恋の境界線

@LUXION2211

第1話 境界線

朝6時10分 物心着いた時から自然とこの時間に目覚めるようになっていた。


身支度を済ましてリビングに行き、だだっ広い部屋に鎮座する長机に腰をかける


「莉々菜、おめでとう」


この一言で自分の誕生日を忘れてない父に少し安堵した。そしてその言葉を皮切りに母、兄と言葉を続ける。


私の家は地元では有名な資本家だ。父と母はそれぞれホテルと化粧品の会社を営んでいる。そして父は私の通う明美台北高校を設立。現在は理事長をしている。私が将来通う用にと北高校を設立したらしい。


本来であれば女子校にして私を入学させたかったらしいが、明美台地区にそもそも高校が無かった為、何度も県から共学にするよう迫られてたらしい。しかし父は頑なに拒否し続けた為、譲渡案としてグラウンドなど一部設備を共有化した県立の明美台南高校が隣に設立された。財政難に喘いでいた自治体であった為、一部設備を共有化することで父は県に対して恩を売る事に成功した。


その後何度か統合の話も出たが、父は頑なに拒否し続けた。

しかし時代の流れと共に徐々に生徒数が減少。経営状況が不況であると株主総会で問題になり、共学化する事になったのだが、統合だけはされなかった。


そして私は國崎家として、そして北高校生徒会長としてすぐ隣にある南高校と対立する事になったのだ。


最も馬鹿らしい話だが、理事長である父の意向が”明美台の伝統を守る”である以上、父の娘である私にはどうしようも出来ない。


「莉々菜、その金髪はいつまでそのままなんだ。父さんもいい加減なんか言ったらどうですか?」


向かいに座っている兄が口を開いた。口を開けば父に媚を売るか、私を貶すかのどちらかだ。


「まあ、今しか出来ないんだし、良いんじゃない」


父が口を開く前に母が口を挟む。兄は毎日のように私を貶すような発言を食事の時にする。


それもそのはず、私と兄は兄弟である以上にライバル。父が保有している会社の経営権はいずれどちらかに譲渡されるのだから兄は私を蹴落とそうと必死だ。


別に経営権なんてものに興味はないのに、この家に生まれてしまった宿命なのだろうか。


手短に食事を済ませて席を立つ。家族が一堂に集まるあの空間は異様だ。この家で出される食事はシェフが作る一流のものだがどれも不味く感じるほどに。


部屋に戻り教材の準備をしているとドアが2回ノックされる。


扉を開けるとそこには母が紙袋を持って立っていた。


「これ、来季の新作。まだ試作品段階だからパッケージは無地だけど誕生日プレゼントに」


ママはこの家での唯一の私の理解者だ。そんなママは毎年私の誕生日の時期に合わせて新作の化粧品を出している。発売は来月だからこっそり試作品をくれるのが毎年の恒例になっている


「ありがとう。ママ」


さっきまで怪訝な顔をしていたがすっかり笑顔になっていた。早速化粧水とヘアオイル、あとバレない程度にコンシーラーとチークで化粧をして準備を終わらせる。


その後、車に乗って、徒歩で通う生徒を見ながら学校に向かう。


北高校と南高校は隣接しているため校門も同じ通りに、そんなに離れてない位置にあるのだが両者の生徒は各々反対の高校の前を通らないルートで登校している。


たまに遅刻寸前の生徒や、面白半分でこっち側の前を通って南高校に向かう男子生徒が居るのだが、皆冷たい目で見られたり、そばを通るだけで北の生徒に汚物扱いされる為、その数は徐々に減っていく。


北高校は共学化したといってもつい数年前の話であり、今だに女子校の名残りが残る。生徒の男女比は1:9 男子生徒にとっては夢のような空間かもしれないが女子のガードは案外硬い。もちろん年頃の集まりなので付き合っているカップルもちらほら見かけるが割合で言えば全体の5%程度も居ないだろう。


國崎家が出資している学校ということもあって、この学校には地元では有名な企業の娘が多く集まる。その為学校で他の企業、そして國崎家との人脈を作りたいという親の意向で来る生徒が殆んどだ。


そして変に男と関わりを持たないで欲しいという父や保護者の意向から、共学化している南高校を敵対視しているのだ。向こうの男女比はほぼ5:5 偏差値共におそらく一般的な高校と言えるのだろう。


私は登校して早速生徒会の業務に取り掛かる。カバンを置いて、先に向かったのはグラウンドだ。


このグラウンドは一応共用となっているのだが、教師が居ない朝練の時間には向こうの男子生徒がこちらの女子生徒にセクハラや干渉する恐れがあるため、グラウンドの真ん中に引かれた白線からは出ては行けない事になっている。


生徒会では毎朝この時間に向こうの生徒がこちら側に侵入しないか監視を行っている。万が一侵入した場合には持っている警棒や鞭で力の限り叩きのめす。


早速向こうから坊主集団がやって来るのが見えた。毎朝居る野球部だ。


そして一人がこちらに向かって歩いてくる。毎朝境界線を超えてくる奴に特徴が似ていた為、警棒を持つ手に力が入る。私含めて境界線の警護に当たってた他のメンバーも集まってきた。


次の瞬間、猛ダッシュで境界を超えてきた彼に対して全力で棒を振る。


他のメンバーも持っている鞭や警棒で力の限り追い返そうとする。


侵入者はその場に横たわり若干笑みを浮かべた顔でムカデのように手足を動かしている。


「キッモ」


私の横でその声がした途端、皆が手を止めた。彼女は私の幼馴染であり副会長のアリサ。


次の瞬間、彼の股間に向けて容赦なく警棒が振り下ろされた。


何故か向こう側のそれを見ている男子生徒が全員股間を抑えるほどに強烈な一撃を食らわせると、彼は半分白目を剥きながら這うように境界線を超えて行った。


この坊主は毎朝境界線を超えて来るからある意味恒例行事といった目線で後ろで朝練に励む我が校の陸上部が注目している。

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