二章 イヴとグランツ⑨

「ブルタール・フォン・リセッシュの第一子でありながら、あまり恵まれた育ちをしてこなかったのだな」

 リセッシュ家の使用人からイヴに関する話を訊くにあたり、喋る気配がなければ金でも握らせるつもりでいたが、セレンディバイトが言うには涙ながらにファブリーゼ家に迎えてくれたことを感謝をされたという。

 司書――オルヴァは言った。

 誰よりも心優しく、本が好きで物静かな子どもであったと。ただ一度だけ強く『お願い』をしてきたのが、『嫌な“臭い”がするから大きな病院に掛かって欲しい』とそれだけ厳しい口調で言われたのが初めてだったという。イヴの言葉を信じたオルヴァは休みを取り病院に赴くと、初期のクレープスであったと診断された。

 シェフ――キースは言った。

 奥様の言いつけで、逆らえずまともな食事を作ってあげられなかったのが心残りだったと泣きながら悔いていた。食べ物はいつもクズ野菜のスープとパンだけで、義姉様達が召し上がるようなデザートを出してやれなかった。だがそれでもイヴはお礼を言い、丁寧に食べていたという。

 侍女――オリエッタは言った。

 いつも母親の形であるキルシェブリューテの髪飾りを大事にしていたという。服も侍女達と変わらぬ衣服に身を包みながら、時には義姉によって侍女の真似事のようにこき使われていた。

 それを目の当たりにしながらも止めることができなかったと涙ながらに語った。

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