第27話

「ここ伊能まどかがよく行く店らしいぞ。本人が来てたりして」

クチコミで情報は広がり、客の数は少しずつ増えてきた。

啓也のバイトもかなり忙しくなって来た。


「銀行の融資続く事になったみたいじゃない」

「まどかさんのお陰です。沢山のお客さんを連れて来てくれたから」

「寧々でいいよ。前島君」

矢野が遅かったので寧々はまたあさゆうで夕飯を食べた。

そしてまた送っているのである。

「寧々……さん。」

前島は躊躇いがちに名前を呼んだ。

「ほら、シャキっとして。折角可愛い顔してるのに勿体ないよ」

「女の子は……苦手ででも寧々さんは

別……だけど」

「じゃあ、あの時は精一杯の勇気出してくれたのね」

あの時とは、寧々のマンションの前に高瀬涼が待っていた時の事である。

「何故キスしたの?」

啓也は立ち止まってしまった。

「そ、それは、僕はあなたが…… 」

寧々の表情は曇っている。

「慰めて……くれたのよね」

「…… 」

「お願い、そう言って。でないと私、あさゆうに行けなくなっちゃう」

「……そう。あなたが泣いていたから慰めただけ」

啓也の瞳には涙が浮かんでいる。

「ありがとう…… 」

寧々の声は涙で湿っていた。

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