にゃにゃにゃ転生
新巻へもん
第1話 カマドウマ転生?
「現世名、榎木双滋郎よ。そなたの来世はカマドウマだな」
「え? カマドウマですか? それって別名便所コオロギってやつでしょ? 脚が長くてぴょーんって跳ねるやつ。そりゃないんじゃないですか」
泥酔して道端で眠り凍死したはずの俺は何もない空間で謎の声と問答をしている。
視界に入る俺の手は透き通っていて、その向こうの虚無を透かしてみることができた。
謎の声曰く、俺は徳が足りていないので再び人間として生を受けることはできないらしい。
まあ、死因も死因だし、仕方ねえかなとは思うがダメ元で一応交渉をしてみる。
「えーと、特に悪を働いてもいないと思いますが。少なくとも大罪は」
「とはいえ、善行も積んでいないだろう? それにお前が死んだあと、通りがかった車に引き逃げの疑いがかかって多大な迷惑をかけておる」
「でも、カマドウマってどうなんです? なんとか、もう一声。せめて哺乳類で」
「うーむ。無理だな。輪廻の
「そんな……。じゃあ、カマドウマの生を終えたらもっといいものになれますか?」
「カマドウマとして何を為したか次第だな」
「それ、無理ゲーじゃないですか。カマドウマの体でどうやって善行を積むんです? ねえ、ホントお願いしますよ」
「……分かった」
「え? マジですか?」
いやあ、言ってみるもんだぜ。
「うむ。この輪廻の輪から外れることになるが、それでよければカマドウマではない別のものとして生を受けられるようにしてやろう」
「それって、いわゆる異世界転生というやつですか? 別にこの世界じゃなきゃ嫌だとは言いませんが、ショウリョウバッタとかじゃないですよね?」
「いや、声も出せるし、人間の基準で考えて愛らしい姿をしておるぞ」
「じゃあ、それでお願いします。ちなみに転生特典とかないですよね? いえ、言ってみただけ……」
その瞬間、俺は唐突に意識を失った。
***
いってー。
鈍い痛みと共に俺の意識が戻る。
なんと俺の体は宙を舞っていた。
「このクソ泥棒が!」
今までよりずっと良く聞こえる耳に怒鳴り声が突き刺さる。
鈍い曇空と石畳、漆喰でできた建物が次々に目に入った。
体の脇に痛みが走るが今はそれどころではない。
クルクル回転する体が落下しているところだった。
石畳が近づいてくる。
びったーんと地面に叩きつけられるかと思ったが、ぱっと体を捻って見事に着地した。
体操競技なら10点出るんじゃないかという見事なものである。
あ、両手をついているから減点か……、なんじゃ?! この手は?
真っ黒な毛が皮膚が見えないほどびっしりと生えている。
毛深すぎるだろこれ。
驚いて声も出ない俺の後ろでどすどすという足音がした。
四つん這いのまま振り返る。
のわっ。
俺の10倍以上もある巨人がギラリと光を放つ刃物を手に持って駆けよってきていた。
「今日こそはぶっ殺すぅぅぅ!」
ドップラー効果を伴った叫びをあげる巨人が俺に迫る。
ヤバい。
どう見てもターゲットは俺だった。
三十六計逃げるに如かず。
俺は勢いよく走り出した。
なぜか四つん這いのままだったが、想像以上に速く走ることができる。
ひょっとして俺って四脚神速とかいうような名前のチート能力持ち?
これなら逃げ切れるかと思ったが、どすどすという足音を引き離すことはできなかった。
なんといってもリーチの差がでかい。
つい振り返ってみると悪鬼のような形相の巨人が必死になって追いかけてきている。
殺意マシマシ。
タタタッと軽やかに走り続けていると前方に広い水面が見えた。
左右は高い壁で逃げ場はない。
水面の広さは幅10メートル以上ありそうだった。
走り幅跳びの世界記録でも9メートルぐらい。
とても飛び越えるのは無理だったが、水面にはいくつもの丸太が浮かんでいる。
どうも貯木場らしかった。
勢いそのままにジャンプしてトントンと丸太を次々と飛び越える。
やべ。
義経の八艘飛びみたいじゃん。俺凄くね。
向こう岸に跳ぶ最後の踏みきりをして安心した俺は下の水面を見た。
そこに映っているのは真っ黒な猫の姿である。
「にゃああ~ん?」
真っ赤な口から情けない叫び声が漏れた。
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