第2話 リアル野球拳

「っしゃ!俺行ってくるわ」


そう言って境界線に向かう彼を俺たちは敬礼して送り出す。


彼はうちの野球部きってのドMであり、一見痛ましい行為すら快感に感じるという一歩間違えれば性犯罪者になりかねないポテンシャルを持っている漢だ。


「会長、今日のこの後は例の作戦を?」


「澤村、メンバーを11人ずつで分けてくれ」


「おう!みんな今からうちの野球部でリアル野球拳を行う!」


野球部キャプテンの澤村の号令でメンバーが半分ずつに分かれる。


「いいか”対北高校部隊諸君”今日こそ彼女達を笑わせて、この境界線を無くすぞ!」


元野球部キャプテンであり、現明美台南高校生徒会長である俺の号令の元、皆がポジションに付く。


丁度さっき境界線に向かったドM坊主が這って境界線から戻ってきたので俺たちはリアル野球拳を開始した。


ルールは簡単。普通の野球と変わらないが一点取られるたびにチーム全員が一枚脱衣する。


目的は向こうの鉄仮面を被ったお嬢様集団である明美台北高校生徒会と朝練している集団、全員を笑わせる事だ。


「プレイボールッ!」


キャプテンの声がグラウンドに響く。向こうの生徒会も何かと物珍しげにこちらを見ている。チャンスだ。


チームは俺率いる白組と、キャプテン澤村率いる赤組に分かれている。


先行は俺たち白組。全員野球の格好をしており、5点取られればパンツ一丁になる計算だ。恐らく上半身だけでも顔を赤めそうなお嬢様集団を目の前にこんなことが出来るとは・・・ 境界線付近で倒れているドM野郎の気持ちが少しわかるぜ


一番が打席に付く。一応俺たちにもプライドはあるので、出来れば赤組にパンツ一丁になってもらい、俺たちは無傷のまま試合を終えたい。


ウチの野球部は甲子園の常連であり、昨年も出場経験のあるメンバーなのでレベルの高い試合になるだろう。丁度先週入部した新一年生の実力も見えるし、一石二鳥だ。


そんな事を思っていると試合展開は2ストライク2ボール。その後バッターは満振りでアウトになってしまった。


その後二番バッターが出塁、三番バッターもそれに続き、続く四番にウチのエースであり甲子園でも大活躍した期待の2年ハルトが打席に入る。


見たら分かる大柄な体でバットを構えるのはピッチャーからすればプレッシャーだろう。


そのプレッシャーからか3ボール1ストライクまで追い込む。今現在ランナーは盗塁に成功して1.3塁。正直4ボールで満塁でもいいが、打力があるため打って欲しい。


ピッチャーからしてもミスが許されないこの状況、己のイチモツの露出がかかっている緊張感の中、ボールを投げた。


・・・いや、ボールが還った 本来あるべき場所はソコであったかのように。はたまた玉突き事故のように。


次の瞬間、ハルトは股間を抑えて悶える。ボールがボールに当たったのだ。練習なので軟球でやっていた事が功を奏したのだろうか、俺は急いで駆けつけて玉の数と竿の状態を確認したが異常は無かった。


その後、ハルトは無事復帰して1塁へと歩いて行った。この短時間で2つの、いや4つの尊い玉が犠牲になってしまうところだった。


そして五番バッターである俺が続くが、打ち上げてアウトに。次のバッターは空振り三振でハルトの体を張った満塁は無駄となってしまった。


続く赤組の攻撃も出塁こそするものの、得点には至らず現在2アウト1塁だ。


「なあユウト、さっき俺にデッドボールぶつけて来たアイツに仕返ししたいんだけど」


サードを守っていた俺に対してさっき玉突き事故の被害にあわれたハルトがレフトから話しかけてきた。


「さっき、お前がファール打った時に思いついたんだけどよ、野球って草むらにボールが突っ込んで汚れても、そのままズボンで拭いて使うだろ?」


なんだ、ハルトは股間に脳みそがあるタイプでさっきの事故でやられたかと俺は哀れみの顔で聞いていた。


そして作戦を全て聞き終えた俺は、冗談だろうと思っていた。どうやら次打席が回って来た時に実行するらしい。


その後試合は両者無得点のまま3回に突入。もうすぐホームルームの時間なので、恐らくこれが最終回になるだろう。


3回表、白組の攻撃。バッターは一番からだ。ハルトは四番なので誰かが走塁すれば順番が回ってくる。ほんとにするつもりなのかアイツ。


そしてその後、三番バッターまで全員が出塁し、ノーアウト満塁の大チャンスでハルトの番が回ってきた。


さっきの事がトラウマなのか、ボールが迫るたびに若干腰が引けてるように見えるのは気のせいだろうか。


その後2ストライク3ボールのフルカウントになり、ここぞという場面でハルトは満振りした。バットは打球の上を掠れてキャッチャーミットに入る音がした。


みんなこの瞬間、3ストライクでアウトだと残念がるだろう。実際ベンチのみんなはがっかりした様子だった。


しかし実はこれで作戦は成功なのだ。さっきハルトが言ってきた冗談みたいな計画


うんこボール作戦が

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