ドラゴンアンケートにご協力ください

もみあげ大将

ドラゴンは山にいる

「すみません、ドラゴンです。登山の途中で大変お忙しいと思いますが、アンケートにご協力いただけませんか。お時間は取りませんので……」


 恋人に誘われ登山に来て、ちょうど1時間が経過した。どうやら私も恋人も登山に向いていたようで、特に喧嘩することもなければ、疲労で会話が途切れることもなく。なんなら恋人に選んでもらった登山靴の履き心地が存外に良くてベタ褒めしたところだ。もう少ししたらこの山八合目で開けた場所に到着するからそこでお昼でも食べようか、と話している最中に、登山横にあるうっそうと茂った木々の隙間から、背中をかがめたドラゴンが話しかけてきた。……背中だろうか、もしかしたら首かもしれない。

 ドラゴンなんて見るのは初めてだ。しかし幼い頃、金曜の夜に見たファンタジー映画で出てくるような、固そうな赤いウロコに包まれ、角は三本。爬虫類特有の黄色い瞳に、黒い細長い瞳孔。でっぷりとした腹に、蝙蝠と恐竜を足して二で割ったような翼を背負った三メートルほどのドラゴンが、申し訳なさそうに。いや爬虫類の表情ってわかりにくいな……ドラゴンって爬虫類なのかな……とりあえず申し訳なさそうに話しかけてきた。声がそうなのだ。


「ドラゴン」

「あ、はい。ドラゴンです。いや、わかっているのですよ、今どき王道な風貌のドラゴン。流行らないし、リアリティがないと言われるのです。骨格とか、初出がどことか。しゃらくせえと思うのですけどね、はい。これが。私がドラゴンです」


 思わず恋人と目を合わせる。悲鳴や歓喜の声でも挙げた方がいいのか、その方が自然じゃないかと思うのだが、まず困惑が勝ってしまう。突然ドラゴンが山道の横から出てきたら、多くの人間がこうなると思う。クマが突然出てきたときの方が素直にリアクションを取れると思う。


「あの。ドラゴンがこんなところで一体何を」

「あ、普段はあれです。コーサイメイガスってもので隠れているんですよ」

「光学迷彩?」

「なんですか。人類が勝手にそう呼称して言っているだけじゃないですか」

「ドラゴン心狭いな」

「よくないですよ人類。些細なことを気にするのはよくありません。まあいいじゃないですか。ちょっとお話を聞きたいんです。安心してください。ドラゴンは偉大なため人類の数をここからでも数えることができます。こんなド田舎の山に登っているのは貴方達だけです」


 何の心配をしているのかわからないうえに、今日この山を登っているのが自分たちだけという嬉しいのかどうかわからない情報を渡されて、何度目かわからないくらい、恋人と目配せをした。彼は肩をすくめている。


 八合目までドラゴンと歩き、休憩所となっている広場のベンチに座る。


「ドラゴンって徒歩移動なんだ」

「むむ。あなたドラゴンな私のことリザードマンみたいとか言おうとしたでしょう。カレイとヒラメを間違えるくらい失礼ですよ」

「思ったより近いもの同士のたとえで来たな」

「本気出せばスカイツリーくらい大きくなれますよ。いや……え、エベレストくらい」

「大きく出たな」

「こちら下のコンビニで頂いたおにぎりです。アンケートの先行特典ですので遠慮なくどうぞ召し上がり下さい」


 ドラゴンの翼の脇からコンビニおにぎりがボロボロと零れ落ちてきた。気持ち悪い。


「や、瞳の作ってくれたお弁当があるのでいいです……」

「いや企業努力の結晶。売り物の方が絶対おいしいですよ」

「失礼なドラゴンだな。そしてドラゴンってコンビニで買い物するんだ」

「多様性って素晴らしい。お金は頂上にある神社のお賽銭を少々拝借して」

「本格的な窃盗。いただけません!」

「あっじゃあ喉元の逆鱗とかどうですか?」


 ドラゴンが喉元のウロコを突然はがし始めた。逆鱗ってそんな気軽に剥がしていいんだ。とぼんやり見ていたら、絶叫というには激しい風圧で私たちの足が地面から離れ、鼓膜が破れて脳が痙攣しそうな悲鳴がドラゴンから出た。ごおごおという轟音が響いて、木々の枝や葉がざわざわとひっきりなしに騒ぎ立て、小鳥は飛び立つ前にボロボロと地面に零れ落ち、カモシカが足をもつれさせながら下山して、クマが岩石のように転がり落ちて、スマートフォンからアラートが鳴った。恋人が私を庇うように覆いかぶさって、私、男を見る目がある……という希望が湧いた。


「ハァッ……ハァッ……げ、逆鱗です……」

「い……いらない……」

「こんなに苦労して剥がしたのに、いらないのですか……?」

「本当にいらない……」


 遠くからカンカンカンという消防車やパトカーのサイレンが聞こえてきた。思ったより大騒動になって、怪我人がいませんように、と心の底から思った。


「もういいです。アンケートだけ答えてくれたらいいです」

「こちらが悪いような言い草」


 ごそごそとドラゴンが脇からノートとペンを取り出した。本当に気持ち悪い。


「おじいちゃん。どらごんがいるよ。裁縫箱にいるやつ!」

「本当だ、ドラゴンじゃなあ……」


 ドラゴンがノートをぺらぺらめくっているうちに、健脚なおじいさんと孫であろう少年が通り過ぎていく。あの地響きの後も登ってきたのか。果敢だな、怪我がなくてよかったね。


「いや山に登っているの私たちだけだって言ったじゃないですか」

「ドラゴンにとって人間って矮小で」

「上位目線本当によくない」

「すみませんそちらのご老人と少年もアンケートにご協力お願いできませんか。この哀れなドラゴンに愛の手を差し伸べる優しさを求めています」

「悔い改めるのが早い」

「先行特典のおにぎりです」

「すげー!変なところからおにぎり出てくる!かっけー!」

「かっこいいんだ」


 老人と少年は思ったより乗り気でやってきて、ハンカチを敷いて天然の石ベンチに座った。


「アンケートというのはですね、私、より理想的なドラゴンになりたいのですが。今この時点でどれくらい理想のドラゴンか。理想のドラゴンとは何が必要で、なにがいけないのか教えて欲しいのです」


それではこちらをどうぞ。と一枚の用紙を手渡される。ドラゴンが言った通り「今貴方の目の前にいるドラゴンはどれくらいドラゴンらしいですか」といった質問の数々に、十点満点中何点か、と記入する箇所がある。四枚手渡されたので隣にどんどん渡していく。学校かよ。

 「よめないところがあるよお」と少年が悲しい声を出したので、老人と私たちが囲んで一字一句説明していった。


「私、この山で崇拝されているドラゴンでして。頂上にある賽銭箱からお金を取ってきていると言いましたが、そもそも頂上にある神社は私を崇拝したものなのです」

「や。あれは山そのものを讃えるものじゃな。山岳信仰というものじゃ」

「いきなり違う」

「あれは私を讃えるものなのですが」

「間違いを絶対に認めないドラゴンだ」


 地元住民であろう老人の指摘もなんのその。ドラゴンは爬虫類特有のぎょろぎょろという人間にはできないような瞳の動きを見せた。実はただの爬虫類かもしれない。


「いずれ姿を見せよう、そして讃えてもらおうと思って早幾年。完全にタイミングを失ってしまい、なんならこのまま出てもあまり威厳がないのでは。人類にがっかりされてしまうのでは。コンビニで姿を見せてあまりリアクションがなく、今もまさにそう。何とかしなければいけない。しかし私から見た私は完璧でしかないので、人類。貴方たちの意見を求めたいのです」

「はあ……」


 先程の逆鱗騒動から少し時間もたって、目覚めた鳥たちが穏やかに囀り始め、シカやイノシシたちも申し訳なさそうに森に戻っていく。それを横目に見ながらアンケートに答え始めた。さらさらと鉛筆の走る音が大自然で小さく主張する。


「なにか質問があればお答えしますよ。私は寛大なドラゴンなので」

「あ。出来ました」

「もっと時間をかけるのです、人間!」

「うわあ!」


 手を挙げて記入が終わったことを伝えたのに、ドラゴンの感情が昂ったからだろうか。ドラゴンの口から真っ赤な炎が噴き出した。ガスバーナーのような勢いで炎が口から噴き出て、雑草などが焦げる匂いが広がった。迷惑そうな顔をしたクマが遠巻きに見つめている。クマは火を怖がらないというが迷惑がるということが分かった。そんなもん知りたくなかった。


「あ!枯葉に燃え移った!」

「水筒の水をかけるのじゃ!」

「風なくてよかった~!」

「偉大なドラゴンポイント今で減点しましたからね!」


 そんな……。とドラゴンが悲痛な声を漏らせば、彼の足元がパキパキと凍りだす。情緒不安定かよ。


「しょんぼりドラゴンが皆さんのアンケート結果をお聞きします」

「ドラゴンらしさでいうと四点かなあ」

「落ち込みました」

「優しいな。俺は二点」

「いまだかつてない落ち込みドラゴン」

「でもぼく、したしみやすさ?は十点にした!」

「甘いよ。私はさっきの逆鱗騒動と火吹きで大幅減点した」

「わしはそれで『畏怖点』を上げたぞ」


 ドラゴンはなで肩になりながらも(ドラゴンって落ち込むとなで肩になるんだ)私たちの意見やアンケート結果、点数を自分のノートに記していった。

同じものを見たり、話したうえで私たちの意見が微妙に違ったり、良いと思ったことや悪いと思ったことが正反対で、点数をつけている私たちもちょっと面白くなってきた。


「脇からおにぎり出てくるのやっぱ気持ち悪いよ」

「でも、おなかすいたときとかの秘密基地になるじゃん!」

「怒ると火を吹くの、感情をコントロールできたほうが偉大っぽくないか」

「しかし、自然とは気まぐれで痛々しい物じゃ。自然の畏怖とドラゴンらしさは近しくないかの」

「やっぱ喋り方がさあ、ちょっとなんか、親しみやすいけど偉大さに欠けるというか」

「登場の仕方も林からぬるって出てくるの、なんか……ねえ」

「やっぱ人類のピンチとかききてきなとき!でたすけにくるってやつ!」

「今すぐ偉大ポイントは稼げないよねえ」

「ドラゴンってやっぱ飛べるの?」

「あ、はい。このように」

「垂直?!」

「減点!減点!」

「長生きするものじゃのう。ドラゴンが垂直に飛ぶ瞬間を見ることができるとは……」


 八合目。もう少し登れば山頂だというのに、ドラゴンを囲んであれがいい、ここがいい、こうしたほうがいい、やっぱダメかも。そんな意見や感想を、初めて出会った老人と少年を交えながら話している。なにしているんだろうな私。でも思ったより楽しいな。


「人を乗せたりできないの?」

「コンビニの店員を乗せたことがありますが頭上で嘔吐されました」

「乗り心地最悪なんだ……ドラゴンライダーって幻覚なんだ……」

「なにか大事なものとか運んだりしたら感謝されるんじゃない?」

「ドラゴンヤマト、ということでしょうか」

「怒られそう」

「なんか活かせそうなものが沢山あるんだけどなあ」


 昼を過ぎて、太陽が退屈し始めて衣替えをしそうになったものだから、私たちはアンケート会議を一度中断して山頂へ歩き出す。


「山頂まで乗せましょうか」

「さっき乗り心地最悪な話をされたばかりなのに?」

「こういうのは自分で行くから意味があるんだよな」

「すでにえりすぐりの道を歩いているだけのくせに……」

「アンケートで人の意見求めているくせに……」

「まあまあ」


ドラゴンは思いのほか威厳のない話し方をする。

ドラゴンは怒ると火を吹くし、落ち込むと足元を凍らせる。

ドラゴンは空を飛び、思いのほか直角で移動する。そしてトラックより早い。

ドラゴンはわきの下にたくさんのものを仕込める。

ドラゴンの逆鱗をはがすと大変。

ドラゴンは意思疎通が可能。

ドラゴンは大きさを自由に変えられる。

生きていて必要かどうかわからないドラゴン知識が増えていく。ドラゴンらしい情報かどうか、微妙なところ。


「うまいことしたらすごいドラゴンになりそう」

「これ以上素晴らしいドラゴンになれる可能性を秘めた私。ほれぼれしますね」

「なんなんだよその自己肯定感」

「私、出来ることがまだまだありますよ。畏れましたか、人類」

「今すぐ言えよ。やれよ」

「緊張してできないこともあります。次を待ちなさい、人類」


 次があるのか、と驚き恋人を見ると、やはり困ったように笑っている。


「じゃあアンケートはここまでにして、出来ること今度教えてよ」

「いついらっしゃいます? 伝助を貼りましょうか」

「ドラゴン界隈でも伝助流行っているんだ。うわ!ドラゴンからDM届いた!」

「ドラゴンメール?!」

「ドラゴンは大気や電気を操ります。このような電気信号などいじれば、う!私の脳内に迷惑メールを送るのはどこのどいつです!」

「これも活かせば何とかなりそう」

「だれですか! 私の脳内にddos攻撃を仕掛けているのは! やめなさい!」

「ドラゴンの脳内サーバーどこかで晒されてない?」

「はいてくじゃのう。どらごん」


 こうして、私たちの『ドラゴンをより素晴らしいドラゴンにするの会』はこうやって始まった。はじめはもっとかっこいい名前……私と恋人の名前が『瞳』『結汰』、それと八合目に現れる、よりドラゴンらしさを求める姿から『画竜点睛』をイメージして『竜の目』とか『秘密ドラゴン結社』なんて考えてみたけど結局『ドラゴンをより素晴らしいドラゴンにするの会』にした。


 月に一、二回この山の八合目に集まって、ドラゴンができることや、ドラゴンが知っていることを教えてもらい、どうすればドラゴンらしく見えるか、人前に出ても恥ずかしくないか、出来ることをこう組み合わさればドラゴンらしいか話し合うことになった。最初は私たちだけだったけれど、時折何も知らない人が(不幸にも)出くわしてアンケートに答えてもらい、そのままこの会に参加することもあった。

 この会は思いのほか長く続いて、少年が運動会で一等賞を取ったとか、私が恋人から指輪を貰ったとか、老人が百歳おめでとうの賞状を持って来たりとか、恋人と結婚式を上げたりとか、少年が高校生になったとか、新しく入った子たち同士が親友になったとか、山じゃなくて地元で飲み会をしたりとか、たくさんのイベントがあって、その都度ドラゴンに報告して、なんで読んでくれないのですか、人類……と悲しむドラゴンから受け取ったアンケートを書いたりして。


まあまあ楽しかったのだ。










「……と、ひいおばあちゃんとひいおじいちゃんが話してくれました」

「そうですか」


 かつてこの山で私のアンケートに答えていた女性によく似た少女がそう話してくれた。あの夫婦が来なくなった、と言っても私の時間間隔は彼らと違うので「しばらく来られなくてごめんなさい」と言われてもそれほど気にならなかった。そういえば最初に伝助を五年単位で作ったことに随分驚いていた。五年ごとでも早いと思ったのだけれども。


 瞬きよりも短い、それくらいつい最近、けれど人類が新しい街を立てて馴染むくらいの月日。それくらい前のこと。私が逆鱗を5枚ほど剥がしたときのような地震がこの国であった。アンケートに答えてくれる人々に電波を飛ばして確認すると、彼らの一部が、隔離した場所にいるとか、食事が届かないとか、両親が家から出られないとか、連絡が取れないとか、困っていることが多いようで、本来は混線して連絡が取れないはずなのに、私の飛ばす電波は独自のルートを通るため彼らの声をいち早く聞き取ることができた。


 なので、私は飛んだ。


 コンビニで食料を買い、体を大きくして空を飛んだ。


 街は寒く、彼らの営みを照らす電灯はどこにも見当たらなかったが、矮小な人類がどれくらいいるか偉大な私にはわかるため、彼らがいる場所まで空を飛んだ。小さき人類が身を寄せ合っている姿を見て、足元が寒くなったが、励まそうと声を出す前に、枝を集めなさい。と声をかけ、火を吹き焚火を作った。脇から出した食糧を見せ、足元の氷で包み腐らないようにした。電波を飛ばし、無事な人々同士の連絡網を作った。


「私、偉大なドラゴンなので」


 そう声をかけて、空を飛び、昼と夜の衣替えを何度も繰り返して、ある日礼を言う人類が現れて、山頂の神社には私へのお布施がされるようになった。どの人類も私を褒めて、讃えて、頭を下げるものだから、アンケートは取らなかった。


 とても心地よかったけれど、ひとつだけの言葉があまりにも心の底からで、混じりけがなく、そのほかの意味もなく、それが少し寂しくもあったのだ。話し合いにならない時間で、あの集まりのような時間はもうなかったのだ。


「……それはそうですよ。だって、もう偉大なドラゴンですもの」

「ひまご?の貴方までそう言わないでくださいよ」

「私調べたのですよ。昔、大きな町が燃えた時都合よく大雨が降ったとか。川の水が増水した時に土砂が丁度川をせき止める位置に流れたとか。そういうときに大きな影が現れる逸話がこの国の至る所にあるのです」

「私は電波であり至る所まで飛ぶドラゴンなので、それがすべて私とは限りませんし」

「つまり?」

「あまり大げさに、私かどうかわからないすごいことを私のことのように言われると、次の言葉を紡ぎにくい。ということです」


 少女は不思議そうな顔で私を見た。

 曾祖母がよく私のことを話していたそうで、それが今世で語られる『偉大なドラゴン』と『へんなドラゴン』と噛み合わずもやもやしていたらしい。


「だから実際に会いに来ました。これから頂上でお参りもしてきます」

「瞳さんと結汰さんは元気にしていますか?」

「もう、ひいおばあちゃんもひいおじいちゃんも、びっくりするほど元気なんです!」


 それを聞いて、こみ上げるものがあった。私にとって一瞬にも満たない時間が、そこにまだあるという事実が嬉しいのだ。


 まだドラゴンや龍という言葉が人類に浸透していない時代、私は空を飛んでいた。私たちよりも矮小な人類は、なんとドラゴンというかっこいい名前を付けてくれた。だが、ドラゴンと名付けられた頃私たちドラゴンは空前の旅行ブームで、私以外の個体は電波に乗ってこの世界から消えたり、はるか遠くの光まで飛んで行ったり、遠い光そのものになった。旅行ブームだったのに彼らは全然帰ってこなくて、引きこもりの私だけが取り残された。私たちをドラゴンと名付けてくれた人々に顔を見せようとしたが、彼らが思い浮かべるドラゴンがあまりにも幅広く、出会ったこともない人類が我々を褒めたたえ、畏怖するものだから気持ちを大きくしてしまうが、誰も実際の我々を見ていったわけではなく、時折遠くから手を差し出しては話が大きくなって、私の自尊心よりも彼らを失望させる不安の方が大きくなってしまった。


 けれど、やはり私にドラゴンと名付けた人間と話をしてみたいし、直接褒めて欲しい。けれど、遠くから、まるで違うもののように褒めて欲しくない。


 だからあの日、アンケートを取ったのだ。ほかでもない彼らに。ありのままの私を、ありのまま評価してくれる誰かに、彼らの思うドラゴンが一体何かを知りたいから。


 不安で逃げられたらどうしよう。同じ意見ばかりだったらどうしよう。がっかりされたらどうしよう。そう考えていたが、彼らは忖度なしに、強い言葉を使いながらも、ばらばらの意見を思い思いにアンケートで答えてくれた。


だから、星がきらめく瞬間よりも短い時間は、私にとって理想の一時だったのだ。


「ねえ、ドラゴンさん。あなた、本当はどんなドラゴンなの?」

「気になりますか。偉大なるドラゴンが実際はどれほどまで偉大なのかを」

「あ、ひいおばあちゃんたちが言っていた感じに近くなってきた」


ふふ、と私は笑う。


「では、私がどんなドラゴンかお話したり、見せたりしますので。アンケートにご協力いただけませんか。お時間は取りませんので……」


 ドラゴンの時間は人類と違いますけれど、何かに悩み、良くしようと思う楽しさに変わりはありませんから。

 貴方に私のことを、知って欲しいのです。そして、どう思ったか知りたいのです。

そんな願いが、このアンケートに込められているのです。

 ほんの一瞬の時間は愛おしく短い。それを永遠に心へ刻んでくれるのです。

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ドラゴンアンケートにご協力ください もみあげ大将 @momiagetaisyou

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