クリスマスの街でナンパした子が超人気アイドルだった件について

瑠璃

第1話 ナンパ。それは始まりだった

『なあ、束咲つかさ。ナンパしに行かね?』

「……は?」


 親友・原宮悠輝はらみやゆうきのその言葉に、俺・冴木束咲さえきつかさは顔をしかめながらゲーム画面を注視していた。

 いきなり電話してきたと思ったら、開口一番に何を言っているのだろう。


「……とりあえず切っていいか?」

「待て待て!待ってくれ!」


 通話を切ろうとスマホ画面に手を伸ばすと、悠輝から制止の言葉がかかり、俺はその手を止める。


「お前が前欲しがってたゲームコントローラーやるから、一緒に来てください!お願いします!」

「集合場所はどこにする?」


♢♢♢♢♢♢


 俺はあの後、すぐに着替えて暖かな家を出た。

 玄関を開けると猛烈な冷感に襲われるが、コートの中で身体を温めながら前へと進み、やっと渋谷駅前へと辿り着いた。

 思ったより早く着いたな。集合時間までは時間があるし、スマホでソシャゲでも──。

 そう思った矢先、ポンと肩を叩かれる。

 ふと振り向くと、いかにも体育系男子といった筋骨隆々な男子。

 しかし、その見た目は染められた髪で一気に印象を悪くさせ、全体的にマッチョなチャラ男といった印象。


「よっ!」

「おう、お前も早いな。悠輝」


 こいつが俺の幼馴染で親友でもある原宮悠輝はらみやゆうき

 なんと今までのクラス分けでこいつと別クラスになったことがないという妙な因縁を持っている。

 コイツが早く来るなんて珍しい。隕石でも降ってくるんじゃないか?

 悠輝は俺の驚きぶりを見て得意げに鼻を擦る。


「まあな。もしかしたら今日がカノジョの出来る初めての日かもしれないからな!」

「その自信はどこからきてるんだ……」

「相変わらず冷てえな、束咲は。そんなんじゃ俺みたいにカノジョが出来ないぞ!」

「出来なくても別にいいが、お前みたいになるのは嫌だな」

「あれ、酷くね……?」

「ともかく、今日一日はお前と一緒に居るだけでいいのか?」


 そう尋ねると、悠輝は元気よく「ああ!」と頷く。


「お前はゲームと顔以外は取り柄がないが、逆を言えばイケメンだからな!お前が来るだけで俺の顔面偏差値が上がる!」


 出たよ。意味わからん用語、『顔面偏差値』。

 知らん内に浸透していたが、改めて考えると意味がわからないよな……。

 個人に対して使うのなら、イケメンとかフツメンとかでもいいだろ。

 ちなみに、悠輝が言っている通り、俺はイケメンらしい。

 小学までは自覚が無かったけど、中学に上がってからはやけに周りの女子の俺を見る目が180°変わった。

 具体的には告白が沢山されるようになった。

 バカみたいに告白されまくるので、いつしか恋愛感情を抱かなくなり、今まで初恋すら来ていない。

 ちなみに、俺も悠輝もカノジョが出来たことはない。

 俺にとってはどうでもいいことだが、悠輝にとっては悲しいことらしい。

 そんな悠輝が自信満々に「カノジョが出来る」と言っているのだ。

 何か勝算があるのだろう。


「そんなに自信があるのならカノジョが出来る瞬間を見せて貰おうじゃないか」

「おう、クリスマスだからな!すぐにカノジョをつくってやる!」


──3時間後──


「──出来なかったな」

「そ、そんな……」


 悠輝は可愛いと思う女性に手当たり次第ナンパし、ことごとくフラれていた。


「いやー、ここまで綺麗にオチを回収する瞬間を現実で見られるとは……」

「俺が見せたかった瞬間はそれじゃねえけどな!?」


 悠輝は拗ねた子供のように膝を抱えて地面に文字を書き始める。

 そこまでショックなのか……。


「まあまあ、元気出せよ。俺、この後ゲーセン行くんだけど一緒にどうだ?」

「それ、俺がボコボコにされる未来しか見えないんだが……?」

「弱いお前が悪い」

「返す言葉もないけども!」


 コイツがここまでツッコんでくるなんて珍しいな。

 動画撮っとけばよかった。


「あっ。あと、約束のゲームコントローラー、頼んだぞ」

「そうだった……。俺の財布の中身持つかな……」


 そう言って財布を取り出す悠輝。

 今月ピンチなのか……?


「というかそもそも、お前の失敗を俺が見学しにきただけじゃん……」

「……っ!ほーう……?」


 俺の言葉に過剰に反応し始める悠輝。

 どうやら彼の触れてはいけない線に触れてしまったらしい。

 悠輝はピクピクこめかみを揺らして俺に指差した。


「そこまで言うなら、お前がやってみろよ!」

「は、はああああああ!?」


♢♢♢♢♢♢


「うう……、どうしてこんなことに……」


 街道を歩きながら小さく文句を垂れ流す。

 ゲームコントローラーを手に入れるためだけに来たのに、こんなことになるとは……。


「女の人と話すっつっても、イマイチなんだよなあ……」


 好きでもない女性に手を出すのは最低な行為だろ。

 ふと後ろを見ると、監視という名目で俺の失敗を見ようと息巻いている親友が一人。

 アイツ……、マジで覚えてろよ……!


「さっさと終わらせてモンハンしよ……」


 俺は下へ向けてた視線を前へと向ける。

 ちょうど目の前を横切った女性がいたから、その人に声かけよ。

 俺はその人の背中を追いかけて声をかける。


「あの……、すみません」


 俺の声に反応したその女性はこちらへと振り返る。


「……っ!君は……!」

「……?」


 彼女はマスクとメガネをしているが、それでも分かるぐらいに瞳が揺れている。

 俺はどうしたのかと思い首を傾げるが、彼女は頭を横に振った。


「いや、何でもないよ」

「そ、そうですか」

「うん。それで、私に何か用かな?」


 とても可愛らしい声で尋ねてくる。

 澄んだ声だ。声優をやっていると言われていても違和感が無いくらい。


「えっと……、へ、ヘイ、そこのカノ、ジョ?俺とお茶しな〜い?」


 恋愛シミュレーションゲームで言っていたナンパ口上を真似てみたのだが、我ながら絶対ダメなヤツだと分かる。

 ほら、相手なんか笑いを堪えて肩をプルプルしてるよ……。


「ふふっ、何それ。ナンパ?今までナンパは何百回もされてきたけど君みたいな下手な子は初めてだよ?」

「うっ……、ゴメン」


 思わず謝ってしまう。

 ……もう、帰りたい……。

 俺が赤面していると、彼女はより一層肩を震わせて目を細める。


「まあ、君が勇気を出してナンパして来てくれたんだ。うん!喜んで!」

「いやあ、やっぱりナシで……って、え?」


 まさかの、オッケー……?

 俺が戸惑っていると、彼女は俺の手を取り引っ張る。


「ほら、私とお茶したいんでしょ?行こ!」

「え?えええええええぇ!?」


 マジで!?

 ふと、後ろを見ると、悠輝が悔しそうな顔でこちらを睨んでいた。

 あ、これマジっぽいわ。


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