二章 イヴとグランツ④

アフタヌーンティーを終えて、シンシャと共に戻ってきたイヴは広い天蓋付きのベッドに座ると着替える間もなくグッタリと脱力した。

「せっかく楽しいお茶会にしたかったのに……」

 気付けば泣いてしまっていて、きっとグランツを困らせたに違いない。そう思うと再び気持ちが沈んでしまう。

「元気を出してください、イヴリース様。グランツ様はむしろイヴリース様のお口から話して頂いたことが、喜ばしいことだと思っていますよ」

 間者や他者を介しての言葉より、本人から聞いたほうが早くそれが真実だ。勿論偽り謀る者もいるだろうが、少なくともイヴリースはそんな令嬢ではないと、シンシャも感じていた。

「グランツと、またお茶会はできるかしら」

「お茶会どころか、夕食も一緒にできますよ」

 お茶会はまだ最初の一歩を踏み出したに過ぎないのだ。お互いを知るには、距離を縮めるにはまだまだ時間も言葉も足りない。

「あ……、あれ……」

 ふと遅れて、自分が利き手をずっと何かを握り締めていたことに気が付いた。そっと開くと、それは白いハンカチでイヴの涙を拭うためにグランツが渡してくれた物だった。ハンカチを開いた手の平からは上品な香りが漂い、その香りは紛れもなくグランツの“匂い”だった。

(なんて落ち着く香りなのかしら……)

 イヴはハンカチを顔に近づけるとスンとひと呼吸すると、嗅いだことのないいい匂いに酔いしれる。

 抱き締め包んでくれたグランツの全身からは、嗅いだことのない不思議な匂いがした。その香りがこのハンカチにも移り香として残っている。

(まるて、グランツが傍にいてくれるみたい)

 今は執務室へと行ってしまった想い人のことを考える。何故だろう。グランツのことを考えると胸の奥がボワボワと暖かい気持ちになる。

「イブリース様……?」

「…………」

 此方の身を案じるシンシャの声が遠い。

 気付けばイヴは、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る