第14話 運命なんて存在しない
「好きです!付き合ってください」
こうして男女は結ばれ晴れて付き合うことになりました。めでたしめでたし。
この一連の流れを人は「運命の出会い」と呼ぶだろう。
だが世の中の男女の大半は別れる。その場合、付き合っていた前より関係は悪くなることが大半だ。
SNSのフォロー解除、ブロック、学校でも目を合わせない。そんな話は飽きるほど聞いて来た。
そして俺、萩原ユウトも運命という言葉に踊らされていた一人である。
高校に入って初めて彼女が出来た。出会い?クラスが一緒で、向こうから何度か遊びに誘われた。そしてある日
「俺ら、良かったら付き合うか」
向こうが俺の事を好きだと確信した状態での告白。それも告白というよりかは意思確認の様な感じで付き合うことになった。
恋愛ドラマを見ていると二人を阻む壁があり、それを乗り越えて行くというストーリーが王道だ。
また恋愛アニメではお互いが好きなのに中々想いを伝えれない。そんなもどかしいコメディが繰り広げられる。
だが現実は別に会おうと思ったらいくらでも会える。放課後一緒に帰ったり、夜寝落ちするまで通話したり、側から見れば痛いと思われるかもしれないが、そんな日々が堪らなく楽しくて、いつの間にかそれが日常となっていた。
ただ内心分かっていた。この子はいつか別れる。結婚しないと。
逆に今出会ってしまったのが間違えだったのかもしれない。もし数十年後、例えば25歳の時に彼女と出会って付き合っていたら結婚していたかもしれない。ただ高校生で出会ったばかりにやがて訪れる別れるという運命に向かってただ突き進んでいるのかもと。
俺にはひとつ分からないことがあった。それは別れて気まずくなるということだ。
だって俺たちは今めちゃくちゃ仲が良い。男友達なら社会人になっても飲みに行ってるかもしれない程にだ。
もしかしたら高校卒業しても付き合ってるのかもな。
そう漠然と日々を過ごしていた。そしてある日突然
「ごめん、話がある」
そう言って市内の方の公園に呼び出された。家からは歩いて一時間以上はかかるので列車で向かった。
道中胸がざわついていた。大体話があるで呼び出されるってことは、基本何か悪い知らせがあるって事だ。
そして案の定
「ごめん、別れたい」
そう告げられた。「理由は他に好きな人が出来たから」だそうだ。
「分かった。今までありがとう」
「うん。私も楽しかった。またね」
そう言ってお互い別々の出口から公園を出る。そして気がつくと俺は泣いていた。
ただ適当に出会って、適当に別れた。運命でもなんでも無い出会いが終わった。きっとこの先の人生でも何回かそういうことが起こるのだろう。頭では理解しているが、今はただ別れたという事実が堪らなく悲しかった。
スマホケースの裏にある一緒に撮ったプリクラ、一緒に行ったカフェ、春にお花見をした場所、一緒に帰った通学路、一緒に座った列車の座席
どれもが走馬灯のように頭を過ぎる。
終電は21時32分。あと19分後らしいが、とにかく一人になりたい気分だった。両親は今日、旅行で大阪に行っている。つまり遅く帰ろうが誰も何も言わない。
目から溢れる涙を必死で堪える。そういえば泣くのは小学生以来かも
行く宛があったわけじゃ無いので、適当に商店街を突き当たりに真っ直ぐ進んだ場所にある久松山を目指す。彼女とお花見で行った場所だ。
「未練がましいな」
そう呟いて何も考えずに歩き続ける。
そして少し登った場所にある開けた場所にやってきた。鳥取とは思えない夜景がそこには広がっていて目を奪われる。
しかしすぐに飽きてしまい、近くの屋根付きの小屋で座って休んでいた。しばらくすると雨が降り始めた。一応雨予報だったので傘を持って来ていて正解だった。
そしてしばらくすると遠くから泣き声が聞こえて来た。初めは空耳か、お化けかと思ったが妙に聞き覚えのある声だった。
そして着ていたコートだけ濡れないようにベンチに置いて、気が付けば彼女に傘を差し出していた。
これが、今日お前と出会うまでの俺の行動だ。
彼女は俺の事を敵対視している様だったので出来るだけ詳細に答えた。
「つまりお互いとも傷心中って事ね」
彼女がそう言う。厳密に言えばアンタは振られたわけでも無いってツッコミたかったが、不意に向けられたイタズラそうな笑みに思わずドキッとする。
真面目かと思っていたが、意外とギャルっぽくて、でも真面目で芯が通っていて、そんな彼女に知らずの内に心を開いていた。
「さて、ここが我が家だ」
「普通ね」
「ごく普通の一般家庭だ」
そう言って鍵を開けて中に入れる。不意なこの動作に元カノとの思い出が一瞬過る自分が嫌になりそうだ。
「お風呂沸かすから先に入って」
そう言って彼女に濡れた体を拭く用のタオルを差し出す。
「ありがと。あとこれ、コート返すね」
そう言って彼女がコートを脱いだ瞬間、服から透けた下着が・・・
見えなかった。厚手のモコモコ部屋着なので当然っちゃ当然だが。うん確かにあれはフィクションなのだ。
そう残念そうな顔をする俺を不思議そうに見つめる彼女を横目に、お風呂のスイッチを入れた。
まだお風呂は湧いていないのだが、先にシャワーを浴びると彼女は先にお風呂に向かっていった。
リビングにシャワーの音が漏れ聞こえ・・・ることはなかった。
どうやら日本の建築は素晴らしいらしい。
そしてしばらくして彼女がお風呂から上がってきた。女性物の服が母親のしか無かったのだが、母のを物色してこれを着ろと言うのはなんか違う気がしたので、俺の服を渡したのだが、
エロい
当然男性モノなのでサイズが大きくてブカブカだ。まずそこがいい。そして全身で表現される圧倒的部屋着感。普段とのギャップに萌える。
「何じっと見てるの」
そう言われて意識を戻す。ただよく見ればめちゃくちゃ可愛い同級生の女子が家に泊まりに来ていて興奮しないわけが無い。そう思った瞬間にまた元カノの顔が頭を過ぎる。それで冷静さを取り戻して俺もお風呂に向かった。
当然の事ながら彼女の残り湯での葛藤が10分ほどあったのは言うまでもなかろう。
「上がったぞ」
普段同級生の女子に言うはずのない夫婦の様な会話に少し違和感を覚えるが、これが現実らしい。
「えっと、北の会長さん、お腹空いてない?」
ここで呼び方に違和感を覚える。そういえばずっとあっちの会長だの南の会長だのと呼んでいたな。
「南の会長さん、ペコペコです」
彼女も相変わらずの呼び方だ。ここは勇気を出して
「莉々菜!」
「は、はい」
思わず力の入った呼び方に返事をされてしまった。
「あ、いや、俺ら今までお互い会長呼びだったからさ、えっと〜その仲も深まった事だし、下の名前で呼んでも良いかなって」
俺が詭弁を垂れるようにそう若干早口で言うと彼女は吹き出すように笑った。
「確かに。じゃあよろしくユウト。あ、でも学校じゃ前の呼び方でね」
「分かってる。それぐらい。莉々菜こそ間違えるなよ」
なんだこの甘酸っぱい空間は。
「ところで莉々菜さん。今日は土曜日な訳で」
「そうでございますねユウトさん」
「鍋&たこ焼きパーティーの開催を宣言します!」
「やった〜!」
本当は一人でやろうと買い溜めてた食材を冷蔵庫から出す。
夜通しパーティー開幕だ
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