毒親に追放されたけど、実は”主神の使徒”でした。〜ただのFランク冒険者だったのに、いつの間にか世界の支配者になっていた件〜
緑井えりんぎ
第1話 追放される、スライムを倒す
「お前をこの家から追放する!二度と帰ってくるな!」
「え?父上、なんで、ですか……」
俺ことアルティは、父親からの突然の宣告に頭が真っ白になった。
俺はブリットン帝国の辺境伯の長男として産まれた。
しかし俺は、弟のハーマンに剣術で劣っているためなのか、剣術の訓練を四六時中受けさせられていた。
しかも訓練中は「下手くそ」と言われて父親から毎日、血まみれになるまでムチ打ちされている。
それに対して、弟のハーマンは溺愛されている。
そして今日、歩いていると突然、父親から殴られ、追放の宣告を受けたのだ。
「お前は見限った!!!役立たずのゴミは、とっとと出て行け!」
そして、俺が持っていた杖を奪い取り、俺に向かって投げた。
杖が粉々になって、尖った破片が俺の体に刺さり、血まみれになる。
「いや、でもまだ、俺は頑張れま…………」
「あ?!弱っちいゴミなど、息子には不要だ!」
すると、ハーマンが部屋に入って俺を見下すように話しかけてきた。
「兄貴、お前はホームレスとして物乞いやるのがお似合いだよ?それが分かんないの?」
「よくぞ言ってくれた、ハーマンよ!さすがは私の自慢の息子だ!確かにハーマンの言う通り、アルティのゴミカスにはホームレスがお似合いだなぁ!!!」
「え…………いや、待ってくださ…………」
「黙れぃ!!!」
そして、俺は勢いよく父親に蹴り飛ばされた。
いつしか俺は、意識を失った。
♢
「一体いつまで下水道掃除すればいいんだろう……」
俺は追放されてから、ブリットン帝国を出て、オルマン王国の地方都市メラントラのギルドの冒険者をしている。
しかし俺ことアルティは18歳になってもなお、冒険者ランクがFランクのままだった。
冒険者ランクは下から順にF〜Aがあり、さらにその上に人外の能力とされるS、そして伝説級のSS、頂点には世界に数人しかいないとされる”聖人の位”がある。
その中で俺のFランクは一番下であり、あまりにも弱いため、下水道掃除の職務しか許されていないのだ。
魔法は、父親から隠れて修行していた時期があったし、一発で地面が砕けるほどの魔法を使えていたため、かなり強いと思っていた。
しかしギルドで鑑定してもらうと、その魔法は最弱魔法【ローファイア】である事が分かり、自信を喪失して、それ以来全く使っていない。
モンスターと戦う事、いや、人生を諦め、6年間ずっと下水道掃除しかしていないのだ。
それに、他の冒険者たちが中級魔法の【フレアボム】を1年足らずで習得しているのを見ると、自分に才能が無いことは明白だった。
「才能がなくても食っていくには、下水道掃除しか無いんだよな……」
俺はふと、ギルドに貼り出されている最強冒険者ランキングを見た。
1位 レベル1211 リディア・カステル SSランク
2位 レベル39 ウィリアム・ホワイト Bランク
1位のリディア・カステルは世界的な有名人で、数少ない”4桁レベル”の一人だ。
そして実は、俺はリディアをひそかに推している。彼女の洗練された雰囲気は至高で、顔立ちも、ものすごい美人だ。
「憧れるなぁ……」
すると、急にギルドが騒がしくなった。
「「「リディア様だあ!!!リディア様が帰ってこられた!」」」
どうやらリディアが大規模な討伐を終え、帰ってきたようだ。
リディアは大きい紫色の魔法石を手に持っていた。
「この紫色の魔法石は……もしや災厄として名高いSランクモンスターのアークデーモンの物では?!」
「流石、リディア様ですね!」
「おい、オラもリディア様が見たい!」
リディアを一目見ようとする連中で、彼女のまわりは人が集まった。
「君たち、静かにして。私はこの魔法石をギルマスに持っていくから」
リディアは人混みの中をかき分けて、ギルドの奥の部屋に行った。
「あーあ、行っちゃった。俺も話したかったな……」
俺はリディアと話せなかった悔しさを抑え、下水道掃除に向かった。
♢
「うわ、汚い……」
俺は薄暗く、暑く、そして臭い、超劣悪な労働環境である下水道をテキトーに掃除していた。
なぜテキトーか。
それはテキトーでもバレないからである。
俺は出来るだけ楽がしたいのだ。
「しかし臭いなここ。サボるのも楽では無い……って、なんだあれは?」
下水道の奥の方に、謎の影を見つけた。
そしてそれは急速に俺に向かって近づいてくる!あれはスライムだ!
スライムは確かFランクモンスターで、モンスターの中では圧倒的に最弱だ。
俺はとっさに、あの魔法を使った。
【ローファイア】
俺の手元からは、ホコリのような小さい炎が飛び出す。
そしてそれはスライムに命中した。
しかし、当たった一部が灰になっただけだった。
スライムは俺の腕に向かって粘液を飛ばしてきた。
「あっぶね」
粘液を避けたが、その粘液が当たった下水道の壁が一瞬で灰になった。
おそらく粘液に当たったら、俺ごとき一瞬で殺されるだろう。
【ローファイア】
俺は再び炎を出すが、与えたダメージはやはりわずかだ。
するとスライムは突然、凄まじい気配のする水の刃を放ってきた。
その刃は空気を切り裂いて俺に近づく。
俺は間一髪で回避した。
しかし水の刃が当たった下水道は、ものすごい音で崩れた。
天井が上から落ちて来たが、それでも俺は【ローファイア】を放つ。
命中する。でもダメージはわずか。
今度もまた水の刃が放たれたが、それを【ローファイア】で相殺した。
そしてそれを何度も何度も繰り返す。
終わりが見えない。
「ああ、これ無理かも……」
いくら俺が弱いからといって、まさか最弱モンスターのスライムに大苦戦するなんで……
どうしようもない悔しさでいっぱいになった。
2時間後_____
スライムは俺に【ローファイア】を当てられ続け、瀕死の状態となっていた。
俺も体力の限界が近い。
するとスライムは、最後の力を振り絞ったのか、俺の足元に突如ものすごい魔法陣が現れる。
危険を察知した俺は、咄嗟に逃げて渾身の【ローファイア】をスライムに当てた。
「やった……」
スライムは灰と化し、虹色の魔法石を落とした。間一髪の勝利だった。
「綺麗だな」
俺はこの魔法石を拾った。とはいえ、スライムが落とすものだから、せいぜい石ころ程度の価値しか無いだろう。
俺はこの虹色の魔法石とポケットの中のヒモでペンダントをつくり、首にぶら下げた。
スライムぐらいなら、ただの子供でも10秒で倒せると聞いたことがあったので、それに2時間以上かけた自分の弱さが悔しかった。
俺は崩れた下水道を去った。
♢
「はぁ、疲れた」
俺は下水道掃除の報告のため、ギルドに入った。
そして受付に向かって歩いていくと、なぜか俺にまわりの視線が集まっている気がした。
振り返ると、急に巨体の男が胸ぐらを掴んできた。
「おい、その虹色の石を見せてみな!」
「いいですけど……」
俺は虹色の魔法石のペンダントを男に見せる。
「おお?!これは……これはまさか……」
すると別の男が喋り出す。
「お前、確かFランクだろ。どこでこんな魔法石を手にしたんだ」
「下水道のスライムを倒しただけですが……」
するとさらに、他の冒険者たちが一斉に喋り出す。
「Fランク如きがこれを手に入れれるわけないだろ!」
「いや、もしかしてこの石、偽物じゃね?!」
「確かに。偽物に見えてきた」
「偽物をつくるのは犯罪だ!処刑しろ!」
もちろんこの魔法石は偽物では無い。しかし、偽物だという声が次第に大きくなっていった。
たかがスライムの魔法石なんて、全く珍しくないはずなのに……
すると、奥の方から一目惚れするほど綺麗な女性が出てきた。
あの女性は、リディアで間違いない。
「皆の者、静かに!」
リディアの一声で辺りが静まった。そしてリディアは俺を指差してきた。
「私がこの者を処す!魔法石偽造は許されぬ罪。公開処刑とするので、皆はギルドの闘技場に集まって欲しい」
「ファ?!」
俺はあまりの驚きに、変な声が出た。Fランク冒険者がS Sランク冒険者のリディアと戦うとか、もはやそれは俺の死以外の何ものでも無い。
偽造はしてないので即刻無罪を訴えたかったが、その訴えをしても無駄だということは、この場の空気で察せた。
俺はここで推しの美少女に殺される運命だったのだ。
しかし、たかがスライムの魔法石ぐらいで偽造を疑い、わざわざ処刑するなんて、冒険者は余程ヒマなのかもしれない。
次の更新予定
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