豚令嬢〜散々豚と罵られてきた私が、辺境伯から寵愛を受けています?〜
櫻木いづる
序章
十六歳になった誕生日の夜。
イヴリース・フォン・リセッシュは珍しく、自分以外の家族が団欒している居間へと呼び出された。
普段、憩いの場にイヴリース――イヴは招かれることなどない。勿論、今日がイヴの誕生日であることすら誰も知らないし実父に至っては覚えてすらいないのかもしれない。
食事はいつものように簡素なパンとクズ野菜のスープだけだった。優秀な使用人のおかげでそれは美味しく仕上がってはいたけれど、心が満たされることは少なかった。
「お前はこの家の恥よ。イヴリース」
目の前に佇む派手な化粧を好む義母――ヘスリヒ・フォン・リセッシュは言った。
――恥。それは何度言われてきたことだろうか。
イヴにとっての恥とは、実母が大切にしていたリセッシュ家が没落していくことだと思う。だがその実母も、今はいない。数年前、流行病で急死し私一人を残して逝ってしまった。
「そうよ。
目の前に佇むのは、豪奢なドレスに身を包んだ義姉――フレアリーフ・フォン・リセッシュ。そして何も言うつもりがないと言わんばかりに此方に背を向ける実父――ブルタール・フォン・リセッシュがいた。
「リセッシュ家としての魔法もろくに使えない。物覚えの悪い醜女の居場所なんて、リセッシュ家にはないのよ」
「お母様の言う通りだわ。――イヴリース、目障りなのよ。貴女」
それは幼い頃より浴びせられてきた毒の言葉。
感情を、人格を否定する毒。
温もりのない冷たい言葉の刃がザクザクとイヴの心を切り刻んでいく。
「…………」
イヴは反論する言葉もなく――否、反論する気力など育むことができないまま、ただ言われるがまま、俯き耳を傾けていた。
反抗する様子のない様子に気を良くしたのか、二人の声はさらに大きく跳ね上がる。
『だから――』
声を揃えて二人は言った。
「辺境伯――ファブリーゼ家のもとへ行きなさい。二度とその顔を私達の前に晒さないように」
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