第五十五話/落着

「わぁー!すごーい!」

コージツの街で一夜を過ごしたオニ党一行が翌朝ギルドで目にしたのは、ひどくやつれた顔のケンゲンと、対照的に目を輝かせているレーワの姿だった。

「…大丈夫ですか?」

メイが声を掛けてようやくこちらに気付く。

「ああ、君たちか…」

「わぁー」

レーワは間延びした声を上げながら部屋の中へ入っていく。

マンジュが中を覗くと、魔法に関する本や機材が大量に集められていた。

「なんスかここ、研究室?」

「この子が解放しろと一晩中暴れてね…興味を引きそうなものをとにかく掻き集めたんだ」

確かに部屋の内装をよく見ると、即席で物を置いたという感じがひしひしと伝わってくる。

「おおー!」

レーワは真ん中の机に置かれていた魔導鞄に興味津々だ。

「でもここ、アタシの工房より環境整ってるっスよ」

「ギルド中から集めたからな」

「ふぅん」

「さて、あまり時間もない。本題と行こうか」

ケンゲンは即席研究室の中へ招き入れる。

「そこで話すのか?」

「時間が惜しい。それにこの子からできるだけ目を離さない方がいい気がするのでな」

オニ党の面々は見合って、中へ入って行った。

「まずは今回の一件、ご苦労だったな。ギルドマスターとして礼を言う」

ケンゲンは鞄から巾着袋を取り出す。

「これは謝礼だ。受け取っておくといい」

シュテンは差し出された袋を受け取る。

それなりの重さがある袋だった。

顔の前で振ってみると、ジャラジャラと音が鳴る。

「聞いていた通りの実力だった。見事だ」

「それで、エイジはどうなるんスか」

マンジュの問いかけにケンゲンは頷く。

「被害者の冒険者が自供した内容は、エイジ君の供述内容と一致した。その上で、あのリーダーは和解を申し出ている」

当事者同士で和解出来る案件にギルドは関与しないのがルールだ。

両者が和解を呑めばギルドの警察権は及ばず、この件は終了する。

「じゃあ…!」

ケンゲンは頷く。

「既に和解は成立し、エイジ君の拘束は解かれている。今日は共に帰るがいい」

マンジュは、口角が自然に上がるのを感じると同時に足の力が抜けそうになる。

「おっと…マンジュ殿大丈夫ですか?」

思わずもたれかかったメイが支えると、マンジュは笑う。

「良かったっス…」

メイも微笑み、肩を摩った。

「さて、領主だが…今日にも王国騎士団が身柄を引取りに来る事になった」

「えっ」

メイの体が跳ねる。

「カガセオに関わる案件だ。二度も戦闘経験がある君たちにも何らかの聞き取りがあるかもしれないな」

その時、扉がノックされた。

ケンゲンが返事をし、顔を出した受付嬢が王国騎士団の到着を伝える。

「噂をすれば、だ。行くぞ」





ギルドのメインホールでは、仰々しい甲冑に身を包んだ騎士団が、手に縄を掛けたカンギを取り囲み、外の馬車へと誘導していた。

周りを無数の冒険者が野次馬する中を進む騎士団の最後尾、一際豪華な装飾に身を包んだ女騎士が、オニ党の方を向くと、行列から離れて近付いてきた。

その迫力に、オニ党の周りにいた冒険者達は自然と離れていく。

「失礼、アンナ=ヴェイングロリアス嬢とお見受けするが、こちらオニ党で宜しいだろうか」

名前を出されたアンナが返事をする。

「ああ、如何にも私達がオニ党だ。貴公は?」

「申し遅れた。某は王国騎士団副団長カティ=グラミネリードと申す。本件、貴殿らの活躍で解決したと聞いた。騎士団を代表して御礼申し上げる」

カティは胸の前で拳を合わせ頭を下げる。

騎士が使う敬礼の一種だ。

「礼には及ばない。冒険者の責務を果たしたまで」

アンナも敬礼で返した。

「…ところで、貴殿らはこれで全員か?」

カティは軽く周りを見渡すとそう問う。

「ん?…あれ?」

アンナも周りを見て、頭数が足りない事に気付く。

「そういえば姐さんが居ねぇっスね」

マンジュがキョロキョロと周りを探す様子を見て、カティは何処か寂しそうに息をついた。

「まぁいい。それよりもアンナ嬢、今回の一件は直訴扱いである以上、貴殿には王宮で証言して貰わねばならない」

「え?」

アンナにとっては寝耳に水だ。

なんでこんな時にメイは居ないんだ。

「明日、村へ馬車を寄越そう。それに乗って王京まで参内願いたい」

「し、承知仕った…」

カティは「では」と会釈すると、騎士団の列へと戻って行った。

じきに騎士団とカンギを乗せた馬車の列は出発し、車輪の音が遠ざかるにつれギルドにいつもの喧騒が戻ってくる。

「王宮参内…」

突然の事に目を白黒させているアンナはその場から動けなくなっていた。

「ありゃりゃ、お嬢固まっちゃってるっスよアニキ」

「あァ、そォだなァ」

「えーっと、どうされたんですか…?」

異様さを察知したのか、後ろから恐る恐るメイが声を掛ける。

その声にアンナの眼光が帰ってくる。

「メイーッ!」

「うわぁーっ!」

アンナがメイの肩を勢いよく掴む。

「メイおま、お、おま、お前ーっ!」

「お、落ち着いてくださいアンナ殿!?」

「姐さん、今まで何処行ってたんスか?」

「ち、ちょっとお手洗いに…」

「メイーッ!」

「うわぁーっ!?」

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