はるの残り香
颯 窓舞
第1話 花信
※初めて小説書き始めました。下手くそですが読んでいただけたら幸いです!
山桜散る田舎道
僕の10歩前を歩く君。桜吹雪が山から舞い降りて、君の長い髪をかすめる。
「幸彦さん!」
花嵐に負けないように叫ぶ、君。
「さ、沙雪さん?な、何?」
僕は聞き取れなかった。でも、大事な言葉は伝わる。
「私と!結婚、しましょう!」
風が一瞬止まったように辺りは静まり鼓膜に鈴のような君の声が響く。
僕は分かった、君が好きだと。林檎みたいに甘酸っぱくはないけど林檎みたいな優しい匂いがするこの思いが君に届くことを僕は願ったのだった。
「沙雪さん!」
「幸彦さん‥?」
今までで一番、真剣な顔をしたと思う。
「愛しています!」
君と道を作っていきたいと思った、1987年3月。
そうして僕らは結婚した。
僕らにはあまりお金がなくて田舎にあるもう使われていない親戚の古い家に住むことにした。埃まみれだったけど君が丁寧に掃除した。
静かな日々だった。君は静かに家事をして、内職をして疲れると縁側の大きな窓にもたれて眠る。
そんな傍ら僕は昔大叔父が使っていたとされる書斎で仕事を片付けながら、くだらない小説を書いていた。
「幸彦さんは小説を書いている姿が一番綺麗。」
お付き合いを始めた頃から、結婚して夕食を共にする時まで妻は僕にいつも呟いていた。綺麗だと言う妻の発音が綺麗でいつも聞き惚れていた。けれど、その言葉を聞くたび金にならないことを繰り返す僕は妻にどれほど迷惑をかけただろうと罪悪感に殺される。
「お金のことは気にしないで。私は夢を追いかける貴方が好きなの。私も美しいものを描いているみたいで幸せになれる。」
美しくなんてないのにー
数年後、娘が産まれた。妻は子供が好きで、子供ができたら沢山の愛情を与えて育てるのが夢だったらしい。
娘は美しかった。産まれたばかりの娘は春の温かな日差しに照らされ、産声をあげて精一杯生きようと、躍動していた。
妻の細く白い指を娘の小さな手が握る。
「かわいい。」
妻は優しく微笑んだ。
「ねえ、名前をつけて。」
「…のえみ。そう、呼びたい。」
色々、候補はあったけど妻の笑顔と娘の産声を感じてこう呼びたいと思った。
「のえちゃん。
ねえ、漢字は野原の野に笑う、じゃだめかな。平仮名?」
「ううん。素敵だよ。意味は?」
「意味?それはこの子のこれからの人生。」
その時、僕はやはりこの人を選んでよかったとまた実感したのだった。
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