忘れじの君は電線の中から
小野ショウ
第1話 俺を見るな!
今日も授業を真面目に受けて、部活動も充実していた。でも何か忘れているような気もするけど、まぁいいか。
快速電車に乗って 家路を急ぐ。今日は疲れた 早く家に帰ってベッドで横になりたい····
いやダメだ、今日は宿題が出ているんだよなコイツを片付けない事には休めないぞ、家の近くにあるコンビニでエナジードリンクを買って帰ろう、宿題を済ませた後の1本が堪らないんだ!
そんな時ちょっとしたトラブルに遭った。
踏切の安全確認。
普段なら5分ほどで電車が動くのに、30分は待たされたぞ!
ただの安全確認だよな、それとも他に何かあったのか?車内アナウンスではその辺りに触れてなかった
少し気になるよな。
その後 路線バスに乗り換えて。そこで忘れていた事に気がついた
お隣さんの幼馴染、恵茉と一緒に帰る約束をしてたんだ。
降車地のバス停留所に着いた俺は、走り去るバスを見送りながらスマホを取り出し SNS をチェックする
恵茉からの通知は無い。
内心ほっとした。だってそうだろう、もし俺が先に帰ってしまった事を責めるメッセージが入っていたら、俺は何て返信すればいいんだ?
仮にだ「忘れていましたごめんなさい」と返信したとする。
恵茉、大激怒!今後の関係に修復不可能なヒビが入りかねない。だから相手から通知がなければ放っておくが吉というものだ。
····明日の事は、また後で考えよう。
そんなこんなで遅れはしたけど、帰って来ました我が街へ!
皆んな夕食を作っているのだろう、各家からは美味しそうな匂いが漂ってくる····
揚げ物、炒め物それと煮物
俺も早く帰って夕ご飯食べたい。
そう言えば今日の夕ご飯はなんだろう? 今朝方聞いて家を出たはずなのに忘れてる。
うーん。
思い出せ俺、ボケるにはまだ早すぎるぞ!
「カー、カー、カー!」
どこかでカラスが鳴いている
なんか気が散ってきた
そういえば朝も鳴いていたぞ
授業中も鳴いていた
結局一日中鳴いているのか
俺を集中させないために?
んなバカな!
カラス同士のコミュニケーションの一環なんだろう、あるいは警戒してるとかさ。
警戒か、一体なにを気にしているんだろう?
俺はカラス共になにも悪い事をしてないし
あいつら、最近毎日鳴いてるよな。
あ、思い出した
今日の夕食は焼き鳥丼だ!
カラス、グッジョブ
しかし肝心のカラスはもう鳴いていない
空回りする思いに、めまいがしそうだ
それに、焼き鳥丼はお袋が手抜きをするときの定番メニューだし。
スーパーで買ってきた焼き鳥を串から抜いて丼飯に乗せ、トッピングは炒り胡麻と刻み海苔をパラパラと
後は味噌汁と漬物が付く。
まぁ、食べさせて貰っているだけ有り難いと思うか。
親に養われている身分で文句を言うのは筋違いだ。
多分お袋は親父と一緒にカラオケにでも行くんだろう····
好きにしてくれ。
俺の方は宿題が出ているので、こいつを片付けないとな
優等生を目指している一学生としては、取りこぼしには注意したい所。
さてとコンビニでエナジードリンクでも買って帰るか。
その時、誰かの視線を感じた。
用心深く辺りを見回すと、少し先に有る電柱のそばで誰かが俺を見つめているのが見えた
辺りは薄暗いのでハッキリとはしないけど、強盗か或るいは変質者の類だろうか。
初めての体験に緊張から鳥肌が立つ
なにかの勘違いで有って欲しい。
でも。
この道を歩いているのは俺だけだ
もちろん車も自転車も走っていない
何よりも、アイツの目はじっと俺を捉えて離さない。
立ち止まって俺も睨み返す。
緊張で呼吸が荒くなる
いつまで続くんだろう
俺はもう限界が近いぞ。
しばらくすると、アイツは電柱の陰に身を隠した。
どうする? どうすればいい?
こういう時の対処法は学校で習っていない
それに俺は文科系だ
当然、護身術の心得はない。
もう少しで俺の家に着くから無視して通り過ぎてしまおうか、でもすれ違いざまに襲われたらどうする?
考えすぎかも知れないけど、その時は近くのコンビニに逃げ込めばいい
それにスマホだって有るぞ
危険になったらSOSコールを使える。
そうと決まれば。
俺は電柱の反対側の道端に身を寄せて、ゆっくりと歩き始める
電柱へ少しずつ近付く
好奇心からかな?はやる気持ちにブレーキをかけながら慎重に近付く。
よし、ほぼ真横まで来た
ここまで来ればアイツも隠れようがない。一体どこのどいつだ? この俺をビビらせてるのは!
薄暗い中、目を凝らして電柱を見る
しかしそこには誰もいない。
誰もいないだって?しかし何者かの気配はする
一体どう言う事だ、俺は誰に見られているんだ!辺りを見回すが誰もいない。
『フフフッ』
今、誰かの笑い声が聞こえたぞ
どこだ
誰なんだ
俺はどうすればいいんだ?
「誰でもいいから出て来てくれ!」
弱気になり思わず本音が出る
その瞬間何者かの気配は消えた
きれいさっぱり消え去った。
「ハハハ、一体なんだったんだろう」安堵から来る脱力感。
緊張していただけに、そこはかとなく心地よい。
胸の鼓動が耳障りだけど。
その時一陣の風が吹いた
反射的に腕で目を覆う
「ヒュン! ヒュン!」
頭上で音がする。電線が風を切る音だ
あまり良い音ではない
風が吹き去った後、上を見てみる
電柱から電柱そして各家庭へと電線が張り巡らされている。
改めて見ると凄い本数だな
電気だけではなく光回線も有る
どちらも日頃お世話になっているが、こうも数が多いと威圧感も半端ない。
その時急に辺りが明るくなった
驚いたが、なんて事はない電柱に備え付けられている街灯が付いただけだ
でも胸のドキバクが止まらない
俺はこのまま死んじまうのではないか
そんなのはイヤだ。
側にあるブロック塀に背中をあずけ
ゆっくりと深呼吸をしてみる
しばらくの間続けていると
胸が落ち着いて来たぞ。
ところで今は何時だろう
スマホを見るともうすぐ7時
少し遅くなったけど部活のせいにしてしまおう。
それにしてもアイツは何者なんだ?
俺の見間違いと言う可能性も有るが、それだと何者かの気配の説明がつかない。
つまり俺としては何者かがあの電柱にいなければ困る事になる。
いや、不審者が近所にいる事の方が困るかな?
最近はこの街も物騒になったなぁ。
どちらにせよアイツは消えてしまった
もう調べようが無い
でも家に帰ったらダメ元で PC 使って調べてみるか?俺と似たような体験をした人が他に居るかも知れない。
よし、急いで家に帰ろう。
少し先に見えるコンビニの明かりが眩しい
中に入ると人がいると言うだけで落ち着く
でも 長居は無用、俺はエナジードリンクを買ってコンビニを出る。
そして我が家に着いた。
しかし中には入らない
家には灯りが点いているからね
わざわざ鍵を取り出して、その上開けて中に入るなんて面倒な事はやってられない!
それよりも、さっきの出来事だ
今日一日を振り返って見て
消去法で考えよう。
俺は今日の出来事を朝から辿る。
まずはカラスだ
今朝はあいつらの鳴き声で目が覚めたんだ
隣に住んでいる幼馴染みの恵茉にも
『珍しく早起き〜!』
なんて冷やかされた。
そして例の電柱で不審人物に出会う直前まで一日中鳴いていた
当然家の周りと学校の周りのカラスは違うよなー
不特定地域のカラスが一斉に鳴き出すなんて事があるのか?
いや待て、あいつらには羽がある
俺を追いかけて飛び回っていたとか
いやいや、それは有り得ないな
第一何のために俺を追い回すんだ?
今までカラスに悪戯した事なんて無いぞ
恨みを買うような事はしていない。
つー事でカラスは無関係!
次は、次は····
まいったな今日の昼間は何事も無く平凡に過ごしていたぞ
これだと、いきなり夕方に飛んでしまう事になる。
なにが消去法だよダメじゃないか。
やはり核心を突かなければ!
電柱の側にいた奴が不審人物に見えたと言う事は、少なくとも犬や猫じゃ無い
脚は電柱の陰になって片方しか見えなかったけれど、脚が有るのならば幽霊の類では無い!
だったらどこに消えたんだ?
そこなんだよなー
「ガチャ!」
その時家のドアが開いた
「あんた家の前で何をしてるんだい、帰って来たらさっさと家に入りなさい!」
「お、お袋!これは、その〜」
「お向かいの奥さんから SNS で連絡が来てね」
「お宅の息子さんが玄関の前で何やら困っていますよってね!」
これはマズい事になった何か言い訳を。
そうだ!
「鍵を忘れてしまって」
「インターホンがあるでしょ!」
秒速で敗れる俺。しかしっ!
「今日はお袋家にいたけど留守の時はどうするの?」
さて、如何かな?母上!
「いつものお店でカラオケ歌ってるから、そこまで来ればいいじゃない」
うぐうっ!完敗だ。
「ほら、さっさと家に入りなさい」
お袋が右腕を振って玄関へ上がるように促す
「うい〜っす」
少し納得行かないけどさ、俺が敗者で有る事に変わりはない
「返事はハイ!」
お袋が苛立ち気味に言う
「ハイ、ハイ!」
まったく、なんと言う屈辱
「ハイは一回!」
お袋は呆れ返っている
「ハイ!」
なんだよこれは?
家に入ると、夕ご飯のいい匂いがしてきた
焼き鳥丼だけどね。
自室で部屋着に着替えて
手を洗い、うがいを済ませてキッチンに行くと食事の用意が出来ていた
焼き鳥丼だけどね!
「今日は遅かったじゃないか?どうしたんだ」
親父が聞いて来た
スマホでニュースをチェックしながら喋るので当然俺の方は見ない
「久々に部活に熱が入っちゃってさ」
用意しておいた言い訳だ。
「そうか、それならいいんだ」
「変な所に寄り道なんかするんじゃないぞ?」
「ハイ!」
ハイは一回だよね。
「判ればいいんだ。さ、食事にするぞ」親父はスマホをテーブルに置くと、手を拭きながら着席を促すように俺を見る
俺はなるべく音を立てないように椅子を持ち、席に着いた
お袋もそれに倣う
親父が怒った所は一度も見た事がないが、それだけに怒った時の事を考えると全身が総毛立つ。
「いただきます!」
誰が最初に言うでも無く全員の息が合う。
黙々と箸を進める
焼き鳥丼は、まぁいつもの味だね
もしかして、これがお袋の味かな〜
せめてさ、手作り料理で有って欲しい
焼き鳥をつまみながら思いを巡らす
しかしこれと言った料理が出て来ない。
まぁ、焼き鳥丼でもいいか
これなら俺にも作れるし。
食事が済んで
親父は居間でテレビ
お気に入りのニュースバラエティだ
お袋は食事の片付けに洗濯
どうやら今晩はカラオケには行かないようだ
さて、どうする?親父に夕方の出来事を話してみるか。
「親父ちょっといいかな」
俺は夕方の出来事を覚えている範囲でなるべく詳しく話した。
珍しく親父の食いつきが良い
俺に座るように促し「あくまで私見だが」と、前置きをした上で話し始めた。
「電柱と言うより電線だな」
「それ以外だと大型の家電製品」
「これらは固有の電磁波を放射していると言われていて」
「特定の場所あるいは条件で、そこには無い物を実体化させるそうだ」
オカルト?それともサイエンス?
父上、一つ質問してもよろしいでしょうか
「例えばどんな物?」
親父はテレビを消して俺の質問に答える
「見える物は見る者によって異なる」
「見る者の嫌な物、怖い物、楽しい物そして望む物」
「そういう想いが形になる」
親父は再びテレビを点けた。
なるほど~
その話が本当ならば俺は怪しい奴と縁が有ると言うのか!あるいは俺自身が怪しいオーラを放ってるとか?何か望む答えとは違うような気がする
俺は普通の高校生だぞ。
それにしても親父の意外な一面を見た気がする
いつもニュースばかり見ていると思っていたからね〜それに大学は確か文系だし
それがニューサイエンスにも造詣が深いとは!これからは、この手の話は親父にする事にしよう。
俺は親父に礼を言うと、自分の部屋へ向かう
途中で会ったお袋に早く風呂に入ってと催促された
「先に風呂に入るか」
脱衣所で服を脱ぎながら
親父に聞いた話しを参考に、自分なりに考えてみる
しかし答えは出ない。
浴室で体を洗いながら考える
やはり答えは出ない。
湯船に浸かって考える
ダメだのぼせてしまう!
風呂を上がって自室の中
デスクの上に広げた宿題を速攻で終わらせた
「俺はやれば出来るんだよ!」
誰に聞かせるでもなくね
虚しい····それに疲れた、しかし結果は明日出る
その時になればクラスの皆んなが驚く事になるだろう!
たぶん。
さてと、核心に迫るとするか
エナジードリンクのタブに指をかけ起こす
「プシッ!」心地よい音と共にシュワァッと炭酸が抜け、独特の匂いが鼻をくすぐる
「ゴクリ」思わず生唾を飲み込むと『もうコイツ無しでは生きてゆけない』そんな事が頭をよぎる「ハハッ、まさかな」独りごつと、500mlを一気に飲み干す「プハーッ!」よし、さっそくミッションスタートだ!
デスク上のPCに向かうと
町内会の伝言板にログイン
防犯情報をクリック
ザザザっと防犯に関するお知らせが出てくる
不審人物で検索をする
三件の情報が出てきたが、どれも無関係
痴漢とかひったくりの類いだ
しかも情報が古い
伝言板をよく見ると最終更新は二ヶ月前
頼りになら無いな、毎月高い町会費払ってるのに〜っ。
仕方が無い俺から書き込んでおこう、何か反応が有るかも知れない
「電柱の陰に隠れている不審人物に注意」よし、こんな物かな?
「ふーっ」
それにしても伝言板にはいろんな事が書いてある
よく有るご近所トラブルが大半だけどね
最新の書き込みは当然俺の情報
最終更新の日付も今日の物に変わっている
それにしても2ヶ月間何事も無かったと言う事は、我がご町内はそれなりに平和だったんだなぁ〜
もしかしたら俺の書き込みが不安を煽ってしまうかも知れない。
削除するべきだろうか?
いや、俺はウソやデタラメを書いた訳じゃない
このままでいいだろう。
伝言板からログアウト
また明日にでも確認しよう
「ん?」メールが届いてる
差出人は、文字化けでもしたのか全て?になっている
PCとリンクしているスマホを見ると、こちらには届いていない。
怪しい!削除だな。
人差し指のカーソルをメールに合わせると、勝手にメールが開いた。
「やばっ!待て、落ち着け俺」
メールが開いただけだ
慌てる必要はない、はず。
どらどら?何が書いて有るんだ?
メールに書いて有ったのは
「わたし不審人物じゃ無いよ」
わたしだって言われても
隣の恵茉じやぁ無い。
不審人物だと書いて有るし
これを知ってるのは、伝言板を読んだ者だ。
でも伝言板を読んだ者の返信でも無い
書き込みは匿名だからね。
だったら、このメールは誰が送ってきたんだろう。
俺はもう一度メールを確認する
「わたし不審人物じゃ無いよ」か····
なんだ?このメールは
わたし?どこのどいつだ
もしPCとリンクしているスマホにも届いていれば、何者かが不特定多数にバラ撒いたと言う事も考えられる。
でも、このメールはPCにしか届いていない。
町内会の伝言板に注意喚起の書き込みをしたすぐ後だ
俺宛に送られた物だと考えたほうが自然だろう
しかし匿名の掲示板からどうやって俺を割り出した?そしてPCだけに送る事ができたんだ?
凄腕ハッカーが俺を狙っている!
「んな、まさかね〜ハハハッ」
我ながらバカらしい発想に思わず笑みが漏れる。
でもさ。
何者かに目を付けられたのは
どうも疑いようが無い。
とにかく、このメールはゴミ箱行きだな「ポイっと」
「ふーっ」これでよし····って、ちょっと待った!不審人物の重要な手がかりだぞ? 俺は慌ててゴミ箱からメールを取り出す。
相変わらず注意力散漫だな
こんな者で不審人物の謎に迫れるのか? 「不審人物」と、新しいファイルを作った。ここに入れておこう。
念のために、町内会の掲示板を
もう一度開く
今回はログインしないでゲストとして閲覧
防犯不審人物で検索、四件ヒット
最新の書き込みは俺の情報だ。
「うーん」
あんな目に遭ったのは俺だけなのか
不満感がつのる
いや、別に町内の人が怖い目に遭えば良いと言う訳じゃないけどね
何て言うか、ねぇ?
町内会のページを閉じる。
そして、
しばらくPCの画面を凝視する
もしかしたら、またメールが届くかも知れないからね。
30分経過。
画面が暗くなる
ドキッとしたけど
スクリーンセイバーが働いただけだ
マウスを動かすと画面が明るくなった。
1時間経過。
退屈だ〜スマホのゲームでも遊ぼう
このアプリ、ダウンロードしてから一度も開いて無いんだよね
この間、学校で友人にすすめられたんだけど、絶対にオモシロイからって言ってた
本当かなぁ。
俺と友人は好みと言うか趣味が異なる
俺に合わせて選んだのならば問題は無いんだよね
もし友人の趣味で選ばれていたら?
少し不安がよぎった。
ええぃ!迷っていてもどうにもならない
ポチッと
さて、どんなゲームだろう
スマホの画面にはデカデカとメーカーロゴマークが
あまりゲームを遊ばない俺でも知ってるメーカーだ
期待しても良いのか、友よ!
メーカーロゴの後は画面が真っ暗に
しばし待つ
まだ暗い
あ、メッセージが出て来た
なになに〜
『ゲームを遊ぶには1.7GBのデーターダウンロードが必要です』
なんですとー!
このアプリ、削除しても良いかな
友人には素直に謝っておこう
ポチッと
はい、削除終了と。
「ふわぁ〜あ」眠い眠い
今、何時だ
スマホを見ると9時47分
例のメール、もう今日は来ないだろう
念のためにPCをシャットダウンして、スマホの方はどうしよう?電源を切っておくか
部屋の明かりを消してベッドの中に潜り込む。
ゴソゴソ、モゾモゾ
「おやすみなさ〜い」
あ、
歯を磨くの忘れてた
歯磨きに行くか虫歯はやだからな。
ベッドから出て、部屋から薄暗い廊下を通って洗面所へ
明りを点けて歯磨きを始める。
シャコシャコシャコ!
そういえば死んだ爺ちゃんが言ってたっけ『歯を磨くときは歯茎から磨け』でも学校では歯と歯茎の間を重点的にと教わった
どちらが正しいんだろう?
シャカシャカシャカ!
「んん〜ん?」
誰かに見られている。
気のせいで済ませたい所だが、夕方の事も有るし親父から聞いた話も気になる
何よりも誰かの視線を肌で感じる
肌と言うか皮膚感覚は重要だと思う
『人間は皮膚感覚を得るために体毛が薄くなった』
尊敬する先輩が言っている事だ。
どうすればいい
このまま歯磨きを済ませて部屋に戻るか
視線の正体を確かめるか。
どちらにしろ、歯磨き途中ではね
シャキシャキシャキ!
ガラガラー
ペッ!
よし終わったぞ。
答えも出た
視線の正体を確かめる。
少し?いや、かなり怖いが
正面の壁の鏡で後ろを見てみる
誰もいない
と、なると横か?いや感じからすると明らかに後ろから見られている
しかし鏡には誰も映っていない。
『その類は鏡に映らない』と聞いた事が有る。
そして謎の視線は相変わらずだ
もしかして俺は厄介な事に首を突っ込んだのかも知れない
でも確かめると決めたんだ
後ろを振り向くしかないのか
怖いけど、何者かが居るのならば
これ以上待たせるのはマズイ気がする
何より、このままだと俺は部屋に戻れない。
深く呼吸をする
それから
覚悟を決めて後ろを振り向く!
やはり誰もいない
でも何者かの気配はする
俺を見つめる視線も感じる
このままにらめっこか?
ふざけるな!
勇気を出して拳を突き出す。
パシッ!「痛っ!」静電気のような衝撃が拳に走った
一瞬人影のような物が浮かび上がる
「何なんだ?」
その影は女のように見えた
すぐに不審なメールの文面を思い出す。
『わたし不審人物じゃ無いよ』
『わたし』
やっぱりコイツが送ってきたのか
しかしどうやって?
すでに人影は消えているが気配はまだ有る
もう一度拳を突き出すのは止めておこう、怖いが変わりに質問だ。
「あのメールを俺に送ったのはお前か?」思わず声が裏返った
すぐに答えが返ってくる
「そうだよ」やはり女の声だ
そして何者かの気配が消えた。
キレイさっぱり消え去った。
「うむむむむ」一体どういう事だ?
それに、あの声には聞覚えが有るような気もするぞ
俺は誰と会話をしたんだろう
そしてアイツは、どうやって家に侵入したんだ。
もしかして俺が連れ込んでしまったのか?塩でも撒けば退散するかな
でも相手はお化けや霊の類では無いみたいだ
何やら実態らしき物が有ったし。
何にせよこれからは、どこで遭遇してもおかしく無いと言う事か?
改めて考えると怖くなって来た
後の事は部屋に戻って考えよう。
さて、洗面所の明かりを消すのか
当然真っ暗になるよね?
廊下の明かりを点けるまでの時間は約5秒
この間に、もしさっきのヤツが出てきたらどうすればいい?
今の所、対抗手段は無いからな。
そうだ!廊下の明かりを点けてから洗面所の明かりを消せばいいんだ
「フフフッ俺をナメてもらっては困る」それでは早速
廊下のスイッチをパチッ
廊下が明るくなったのを確認して
洗面所の明かりを消す
後は部屋に戻るだけだな
自然と早歩きになる
仕方ないだろ?だって怖いんだからさ。
部屋に着いて中に入ると、とりあえずベッドに座る
これならば考えている途中で眠くなってもすぐに休めるぞ。
さ~て、まず謎の存在はどうやって家に入って来たんだろう?
やっぱり俺に憑いて来たのかな
そう考えれば謎のメールの問題は一応答えが出る
つまり俺に取り憑いてメールを送らせた
俺のスマホからPCに送れば、スマホの方にメールが届いていない説明には一応なる。
早速スマホの送信履歴を見てみよう
メールアプリの最新の送信履歴は
一昨日の午前6時17分だ「うむむむむ」おかしいぞ
俺の推理が外れた?いや、これでいいのかも知れない
謎の存在に操られてメールを送信したとなれば、正直なところ内心穏やかではないからね
少なくとも俺は無意識の内にメールを送ってはいない、それは確かなようで安心したよ。
それに俺に取り憑いて家まで入った可能性も低くなる。
それならばどうやって家に入った?
頭を絞って考えてみるが全く分かんねぇーや「ハハハハッ」この辺りが俺の限界か。
明日親父にでも聞いてみよう。
今晩はもう寝るか
部屋の明かりを消すとダッシュでベッドに潜り込む!謎の存在が現れたら厄介だからね
頭までスッポリと布団を被る。
ダメだ息苦しい。
布団から鼻まで頭を出す
部屋は真っ暗だ
謎の存在の声とか聞こえたらどうしよう?
そうだ!何かラジオ番組を聞いていよう。
デスクからラジオを持って来て、コンセントに電源プラグを差し込む
枕元に置いて、ベッドに潜り込んだ
「さて、何を聞こうか?」
ラジオの電源を入れて選局ボタンをポチポチと押す
しかしどこの局も入らない
AM も FM もだ
ボリュームボタンを押してみても何も聞こえない
壊れたか?そんなはずはない
さっき宿題をやっている間はちゃんと聞こえていた。
その時、何かが聞こえた。
あくまで何かだ、
ラジオパーソナリティーの声とか音楽ではなく、もちろんノイズでもない
怖くなって電源を切った
選局モニターのライトも消える。
しかしすぐにライトが点く
モニター表示はめちゃくちゃだ
そしてアイツの声が聞こえた
「どうしたの?眠れないの?」
なんなんだコイツは
眠れないのは誰のせいだと思っているんだ?
「オマエのせいだよ!」
俺は思わずラジオに怒鳴っていた
急にカッとなって頭の中は真っ白だ。
しばらくして落ち着くと。
ラジオからは聞き覚えのある曲が流れていた
今流行りの J-POP だ
アイツの声はもう聞こえない。
息苦しくなり、ベッドから上半身を起こす。
俺はマズイ状況に追い込まれつつ有るんじゃないか?
ラジオからアイツの声が聞こえた
やはり聞き覚えがある····気がする
洗面所で聞いた声よりもクリアだった
スピーカーを通したからだろうか。
そうなると、どうやってラジオを
コントロールしたんだろう。
まてよ。
PCに送られたメール
あのメールはどこからか送られて来たのではなく、PCをコントロールして作ったんじゃないかな。
PCとラジオ
共通点は電化製品
電気で動くと言うことだ。
洗面所でアイツに触れた時
電気の様な衝撃が有った
アイツの正体は電気か何かかな。
「うーん」
もう少しで答えが出そうな感じだ
「うぅーん」
ガンバレ俺!
「だ、だめだー」
ベッドに大の字になる
何事にも限界が有るからね
それにさ
俺は文系で園芸部員だし
そもそも科学技術には疎いんだ。
自分の限界を思い知らされた所で
疲れがどっと出た。
俺はラジオの電源を切ると
ベッドに潜り込み眠りに落ちた。
続
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