第十七話/領主

テンショウが先導し、城内を進む。

「……探しても、面白い物など御座いませぬぞ?マンジュ嬢」

「んえあっ!?」

急に声を掛けられたマンジュが跳ねる。

先程から城内をキョロキョロと見回しているのはシュテンですら気付いていた。

「……マンジュ殿?」

メイがじっとりとマンジュを見る。

「あ、ち、違うっス!誤解しないで欲しいっス!こう、癖で観察しちゃうんスよ、いや、申し訳ないっス、控えるっス」

マンジュが努めて前を向くようにすると、テンショウが笑い出す。

「はっはっ、少し意地悪でしたかな?なに、斥候ならばそのくらい周囲に目を向けて然るべき故、楽になされよ」

「は、はいっス…」

シュテンにはマンジュが小さくなっていくように感じた。

「なあテンショウ、親父は元気か?」

ふとアンナが切り出す。

「ええ、それはもう有り余っておいでですな」

そう言っているうちに廊下は突き当たり、テンショウが扉を鳴らす。

「中で領主が待っております、では」

扉が開く。

アンナが先陣を切って中へ飛び込む。

「親父!」

シュテン達も追うと、仁王立ちしているガタイのいい男へアンナが一直線に走っていく。

「おお、娘よ!」

「親父!」

2人が重なる刹那、聞こえてきたのは鈍い殴打音だった。

「ええっ…?」

マンジュが絶句した視線の先では、アンナが親父と呼んだ男と握り拳をぶつけ合う異様な光景だった。

「なんだァ?喧嘩かァ?」

シュテンですらたじろぐ光景に対し、メイはしらっとしていた。

「いえ、あれは…」

「あれはヴェイングロリアス家特有の挨拶ですぞ」

メイが何か言いかける中テンショウが説明する。

「挨拶…っスか?」

「ええ、ああして本気で拳をぶつけ合うことで、互いの息災を伝えるのです」

「…人間って不思議だァ」

「いや、あれはこの親子が特殊なだけですよ…」

呆然とするシュテンにメイは苦笑いでそう返した。

「ガッハッハッ!アンナ!元気なようで何よりだ!」

「おう、親父もな」

「そちらは冒険者仲間の方々か!?娘が世話になっている!ワシがアンナの父のゲンキ=ヴェイングロリアスだ!」

「…領主でごさいます」

小声でテンショウが補足する。

「親父、3人はパーティで、デカいのがリーダーのシュテン、ちっこいのがメイ、次に小さいのがマンジュだ」

「ちっこ…こほん、以後お見知りおきを」

メイが小さい頭を下げる。

マンジュが続いたのでシュテンも真似をする。

「うむ!皆長旅で疲れたことと思う!退屈な話は後にしてまずはゆっくり風呂にでも入ると良い!」

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