第17話 閑話Ⅱ


「なぜあんな真似をしたの!?」


「も、申し訳ございません、母上っ……」


 皇妃ネラエラは、第二皇子エーゼルトを激しく叱責していた。


「で、ですが!たかが子爵家の次男が、皇室の者である私の申し出を断るなどっ……」


「黙りなさい!!」


 生誕祭での暗殺失敗に始まり、マンノーランの介入による勢力変化など、最近は何もかも上手くいっていない。


 そんな中、自分の息子までもが足を引っ張ってきたのだ。


「そ、それに母上も専属護衛の件は了承してくれたではないですか!」


「それとこれとは話が別です!!断られたのなら大人しく引き下がればよいものを……!!あろうことか相手を罵倒し、北部との関係を悪化させるなど……!!」


 エーゼルトが俯く。不満がありありとみられるその姿を見て、怒りが増していく。


「なぜ貴方は余計なことをするのです!?母がこんなにも苦労して貴方を皇帝にしてあげようとしているのに!!」


 なぜわかってくれない。

 こんなにも私が手を尽くしているのに。


「それに、よりにもよって第一皇子が北部に赴いて関係を修復してくるとは……!!これで、あの男の勢力が大きくなったらどうするのです!?」


 北部はゆっくりと勢力に加えていく予定だった。厳しい環境で生きる彼らには、食糧の援助や流通の便宜を図るなど、金銭で懐柔し、最終的にはこちらに依存させていく方策をとるつもりであったのだ。


 北部の者たちは排他的な傾向が強い。一度猜疑心が生まれてしまえば、信頼を回復するのは至難の業だろう。もはや、我々の言うことを聞いてくれるかも怪しい。


「とにかく貴方は余計なことをせず、私の言う通りにしなさい。第一皇子より優れているところなどないのですから」


 第一皇子とそう歳も離れていないのに、どうしてこんなに差が生まれているのか。やはり私がどうにかするしかない。


「いいですね?貴方のためを思っていっているのですよ?」


「……はい、ありがとうございます、母上」


「よろしい、もう行きなさい。今日もしっかりと勉強をして、少しでも第一皇子に近づくのですよ」


 そう言うと、萎れた様子でエーゼルトは部屋から出て行った。……なんとも情けない姿にイライラする。


(さて、次はどう動くか……)


 皇妃ネラエラは思案する。

 無機質な目で、己を見ていた息子の様子に気づくことなく。


 

***


 

「クソッ……クソッ……クソがぁ!!」


 エーゼルトが自室の椅子を蹴り倒す。


「どいつもこいつもっ……!!母上まで……!!」


 手当たり次第に暴れる。


「偉大なる皇族の血を引くのはこのオレだ!

 なぜ敬わない、なぜ平伏しない!?なぜ子爵家如きに気を遣わねばならんのだ!」


「で、殿下。もうおやめください……」


 侍女が止めに入るが、止まらない。


「うるさい!!お前如きがオレに指図するのか!?」


 周りの者にも当たり散らす。


「それもこれもあいつがいるせいだ……!なぜオレがこんな扱いを受けねばならん!?」


「で、殿下……」


「まだいたのか!!出ていけ!出ていけぇ!」


 侍女が泣きそうになりながら出ていった。

 


 扉が閉まり、部屋にはエーゼルト一人。



 短気で浅慮。

 あの優秀な第一皇子の足元にも及ばない落ちこぼれ。皇妃である母親の言いなりとなって、自分では何もできない愚か者。



 


(あ゙ー、莫迦のフリは疲れるなぁオイ)



 そう思われるように、


 

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