第2話 王都へ
「君、ホントに馬鹿よ。Fランク冒険者が虹色の魔法石を持ってても、偽造だと一発でバレるのに」
「だから偽造では無いんです!スライムが落としたんです!」
「もしかしてSSSランクのアルティメットスライム?あり得ない。あんなの、私でさえ倒せないのに」
今、俺はギルドの闘技場に立っている。
向かい合って話しているのは、冒険者のトップランカーでかつ、至高の美女リディア。
今から俺は、偽造の濡れ衣を着せられたために、処刑される。
しかし、なぜ急にアルティメットスライムという訳の分からないモンスター名が出てくるのか……
ただのスライムを倒しただけだぞ!
「では、処刑をはじめる」
リディアは、高級そうな杖を手に取った。
「リディア様、やれ!」
「そうだ!Fランの雑魚なんぞ、1秒で粉々にしちまえ!」
このような、観客の冒険者どもの声が聞こえてきた。
「君ごとき、私からしたら取るに足らない。とっとと片付けるから」
そう言って、リディアは俺に向かって杖を向けた。
超級魔法【スペースフローズン】
空気が輝くような冷気が俺に向かう。
(これが超級魔法?最下級魔法の間違いじゃ無いのか?)
思ったよりも魔法が弱いので、俺は冷静に【ローファイア】で相殺した。
リディアが驚いて目を見開く。
「超級魔法を撃ったのに無傷?!どういうこと!」
観客の冒険者たちも、みんな開いた口がふさがらず、唖然としていた。
「あのFランク、どういうことだ!」
「世界でも使える人が限られた超級魔法を相殺しやがったぞ?!」
「もしやアイツ……いや、あの方は……」
俺は最弱魔法を撃っただけ。
観客の冒険者どもは、騒いで俺を馬鹿にしているのだろうか……
しかし、リディアは手加減しすぎだな……やっぱり俺がFランク冒険者だから煽って馬鹿にしたいのか……
「チッ、まあ必殺技を使うから、覚悟して」
うわやべ……
SSランク冒険者の必殺技をくらったら、今度こそ、俺は逝く。
「最後にきみの名前を聞いてあげよう」
「俺の名前はアルティですが」
「ありがとう。私はリディア、私はきみを、裁く」
そして俺の足元には、ものすごい力を感じる魔法陣が出てきた。
短かった人生。
せめてもの抵抗として【ローファイア】を魔法陣に撃ってみよう。
もしそれで死ぬのを免れたら、奇跡中の奇跡だ。
俺は自らが6年間、最弱魔法と信じてきた【ローファイア】を放った。
人生の終わりは、こんなにも潔いものなのか。
俺はまぶしい光に包まれた。
「…………負けた。でも、ようやく巡り会えた」
リディアが俺に近づく。リディアのスカートは少し破れていて、見えてはいけないものがチラリと見えていた。
慌てて俺は、目をそらす。
すると突然、頬にキスをされた。
そして俺の前で土下座され…………
「きみ、いや、アルティ様、私と結婚してください」
「「「はぁー?!!!結婚?!!!」」」
俺と観客が一斉に同じ事を言う。
「ちょっと急というか、俺Fランクですよ?!なぜ俺を……」
なぜ俺なのか。本当に何でだ?
「私は、自分より強い男の人を探して冒険者をしていたんですが、今ようやく巡り会えたのです」
「それって誰なんですか……まさか俺では……」
「私の目の前にいる君、アルティ様のことです」
「えええええええ???!!!」
全くもって理解不能。
俺がSSランク冒険者より強い?!
あれは手加減じゃなかったの?!
いや待て、おそらくリディアは自分が手加減していた事に気づいてないだけだ、そうに違いない!
「とりあえずギルドから脱退したいから、ギルマスに会ってきますね」
リディアはギルドの事務所に向かった。
すると、観客の中から2人の男が立ち上がって、俺に話しかけてきた。
片方は、ヤジで俺を雑魚呼ばわりした男で、もう片方は俺の胸ぐらを掴んできた大柄な男だ。
ヤジで俺を雑魚呼ばわりした方の男が、俺に話しかけてきた。
「私は冒険者のウィリアム、そしてコイツは同じく冒険者のウェズです」
「何の要件ですか?」
「率直に言いますと、我がパーティ”紅き放浪団”に入ってほしいのです!」
ウィリアムが俺に向かって土下座した。
「リディア様との戦いぶりを見て、我々、感服いたしました!パーティに加入するだけでリーダーに引き立てますので、どうか…………」
「残念ですが、俺は今、貴方達のパーティに入っても十分に仕事ができないと思いますので、お引き取り下さい」
俺では、そのパーティに入るには力不足だろう。それに、リディアの件もあるし…………
そんなことを思っていると、ウェズが急に叫び出す。
「おい!我がパーティはこのギルド1位のパーティぞ!しかも、リーダーになれるという最高の名誉に預かれるのに、何様だ!!!」
名誉なんて、どうでもいい。今やるべきことを優先したい。
それに、突然キレてくるような人のいるパーティには入りたくない。
「お引き取り下さい!!!」
「あ?Fランごときが何様だ!大体、リディア様との戦いも、全部リディア様と仕組んだ演技だったんだろ!」
なぜ、そうなる………演技なんてやる訳がない。
「演技かどうか、力を試させてもらおう!」
急に喧嘩を売られるとは、面倒過ぎる。
早く追い出したかった俺は【ローファイア】をテキトーに撃った。
すると_______
「アルティ様、流石に手加減をお願いします」
いつの間にか帰ってきたリディアにそう言われ、リディアの魔法によって俺の【ローファイア】が相殺された。
しかし、余波がウェズに当たったのか、ウェズは失神している。死んではないようだ。
「なんで相殺したのですか……大した魔法じゃないのに」
「またご謙遜を。もう少しで闘技場が破壊されるところでしたよ」
冗談が過ぎる…………
「あ、アルティ様、ギルマスが呼んでいたので、どうぞこちらへ」
「わかりました」
俺は、リディアに案内され、ギルドマスターの部屋に入った。
♢
「ふっ、実はあたしも影から戦いを見ていたのよ。しかし……あれは凄いね!」
「い、いえ、とんでもない。ただの最弱魔法です……」
俺はギルドの応接室で、ここのギルドマスターであるエリカ・ハーシェルという少女と対面している。
しかしこのギルドマスターも、リディアに負けないほどの美少女だ。
リディアよりは小柄だが、鎧を纏っているので剣士だと分かった。
俺の隣にはリディアがベッタリとくっついている……
「最弱魔法?!アルティ君は本気でそう思っているの?!」
「え、俺が撃ったのは【ローファイア】ですよ!最弱魔法じゃないですか」
「はは!【ローファイア】なんて言う魔法はないよ!あれは伝説級魔法【ロウファイア】だよ!」
「ハイ?伝説級?鑑定してもらったら【ローファイア】だったのですが…………」
「それなら、その鑑定がおかしいよ!」
鑑定がおかしい…………?!
もしかして、俺は今まで、鑑定に騙されて…………
「【ローファイア】は本当に伝説級なのですか?」
「うん、そうだよ!伝説級魔法なんてSSランク冒険者でも使えない人いるから、アルティ君のを見た時に、”1000年に一人の天才が現れた!”って大騒ぎしちゃった」
「いや、そんな大層なことは俺ごときに出来ないと思うんですが……」
「謙遜しなくて良いから、これを見て」
エリカは一枚の紙を、俺に差し出した。そこには、こう書かれてあった。
推薦状
オルマン国王殿
ギルドのメラントラ支部は、冒険者アルティを最高位の聖人に推薦する。
ギルドマスター エリカ・ハーシェル
「ええええええええ!!!!!これは絶対に間違いですよー!」
「間違いなワケないよ!あたしはアルティ君の強さを正当に評価して、これを書いてるんだから!」
「しかし……」
「それに、虹色の魔法石が偽物である事を疑った連中のせいで、だいぶ無礼をしたみたいだし、受け取ってもらわないとね!」
俺は半ば強制的に推薦状を受け取らされた。
流石に聖人候補として国王に会いに行くのは、貧民としてはかなり荷が重い。
とはいえ受け取っちゃったし、エリカとリディアが付き添うみたいなので(これも謎の空気で断れなかった)、聖人候補としてこの国、オルマン王国の王都リュクサンブールに向かう事にした。
翌朝、リディアとエリカを連れて馬車に乗り込む。すると馬車の運転士に、驚いた様子で話しかけられた。
「お?この、かの高名な御二人が乗られるですか!何か王都で事件でも?」
「このお方、アルティ様が聖人になられるのよ」
「はい?」
馬車の運転手は困惑した様子だった。
リディアは余計なことを言いやがって……
「まだ決まったわけでは……って、あれ、運転手さん?」
気づけば、運転手がガチガチに固まっていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ!しょせん俺は貧民なので」
「失礼しました。あまりに驚いたもので……」
「王都までお願いしますね!」
「はい」
3人は王都へと向かった。
♢
(エリカ視点)
まさか、あそこまでの強さを持つ冒険者がこのギルドに居たとはね…………
見つけれなかったのは、完全にあたしのミスだ。
ギルドの鑑定用魔法道具がスキルを判定し間違えるというのは、一気に途方も無く大量の魔力量が流れ込んだ事が原因だろう。
しかし、今までこのギルド支部の歴史の中ではそんな事は一度も起こっていない。
一体どれほど凄まじい魔力量なのだろう。
もしかしたら、アルティは近い将来、世界の覇権を握る者になり得るかもしれない。
その時のために、あたしはアルティに尽くそう。
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