二章 イヴとグランツ⑧
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それは夕食前に細かな雑務を終わらせようと、執務室に戻った時のことだった。
「グランツ様、只今戻りました」
「ご苦労。セレンディバイト」
あることについて調べるようグランツはセレンディバイトに命令をしていた。それはイヴの生家での過ごし方についてだった。
アフタヌーンティーでのマナーを見ていて思ったこと。そして“黒豚”という蔑称で呼ばれていたこと。そう言った諸々のことが気掛かりとなったグランツは、調べられるだけリセッシュ家の情報を集めさせていた。
「……茶会の時、オブシディアンが合図をしてくれて助かった。でなければイヴに怖い思いをさせていたかもしれない」
「グランツ様は意外と表情に出やすいですからね。調べ上げたこと、見聞きしたことはすべてこちらの書面にまとめております故、お目通しください」
「嗚呼。……あちら側の使用人とは話せたのか?」
「はい、幾人とは……。司書を勤めているオルヴァという者がイヴリース様のことを特に気にかけておられました。なんでも昔、大病になりかけたのを救って貰った恩義があるとか」
「ほう……?」
「興味深い話でしたよ。なんでも病があることを“匂い”で言い当てたのだとか」
「“匂い”で……? 魔力や魔法の類じゃなく?」
「ええ。少なくともオルヴァはそう話しておりました」
「…………」
セレンディバイトの言葉に思わず沈黙する。
そんなことがあるのだろうか。
“匂い”ですべてを見通すなどということが……。
無自覚に行ったことだとしても、興味深いその話を頭の隅に留めておきながら、グランツは資料に順番に目を通していった。
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