アプデと共にRPGの世界に閉じ込められてしまったんだが?

深月

第1話 全ての始まり


今、この世界で……日本で、最も熱く社会現象と化しているゲームがある。その名を「ラグナロク・ヘルゲヘナ」。通称「ラグヘル」。

名前ダセェと思ったろ?それもそのはず、このゲームを作った奴はゲーム会社の社長の息子。神童とも称される八歳の子供だ。よってとにかくカッコイイ単語詰め込みましたー的な名前になっている。


「さぁて……今日も軽~く狩るとするかね」

「軽~くねぇ……『ヒメリ』兄さぁ、この前もそう言って竜狩りしてたよねぇ?」

「だってよぉ、やることねぇんだもん。ストーリーも裏ボスも倒し終わったわけだし、雑魚はいねぇしな。……主にテメェが暴れ回ったせいでな」

「だからあれは私悪くないって言ってるじゃん」


これはゲームなので、当然プレイヤーネームが存在する。『ヒメリ』は俺のプレイヤーネームで、これは俺の本名が姫乃唯月ひめのゆづきであることと、それから推しの名前を少し持ってきたことに由来する。そして俺と今話しているのは『こはるん』こと姫乃こはる。俺の妹だ。


少しコハルと言い合っていた時、ゲームアナウンスが入る。


『次回大型アップデート情報を掲載しました。コマンドより確認してください』

「おぉ!ついに来たか!」

「大型アプデって初めてだよね?どんな感じになるんだろ」


アナウンスを受けて、俺とこはるはアップデート情報を確認するのだが……そこに書いてあった情報を、俺らは理解できなかった。


「え、なにこれ」

「は?なんだこれ……」


書かれていた内容はこうだ。


『アップデートその一:この世界を一から新しく作り直します』

『その二:それに伴いまして、今ログインされているプレイヤー及び今後ログインされるプレイヤーのログアウトを禁止します』

『その三:外部から強制シャットダウンされた場合、シャットダウンされた直後にまた強制的に起動します』


その他にも色々な情報が書かれていた。分かりやすくまとめると……今、俺達が全クリしたこの世界は消滅し新しい世界が作られる。そして、作られた世界で俺らや今後入ってくるプレイヤーは監禁される。シャットダウンしても強制的に再起動される為無駄。これが一番大きな情報だろう。


次にその新しい世界の情報。まずジョブ制度は撤廃し、一人一つスキルを付与するとのこと。そして付与されるスキルにも三種類あり、基本的で他プレイヤーとの重複もよくある『コモンスキル』。次にそこそこ珍しく重複もするにはするが滅多にないと言われている『レアスキル』。そして最後に一桁台のプレイヤーにしか付与されない、重複もない唯一無二と言っても過言では無い『ユニークスキル』の三つらしい。


「死んでもただリスポーンするだけで特にダメージは無い……まぁこれは良心的だが」

「一番の問題は出られないこと、だよね。……もう今の段階で既にログアウトが出来なくなってる」

「つまり、もう既にアップデートは始まってるって事か」

「ヒメリ兄、あれ見て……」

「あと一分で完了するって……どれくらい内密に進められてきたんだよ」


アップデート情報を確認し終えた時、上に

00:01:00と書かれたコマンドが出現した。こう確認している間にももうアップデートを進めていたと。しかもオフメンテと来た。……なるほど、なんの予告もなしに決行したのはその方がより多くのプレイヤーを閉じ込められるからってことか。


「三」

「二」

「一」

「零」


やがて、カウントダウンが完全に零秒になった。そして次の瞬間視界が真っ黒に染まり、恐らく二、三分ほどして俺の目は開いた。そしてそこは……見たことの無い草原だった。


「アップデート完了……まぁ退屈してたしいいか。出方なんて後から探せばいいしな。んな事より今はあれだ、パラメータを確認しとかねぇとな」


コマンドの出し方等々は基本変わってないみたいで、指で空に4を描くとパラメータやスキルが書かれた青いコマンドが出てくる。


「えっと、どれどれ?」


プレイヤーネーム:『ヒメリ』Lv1

メインスキル:威圧プレッシャー《ユニーク》

HP:10

攻撃力:15

防御力:30

速度:5

スタミナ:50

運:30

精神力:100


「ステータスはまぁレベル1ならこれくらいだよな。……っていうか俺ユニークスキル貰ってるじゃん!!早速詳細を……」


『《威圧》:圧倒的な威圧感と圧力で相手の恐怖感情を強く刺激する事が出来る。モンスター・プレイヤー共通してデバフ『移動不可』を付与する他、大幅なステータスダウンを付与する』


うわ、かなり強ぇヤツだこれ。なるほど、攻撃特化ではなくデバフ特化系のスキルか。なかなかに悪くない。……そういえばこはるはどこ行ったんだ?新しい世界を旅するついでに、ちょいとこはるを探すとしますかね。


「おぉ、クエスト。恐らくチュートリアル的な奴か?」


それからしばらく歩いていると、頭の中に『クエスト:悪しき魔物を成敗せよ』と流れ込んできた。恐らく、これがチュートリアルになるのだろう。現れてきた魔物もレベルは1だ。なら、ちょうどこのスキルを試させてもらおうか。


「そいじゃ早速……」


現れた魔物……レッドゴブリンがこっちに気づいたので、試しにレッドゴブリンを睨んでみる。するとレッドゴブリンは全速力で逃げようとして、けれど動けなくて、次第に泡を吹いてぶっ倒れた。


「うわ、すっげ。あんな顔してる魔物とか初めて見た……あぁ、でもまだ倒してことにはならないのか。んじゃそうだな、そこの木の棒を使って……」


道端に落ちている木の棒を、恐らく心臓があると思われる位置に思い切り突き刺す。すると、レッドゴブリンはガラスが散るようにパリンと砕け散った。……で、俺に経験値が入ると。


『クエストクリア 報酬:木の剣 木の槍』


で更にクエストクリアも達成して武器も貰えると。まぁ木の棒使うよりかは全然戦いやすいか。


『メインクエスト:遭遇』


メインクエスト……当然あるわな。ストーリーに関与してくる大きなクエストって訳だ。無くては困る。にしても……遭遇?


「あ、良かった人がいた!お~い、そこの人~!!」


なんてことを考えていると、早速後ろから声をかけられる。ってことは、コイツが今後重要になってくるNPCって事だな。


「えと……あなたは?」

「私は……って、はぁなんだヒメリ兄か」

「ちっ、なんだよこはるかよ。NPCと思って期待したじゃねぇか……でもまぁ助かった。早いところお前と合流したかったからな」


そういえば世界を作り直すってことはまぁ前の装備とかも没収されるわけで。俺もこはるも初期アバターに戻されている。そして、前まで俺達は全身甲冑だった為にお互いの初期アバをまっったくと言っていいほど覚えていなかった。


「まぁ私も早いことヒメリ兄とは合流したかったしいっか。そういえばヒメリ兄、スキルどうだった?」

「いい事を聞いてくれたな妹よ……俺のスキルはなんと、ユニークだ!!!!」

「へぇ、ヒメリ兄もユニークなんだ」

「そうそう、俺も……ってん?お前今ヒメリ兄"も"って言ったか?」

「え?うん。私もユニーク持ちだけど」

「はぁ!?」


はぁ!?こはるもユニーク持ちだと!?……広いもんで割と狭いな、世界ってのは


「私のスキルは『空間フィールド』。空間を切り取ったりその空間の時間を止めたりできるみたい」

「中々にチート貰ってんなぁおい……あぁそうだ、俺のスキルは……」


こはるに威圧について話した。いやー、中々にこはるもチートだな。絶対戦いたくねぇわ。


「ヒメリ兄、すごいチートじゃん」

「こはるが言えた事か?」

「……待って、誰か来る」


こはると話していると、水色の髪をした女がこちらに向かって歩いてきた。


「……うわ、スゴイ!こんな所でまさかユニーク持ち二人に会えるなんて!っと、いけないいけない。自己紹介が遅れちゃったね。あたしは王都で近衛騎士団副団長をやってるリィスだよ!あなた達は?」


リィス……それに近衛騎士団?……なるほど、リィスが目的のNPCって訳か。


「私はこはるんだよ。こっちはお兄ちゃんのヒメリ」

「うわぁ!二人は兄妹なんだね!そうだ、せっかくだしあたしが王都に案内してあげるよ!」

「本当か?それはだいぶ助かる」

「と、その前に……」


リィスが後ろを向く。そしてその先には、『フレアジャック』と書かれた炎の狼が六匹ほどいた。


「こはるん、ヒメリ、ちょっとユニークの力を見せてもらってもいいかな?」

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