新田遊二郎のミステリアス
中島清一郎
1シーズン 第一話 孤独な殺人者
トラロープを潜り抜け、刑事である新田は部下の"北山大成"と共に犯行現場に到着した。既に鑑識による調査は終わり、遺体は検死に回されている状態だった。今回の現場は学校の職員室だ。遺体が倒れていたところには白のロープで型取られており、デスクの上には恐らく飲んでいる途中だったであろうコーヒーが倒れて、こぼれている状態だった。幸いにもそのこぼれたコーヒーが業務用パソコンや各種書類、授業で使う資料や教科書には染みていなかった。すると部下の北山が被害者の情報について新田に報告し始めた。
「事件の被害者は成田徹也さん(36歳)大政高校の美術教師でした。死因はコーヒーの中に含まれていた毒物が原因で亡くなった、つまり毒物による中毒死です。使用された毒物は塩酸、主に鉄板や鉄鋼の除錆として使われる薬品です。被害者の交友関係について洗ってみましたが、彼はk…」
と言いかけたところで新田がスッと小さく手を挙げ、
「ちょっと待って」
と北山を制止した。すると新田は被害者の席を指差し、北山にこう問いかけた。
「この被害者の席を見てどう思う?何でも良いから言ってごらん。」
北山は新田からの問いかけに少し動揺しつつも一つの答えを絞り出した。
「えぇ、被害者の机の上のペンケースが左側にあるので恐らく彼は左利きだった。普通、利き手と反対側に頻繁に使うものは置かないと思います。しかし、デスクの引き出しが右側に作られているので、いつも探し物をする時に苦労していたとかですかね?」
新田は席を見つめながら
「んー、まぁその答えも悪くないんだけどね、ちょっと違う。被害者はね、恐らく倒れてすぐ亡くなった訳じゃないんだよ、少し歩いたんじゃない?」
北山は急いで事件資料の中からそれらしき情報がないかパラパラと探し出す。
「あっ、ありました。被害者は亡くなる直前まで約4m程出入り口に向かって歩いていた形跡があります。新田さん、よく分かりましたね。でも、何で被害者が歩いたって分かったんですか?」
新田はピッと床の一部分を指差し
「ここに水滴があるでしょ?被害者の口から漏れ出たコーヒーだろうね。水滴が所々あってここまで垂れてたんだよ。だからここまで歩こうとしたんじゃないか?」
北山は新田の推測に頷きながら
「はぁ〜、つまり毒が入ったと気づいて助けを呼ぼうとした。でも出入り口まで歩いてる途中、意識を失ってここで亡くなった…」
「可能性はあるね。でもね、ここからが実に不思議なんだよ。」
そう言って新田は、口元に当てていた右手の人差し指を向かいの出入り口のドアに向けこう言った。
「被害者が出ようとしたあのドアも、反対側のドアも窓も、天窓も全部閉まってたんだよ。鍵も職員室にちゃんとあった。」
「つまり、これは…」
「完全な密室殺人だね。」
第二話へ続く
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