第56話 約束

 夕方。俺らは人の少ない公園にて休息を取っていた。人が多いと俺ら3人の知名度的に一瞬で騒ぎになるからな。

 夕日に照らされながら、俺はベンチに座ってる瑠実と、瑠実に膝枕されて眠っている神楽ちゃんを見て微笑む。


「寝ちゃったね」

「ああ。さすがにはしゃぎすぎたからな」


 結局、ワシントンにあるゲーセン全部に出禁された。

 いつも俺だけなら丸一日かけてもこうならないのに、ゲーム世界トップランカーが二人だとぶっ壊れちゃうんだな……。


「ホントそれ!お陰でどれだけ私が頭を下げたと思ってんの?」

「いやあ、申し訳ないと思ってるよ……」


 俺らが店の売上をぶっ壊している最中、瑠実は「ごめんなさい!」と何度も店員に謝っていた。それに対し店員は「アハハ……。ダイジョブデスヨー」と英語なのにカタコトで棒読みになるという珍しい光景が見れた。

 正直、ちょっと面白かった。


「まあ、楽しかっただろ?」


 話を逸らすために感想を求める。

 瑠実は「そうだねえ」とにんまり笑いながら神楽ちゃんの頭を撫でる。

 その姿が、美愛のお世話をしている母さんに姿が重なって、少し胸が締め付けられた。もし、彼女の、この顔を独り占めできたならと、思ってしまう。


「楽しかった。……終わって欲しくないと思うくらいには」

「そっか」


 俺の胸の痛みなどつゆ知らず、瑠実は「うん」と優しい笑顔で俺に頷きかける。

 その笑顔が、愛おしくてたまらない。

 愛をここで叫んでしまいたい。そう思うくらいに。


「なあ、瑠実」

「ん?」

「俺は……」


 そこで、言葉が途切れる。2年前と同じ、恐怖で言葉が出ない。

 喉に何かがつっかえて、詰まらせているような感覚だった。

 俺の一瞬の躊躇いに、瑠実は不思議に思ったのか首を傾げる。

 結局こうなるんだなと、内心で自分に嘲笑した。


「……俺さ、絶対に優勝するよ」


 結局、逃げてしまった。関係が壊れるのが怖いから。

 俺の言葉に瑠実は少しきょとんとしたものの、「当然でしょ」とニヤリと笑った。

 その笑顔が、瑠実の笑顔が、どんな声援よりも最強のバフに感じた。


「じゃあ、私も意思表明っていうか、約束を取り付けよっかな」

「約束?」

「うん。約束」


 こくりと小さく頷く瑠実に、俺は肩を竦めて少ししゃがむ。これで、視線は同じ高さのはずだ。


「何だ。約束って」


 俺がそう聞くと、瑠実は少し恥ずかしそうにモジモジして、神楽ちゃんの髪をいじる。

 おい、ロールヘアーになっちゃうからグリグリ髪を回すのはやめてあげなさい。

 心の中で突っ込みながら瑠実の言葉を待つと、瑠実は恐る恐る口を開いた。


「日本に帰ったら、束咲に伝えたいことがあるの……」

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