第20話 あなたと私のすれ違い
「悠輝、お前いってえよ!この……」
「お前ら席に着けー」
悠輝に反撃しようとした瞬間、担任の先生が来たので寸前で手を止める。
悠輝は席に座っているが、俺の席はここから遠めのところにある。
俺は舌打ちしながら自分の席に戻って行った。
ただまあ、朝のホームルームが終わったら速攻で叩きに行くけどな。
「えー、今日の連絡事項は一つだ。若山先生の娘さんが学校に見学に来るそうなので、会ったら挨拶するように」
「せんせー。その娘さんは可愛いですかー?」
「知らんわ。本人に聞け」
一人の男生徒の質問でクラスが笑いに包まれる一方、俺はずっと悠輝を睨みつけていた。
周りは笑っているのに、一人だけ鬼の形相である。
ここまでの執着はしなくてもいいんじゃないかって思うかもしれないが、俺はやられたらやり返したくなる人間なので。
「あ、あと冴木」
「ああ?」
「ひいっ!」
先生の呼びかけに鬼の形相のまま応じてしまい、俺はヤベっとすぐさま謝る。
「ご、ごめんなさい!それで、何ですか?」
「ああ、今日は冴木が日直だって言おうとしたんだが……」
「ああ、そう言えばそうでしたね。すみません。後で日誌も取ってくるんで」
「おう。……それで、さっきのは何だったんだ……?」
「悠輝に対する殺意の権化の塊です」
そう言いながら悠輝を再び睨みつける。
その時の悠輝はというと、これでもかってぐらい大爆笑してました。
♢♢♢♢♢♢
俺は朝のホームルームが終わると、日誌を取りに行くために職員室へ向かっていた。
俺らのクラスは4階で、職員室は2階にあるから、そこそこ遠いんだよなあ。
「……で、何でお前も着いてきてんだよ……」
「え?何でって、面白そうじゃん!」
そう言ってニコニコしているのは安奈。
コイツ違うクラスなのに、事あるごとに付いてきやがる……!
ちなみに悠輝は、ホームルームが終わった瞬間に即逃げ出した。
こういう時だけ無駄に身体能力が爆上がりすんの、一体何なんだよ……。
ため息を吐いて少しすると職員室に着いた。
さっさと日誌を取って……。
「……ん?」
職員室の扉に手を掛けようとした瞬間、後ろの部屋から聞き覚えのある声がする。
ふと振り向くと、そこは和室。生徒などが問題を起こした際に説教される部屋だ。
俺が和室を見つめていると、安奈が首を傾げた。
「どったの?」
「いや、なんか聞き覚えのある声が……」
「聞き覚え……?学校なんだから、聞き覚えのある声なんていくらでもあるでしょ」
「……それもそうだな」
「冴木くん、とうとう冬ボケした?」
「うっせえ。してねえよ」
俺らはそんなバカなやり取りをしながら職員室から日誌を取って、そのままクラスに戻って行った。
♢♢♢♢♢♢
──一方その頃、和室では──。
「……ん?」
「どうした、瑠実」
私はふと首を傾げて、お父さんが疑問の声を上げる。
「いや、何と言うか……。今、聞き覚えのある声が聞こえたような……」
「となると、冴木くんじゃないか……?最近よく一緒に過ごしてるんだろう?」
お父さんはそう言うと先程出された茶を啜る。
私は冴木の声かどうかを確認するために和室の入り口をちょっとだけ開けた。
すると、そこには冴木がいて、さらには、朝で一緒にいた女の子とも一緒だった。
私はそれを見るだけで、沸々と嫉妬と怒りが込み上げてくる。
ほーう?私に喧嘩でも売ってるのかな?受けて立つぞ?
私が黒いオーラを発すると、お父さんは朝同様に「ひっ!?」と情けない悲鳴を上げていた。
いい年なんだから、もっと堂々として欲しいんだけど……。
はあっとため息を吐きながら、私は静かに戸を閉めた。
♢♢♢♢♢♢
1時間目は始業式だった。
長ったらしい校長先生の話やら、生徒達の賞状授与やら、色々やったらしいが、俺は寝ていたので知らん。
教室に戻ると、軽い休憩に入る。
一学年と三学年は帰宅だそうだが、俺ら二学年は1時間だけ授業をやるらしい。
正直言ってやらなくてもいいような気がするが、学校は気まぐれなので文句は言わん。
言ったら「帰れ!」って怒鳴られるし……。
なんとも理不尽だなあと思いながらため息を吐く。
ちなみに今,
「ぐっ!このっ!は、離せっ!」
「離せと言われて話すバカがどこにいる」
「それ悪役が言うセリフ……」
「とにかく、お前にはこれから『お仕置き』を受けてもらう」
俺がそう言うと、悠輝は一気に顔を引き攣らせた。
「ま、待て!謝るから!謝るから許してください!」
「問答無用おおおお!」
「あああああああああ!!」
その日、男子トイレから悲鳴が響き、高校で1月26日は『原宮絶叫の日』と命名された。(ちなみに嘘)
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