私の函館

千織

第1話 杉浦梅潭

 小説を書いている、とは言っているが、妄想を日本語に直して恥ずかしげもなく人にみせているだけだ。上手い下手以前に、小説かどうかもあやしい。ただ一つ言えるのは、登場人物に対して並々ならぬ愛がある。どこかに、自分や今まで触れ合ってきた誰かの面影があるからだ。そんな趣味ができてから、旅で感じることも変わってきた。


 杉浦誠(最後の箱館奉行)は梅潭という名で漢詩人でもあった。素朴な言葉が並んでいるだけなのに、私は江戸時代の江差港にあっという間に連れ去られた。日常の景色、日常の仕事、日常の人々。そこに力強く生きた人たちがいた。激動の時代にあえて日常を切り取り奥行きを描いた彼の詩は、資料よりも写真よりもずっとずっと鮮明だった。

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