は100ところか50を越えている人もいないんだけどね。パッと見回すと11、10、12、13、10と軒並み低い数字が並んでいる。これが彼らの僕に対する好感度なのだ。まあ、あの自己紹介じゃこれだけ低いのも仕方ないよね。
僕は生まれてからずっとこの数字に悩まされている。
何せ、この好感度が50を越えたのを見たことがない。もし僕に両親がいたら、もっと高い数字を見ることができたかもしれないけど。
そしてこの好感度が低い原因はわかっている。人よりも小柄で華奢な僕は男なのに頼りない。顔も特段かっこよくないし、しゃべればいつも緊張して言葉に詰まる。その自信のなさを隠すように前髪を伸ばし、眼鏡をかけているのだ。こんな地味な僕に好感を抱く人物なんているわけがない。
大体が十台。酷いときになると一桁ってこともありえる。自己紹介に失敗し、ため息をつきながら椅子に座る。その時、目の前に座る香月花恋の頭の上に、燦然と輝く0という数字を見てしまった。
(おいおい、まじか。0何て初めて見た。今までも一桁はあっても0何てことはなかった。これはあれか、完全に僕に関心がないということなのか)
この香月っていう子は、自己紹介で宣言していた通り、人と関わる気がないのかもしれない。僕も学校ではいつもぼっちだが、一人で生きていきたいと思ってるわけではない。
一体彼女に何があったのか。なぜそこまで他人を拒絶しているのか。0という数字を見た僕は、彼女に興味を持ってしまった。あの数字を上げてみたい。できることなら、100にしてみたい。そんな気持ちが芽生えてきたのだ。
(まあ、地味で陰キャな僕に女の子からの好感度を上げること何てできるわけないけど)
香月花恋の頭の上に浮かぶ0という数字を見ながらそんなことを考えていた僕の耳には、その後も続く自己紹介の声は全く入ってこなかった。
「うん、それじゃあ、今日の学活はここまでだね。みんな帰りのホームルームの準備をしてね!」
今日は入学式の後、学活のみで下校となる。その帰りのホームルームも担任の一ノ瀬先生が進め、明日の連絡を聞いて解散となった。
「ねぇねぇ! 神崎さん、お友達になりましょ!」
「あっ、ずるい! 私も仲間に入れて!」
「神崎さんってどこの中学校出身なの?」
「神崎さんすごく綺麗。羨ましいわぁ」
帰りのホームルームが終わると、クラスの大半の女子が神崎優女を取り囲んていだ。その周りを遠巻きに男子が眺めている。もう、クラスのカースト制度が出来上がったみたいだ。
陰キャの僕はクラスのカースト制度には敏感だ。いじめられないためには、カースト上位から悪く思われないことが大切だからね。できるだけ、好感度が下がらないように気をつけている。このときだけは、僕の特別な力が役に立つ。
しばらく神崎さんの周りを取り囲んでいたクラスメイト達だったが、さすがにあまり拘束するのも悪いと思ったのか、ようやく解放してあげるようだ。
それにしても、最後までお付き合いしてあげる神崎さんのなんと優しいことか、顔良し、性格よし、これで勉強できたら完璧超人だな。
そんなことを考えながら、何気に立ち上がった神崎さんを見て僕は凍りついた。いや、正確には神崎さんの頭の上に浮かぶ数字を見てだが。
『90』
僕はあまりのショックにめまいがして、しばらく立ち上がることができなかった。
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