第16話 親友
地獄の練習を続ける中、インターハイの日が近付いてきた。
正直優勝する気しかないけど、真面目なせいか練習は最大限にやっている。
ネットでバズった後はテレビも取材に来て、あたしの知名度は異常なまでに高くなった。街を歩いていてもサインを求められることが多くなったし、こうやって分不相応な名声を手に入れて調子に乗ると色々とおかしくなるんだよなって気を引き締めている。
何もあたしはチートで魔王と闘うわけじゃない。
人生2周目っていう意味では十分にチートなんだろうけど、それだって血の滲むような努力がないと成し得ないところにいる。
それでも、変わりたくない自分と周囲から注がれる視線の変化はどうしても気になるところがある。有名なJKスポーツ選手ってみんなこんな感じでそのギャップに戸惑うんだろうな。
だからSNSはやらないようにしていた。やればワンチャン狙いのオッサンから色んなメッセージが来るのは目に見えている。自分からそんな世界に飛び込もうとは思わない。
若いJKというだけで、世間では性的な対象として見られる傾向がある。「俺」もその傾向がなきにしもあらずだったので、男の考えていることは大抵分かる。美少女JKがアカウントを設立。何かを学んでしまう前に唾をつけておけって、大抵のオッサンはそんな心理になるはず。あるはずもないワンチャンを狙って。
そのせいもあってか、ネットの反応については比奈ちゃんが情報源だ。彼女は悪い情報はカットして、いい話だけ届けてくれる。
ネットに関してはいちいち悪い情報に耳を傾けていられない。大抵は病んでしまう人がほとんどだ。そんな中で自分から発信したいほどの何かがあるわけでもない。
「ユナちゃん、そろそろインターハイになるね」
休み時間、練習の疲れでぐでーっとなっているあたしに比奈ちゃんが声をかけてくる。
ツインテールの童顔巨乳。見ているだけで幸せになれる。
「グミ食べる?」って訊かれたけど、試合が近くて減量もあるので「ありがとう」だけ言って丁重に断った。
「練習は順調?」
「うん。あとは試合するだけって感じ。早く試合して、早く終わらせたい」
思わず本音が出る。
転生したって減量はつらい。
女子になって思ったけど、代謝が違うのか体重が落ちにくい気がする。生理とかもあるし、いざ当事者になると「めんどくせー」って思うところがあったり。
そんな中で比奈ちゃんみたいなコと雑談している時間っていうのは色々と嫌なことを忘れることが出来る。そういう意味で友人の存在っていうのは大事だなって思った。
「試合が終わったらクレープがいいな」
食事を制限するせいか、試合後には反動で甘ったるいものが食べたくなる。
「いいね、それ。じゃあ、終わったら一緒にクレープを食べに行こ」
ニコニコと笑う比奈ちゃん。キミの笑顔が眩しい。
有名になったらあたしを取り囲む人も変わっていったけど、比奈ちゃんは変わらないでいてくれる。なんだか不思議な気持ちだけど、こういう友達っていうのは一生続いていくもんなんだろうなって思う。
「比奈ちゃん」
「なに?」
「なんか、ありがとね」
「???」
困惑する比奈ちゃん。あたしは無言でぎゅーってする。柔らかいほっぺたの感触を楽しみながら顔をスリスリした。
あたしのことを思いやってくれる人がいる。
それは生まれ変わっても同じことだった。
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