四章 令嬢のイヴ④
「……変わりモンだな。アンタ」
「そうでしょうか……? あっ、気に障ることを仰っていたら申し訳ございません」
「……別に、構わん……」
イヴは慌てて頭を下げたが、オニキスのまんざらでもなさそうな声にホッとすると頭を上げた。
「それで、俺に何の用だ? 用があるから呼んだんだろう」
「は、はい。あの……グランツからお話が通っているかと思うのですが、厨房の一角を私に貸していただけないでしょうか? グランツのために、アプフェルシュトゥルーデルを作りたいのです」
事情を説明すると、オニキスは思い当たるところがあるのか『嗚呼……』と小さく声を上げると頷いた。
「旦那様から話は聞いてる。……本来なら厨房に関係者以外は入れんのだが、アンタだったら……まあ、良いだろう」
嫌な顔をされるだろうかと、不安に思っていたイヴだったがオニキスはジーッとイヴを見つめた後小さく頷いた。
「アンタは変わっとる。変わりモンは嫌いじゃない」
「変わりモン……ですか?」
粗暴な言葉ながらも、褒められているのかどうなのか分かりづらい言葉に小首を傾げる。グランツの口添えもあるかもしれないが、『こっちに来い』と早速手招きするオニキスの姿にイヴは後を着いて行った。
何故か他の料理人達がざわついているのが少しだけ気になったものの、イヴは呼ばれた場所に行くとオニキスを見上げた。
「オニキスおじ様、此処をお借りしても?」
「嗚呼。道具はひと通り揃っとる。林檎もな。……作り方は分かるか?」
「本を読みながらならなんとか……」
「それじゃあ駄目だ。本を傷めちまうし、なにより旦那様の好みに合わせられねぇ。誰が作るかも重要だが、ファブリーゼ家にはファブリーゼ家代々の味がある」
「伝統と信頼のあるお味ということですね!」
「そうだ。意外と物分りが良いじゃねぇか」
イヴの言葉に、オニキスはニィと獰猛な笑みを浮かべた。
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