アクター(第4部)

水島あおい

第4部

第1話

真理子が死んだ。

くも膜下出血で僅か40分で亡くなってしまっ

た。

真理子は撮影中に現場で突然倒れた。

直ぐに病院に運ばれたが間に合わなかった。

矢野一色も寧々もそれぞれ撮影現場から駆けつけたが、真理子は既に物言わぬ状態になっていた。

矢野は真理子に縋り付いて泣き崩れる寧々を力強く抱いていた。

「真理子…… 」

矢野は真理子の頰をゆっくり包みこんだ。

矢野の瞳から涙が伝って落ちた。


葬儀の日は雨だった。

真理子は43歳という若さで世を去った。

会場には芸能人や芸能関係者、ファンの人達など3000人以上が集まり別れを偲んだ。


結局1週間の忌引を取った後、矢野も寧々もそれぞれ仕事に戻った。

忙しい方が良かった。

寧々は部屋で台本を読みながら泣いていた。

矢野は寧々を抱きしめて思い切り泣かせてやった。

矢野も辛くてたまらない筈なのに、自分の事よりも常に寧々を気遣っていた。


寧々が長崎へ雑誌の撮影に行った時

矢野は一人で行きつけのバーでグラスを傾けていた。

「寧々ちゃん、少しは落ち着いた?」

隣から声がして見ると須田絵里香が座ってい

た。

「バーボン」

絵里香はそう言うと優しく矢野の肩を抱いた。

「少し落ち着いた」

「そう。で、あなたは?」

矢野は何も返さずウィスキーを飲み干した。

「悲しい時はちゃんと悲しんだほうがいいよ」

矢野の頰を涙が伝って落ちた。

「私で良かったらいつでも付き合うから」

「絵里香…… 泣いていいか?」

バーテンがさりげなくバーボンとウィスキーを2人の前に置いた。

矢野は肩を震わせて泣き出した。

絵里香が優しく矢野の背中を抱いている。

バーテンは邪魔をしないように少し離れた位置に移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る