Laid-back//Case_File001_What’s done is done.【終わったのだ。前を向け】

アンガス・ベーコン

Welcome to Tokyo City.【ようこそトウキョウ市へ】

【Year 2184.Tokyo city,USA】

 誰かが私を見て蝸、縺」縺ヲ縺?◆

 Do you like yourself?〘あなたは自分が好き?〙ĉu vi ŝatas vin?e38182e381aae3819fe381afe887aae58886e3818ce5a5bde3818defbc9f縺ゅ↑縺溘?閾ェ蛻?′螂ス縺搾シ〘私は嫌い〙If we cannot be the completed oneMi ne havas alian elekton ol aldoni pliМи пенсис, ке ми не хавас алиан електон ол ласи миан натуран корпон пор компенси тион, кион ми манкисe59b81e3818de5a3b0e38292e8819ee38184e3819fe38182e381aee697a5e3818be38289縺昴?蠢?ヲ√?辟。縺?→謔溘▲縺溘?罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒罒/////////////////


 ここはアメリカ合衆国の最東端、ジャパン州。かつて日本という名の島国だった。

 州都はカントウ郡のトウキョウ市。そこはアジアの黄金街と呼ばれるほどの大都市で、ビルの灯りとネオンの光が当然のように星をかすめている。

 中でも有数の歓楽街カブキ・ストリートの夜景は、語り草になるほど刺激的だ。

 夕暮れ時を過ぎると、カブキ・ストリートは本来の姿を露わにする。

 ネオンが徐々に光を宿し『カウガール・ラビット』やら『エンドレス・ミルクボーイ』やら、品性のない看板を街の上空に描いた。

 道端には数え切れないほどの映写ポールが設置されており、それらは空に向かって放射状の光を発射する。光は反時計回りに回転し、バニーガールのセクシーダンスを立体的な映像で空に浮かび上がらせた。同時にスピーカーから明るい雰囲気のBGMを流し始める。

 カブキ・ストリートは同じような立体映像とネオンの光で埋め尽くされ、どぎついピンク色に染まっていく。

 全身が血塗れの男もまた、カブキ・ストリートに踏み入った途端ピンク色に染まった。

 男は走る。ただひたすらに走る。点々と通電するネオンの下を駆ける姿は、さながら壇上に登ってライトを浴びる舞台役者だ。

 こうして走り続けねば追手からは逃げられない。かつて森の中で撃たれた時と同じように。

 男は背後から恐ろしい気配を感じ、数分前の光景を鮮明に思い起こした。

 数分前、男はゴミ漁りをしている最中に女の死体を見つけた。

 女の死体はまだ温かく、所持品も臓物もいい状態だった。だから身ぐるみを剥いでいた。

 男は女の内臓を集める過程で血塗れになった。そこに突然、黒尽くめの大男が現れた。

 男は振り向いて背後を確認する。

 男の後方、ピンク色の通りの奥にそれはいた。

 黒尽くめの大男。それは堂々とカブキ・ストリートを歩いて男の後をつけてきている。

 大男の背丈は二メートル近くあり、歩く姿の一挙手一投足が勇ましい。顔は漆黒のフルフェイス・ヘルメットで表情がうかがえず、得体のしれない不気味さがある。上着の黒いダブル・レザージャケットは返り血を浴びた後のように、薄っすらと赤みを帯びていた。

 男はその姿を見て確信する。この大男こそが、噂に聞くブギーマンなのだと。

「なんで! どうして! 俺なんかがブギーマンに!」

 ブギーマンはトウキョウ市に出没する正体不明の大男。漆黒のライダー姿で突然現れ、極悪人に罰を下し去っていくという。大衆の中にはブギーマンを正義のヒーローと称える者もいる。

 ブギーマンの主な標的は汚職に手を染める警察官や、悪徳企業の幹部という噂だ。

 では、なぜ血塗れの男が狙われているのか。男は食い扶持を稼ぐために死体を漁ったに過ぎない。

 逃げる必要はあれど、ブギーマンに狙われる謂れはなかった。

「くそ……! なにがブギーマンだ!」

 男は狩猟の森で殺されかけたときの激情を思い出す。

 男はかつてやる気に満ち溢れた一介のサラリーマンだった。しかし、誠意も虚しく心身を捧げた会社に裏切られ、狩猟の森という施設に売られた。

 そこは嗜虐心に満ちたセレブが猟銃を握り、社会から抹消された人々を撃ち殺す遊戯場。男の仕事は、生きる的になることだった。

「ブギーマンも森にいた金持ち共と同じだ。そうに違いねぇ……! 弱者を捻り潰して、悦に浸ってやがるんだ!」

 男はカブキ・ストリートを抜けてひとけのない細道に飛び込んだ。ブギーマンも後に続く。

 細道を進めば進むほど、暗闇は深みを増していく。それでも男は止まることなく先に進んだ。

 ブギーマンはヘルメットに内蔵されている暗視機能で視界を確保し、男の後を追いかける。

 細道の奥には、縦に吹き抜けた洞窟のように四角い空間が広がっていた。隣り合うビルの角が絶妙に噛み合わず、偶然にもこの空間が形成されている。

 男は空間の中心まで進み、足を止めた。

「なあ、お前ら……聞けよ。ブギーマンが来たぜ」

 男がそう言うと、辺りが一斉にざわつき始める。

 やがてざわつきは話し声に変わった。

「おいおい、何かやらかしたのか?」

「どうせ偽物だろ」

「ここまで来るなら本物じゃね? 俺たち皆殺しにされるんじゃねーの?」

「ブギーマンっていえば、あれだろ? 殺せば一攫千金だぜ」

「じゃあ、仕留めたら山分けだな」

「馬鹿言うな。臓物と身ぐるみは早い者勝ちだろ」

 男は振り向いて両手を広げ、一足遅れたブギーマンを笑顔で出迎える。

「よく来てくれたな、ブギーマン。ここが俺達のホームさ……歓迎するよ」

 男とその仲間たちは暗闇に目が慣れているため、ブギーマンの姿が見えている。

 だが男は敢えて、胸元にある小型ライトを点灯した。

 強い光がブギーマンの顔にあたり、視界を潰す。

 ブギーマンが微かに怯んだその瞬間、男は声を張り上げた。

「やれ! ぶっ殺せ!」

 男と仲間たちは鉄パイプや果物ナイフを手にして、ブギーマンに襲いかかる。

 男は鋭利なブッチャーナイフを振りかぶってブギーマンの首を狙った。

「俺はな、てめぇみたいな善人ヅラの道楽野郎が一番嫌いなんだよ! 俺たちは今日を生きるために必死なだけだ! それをお前みたいな暇人は、正義のヒーロー面で邪魔しにきやがる!」

 ブギーマンは抵抗する素振りを見せない。ただヘルメットの奥にある黒い瞳で、迫りくるブッチャーナイフを見つめた。

「なにが神出鬼没の私刑人だ! なにが正義の断罪者だ! 俺たちは成功者のおもちゃじゃねぇ! ドブをさらって必死に生きてる俺たちの気持ちが、てめぇに分かるかぁ!」

 男のブッチャーナイフがブギーマンの首に食い込む瞬間、ドクンという心音が鳴り響いた。その音は肉を切り裂く音でかき消される。

 ナイフは首の中心で止まり、切り落とすには至らなかった。

 男がナイフから手を離すと、仲間たちが群がってきてブギーマンのダブル・レザージャケットを引き剥がす。そして羽交い締めにしたまま胸板に鉄パイプを叩き込んだ。あらゆる骨が砕ける音がする。

 男は仲間をかき分けるように腕を伸ばし、再びブッチャーナイフの取っ手を掴んだ。そして身体を捻りながらナイフを引き抜き、思い切り振りかぶって渾身の一振りを切れ込みに入れる。

 ザクリ。切れ込みが深くなる。ザクリ、ザクリ、ザクリ、繰り返し斬る。

 ジュパッ。

 水気を含んだ鈍い音が響き、遂にブギーマンの首が落ちた。男と仲間たちは手を止める。

「は、ははは……やった。やったぞ!」

 男は血塗れのブッチャーナイフを高らかに掲げた。

「はーーーはっはっは! ざまぁみろブギーマン! ヒーローごっこはあの世でやりな!」

 喜ぶ男に仲間の一人が横槍を入れる。

「いやいや、これは弱すぎだろ。やっぱり偽物なんじゃないか?」

 別の仲間はダブル・レザージャケットをまじまじと眺めて拾い上げた。

「なんにせよ金になるぜ。このジャケットは中々の上物だ。久しぶりに温かい飯を食えるな」

 もう一人はブギーマンの上着をめくり、打撲痕を確認する。

「おいおい、これじゃ中身がめちゃくちゃだろ……内臓が一番高値で売れるんだぜ。これだけで何日保つか考えろよ」

「……満足したか?」

 最後の話し声は、まるで鉈に付着した血錆を削ぎ落とすような声だった。

 次の瞬間、ブギーマンの身体がむくりと起き上がる。首がないというのに。

 男は驚きのあまり口を開けて固まった。

「は……?」

 混乱する男の前で、さらに異変が起こる。

 ブギーマンの首の断面から細くて黒い管が飛び出し、それは壺から這い出す蛇のようにうねって伸びた。そして地面に転がる頭部の断面に向かって直進し、突き刺さる。

 そのまま黒い管が首の中に戻っていくと、頭部も引っ張られて断面の上に戻って来る。

 首は血を流しながら回転し、鼻先が正面にきたところで回転が止まった。

 首を取り戻したブギーマンと、男の目が合う。

 男は腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。

「ば……バケモノォ! バケモノめぇー! なんだそれ! そんなサイバー・オーガン、聞いたことねぇぞ!」

 ブギーマンは気だるそうに右手で首の裏を擦った。すると首の切り口が黒い管で縫い合わされ、傷が瞬く間に塞がっていく。

 男は恐怖のあまりジタバタと手足を動かして後ずさった。

 男の仲間たちは武器を構えはするものの、顔面蒼白で戦意を失う。

 ブギーマンはヘルメットの奥にある黒い瞳で彼らのことを見回したあと、腰を抜かした男をゆっくりと見下ろした。そして野太く嗄れた低い声――鉈に付着した血錆を削ぎ落とすような声で問いかける。

「お前は……ブギーマンは正義の断罪者だと……そう言ったな」

「は……?」

「俺は名乗っていない。だが、お前は俺を断罪者と……ブギーマンと呼んだ。ならば、罪を犯した自覚があるわけだ」

 ブギーマンは後ずさる男に向かって、一歩踏み出す。

 一歩、一歩、ブギーマンが踏み出すたび、男は震えて嗚咽した。

「や……やめろ! 来るな! 来るなバケモノォー!」

 男の仲間たちは恐れ慄き、蜘蛛の子が散るように逃げていく。

 男に追い付いたブギーマンは、血を浴びた漆黒のフルフェイス・ヘルメットを男の眼前に突き出した。

「俺をブギーマンとするなら……望み通りにしてやろう」

「う……うわぁああああああ!」

 男の悲鳴は、人々で賑わうカブキ・ストリートにまで響き渡った。

 

 二分後。

 男はブギーマンに片脚を折られ、痛みと恐怖で失神していた。男の仲間たちは誰一人逃げられず、全員拘束されて意識を失っている。

 ブギーマンはダブル・レザージャケットを拾い上げて羽織り直すと、ビルの壁に背中から寄りかかった。そしてヘルメットの側面に指を当てて協力者と通話を繋げる。

「どうも、アルガーン警部。ジュンイチです。例の怪死体を漁っていた男ですが、追跡して無力化しました。途中で仲間と思しき連中にも襲われまして、共に拘束してあります」

「ご苦労。どんな奴だった?」

「アルガーン警部のプロファイリングとは一致しませんね……当人の口振りからして、ゴミ漁りを生業とするホームレスでしょう。これで同様の怪死体は六体目でしたか」

 ブギーマン――ジュンイチが言う例の怪死体とは、ホームレスの男が漁っていた女の死体のことである。

 女の死体は、男が漁る前から異様な状態だった。まるでカーテンを開くかのように腹が切開されていて、腸が綺麗さっぱりなくなっている。他の臓器には傷一つ付いていない。そして自ら腹を開けるように、両手で腹の肉を掴んでいた。

 全く同じ様子の死体が他にも五体見つかっており、今回で六体目となる。

 アルガーン警部は苦々しく舌打ちした。

「これほどまでに公共の場を穢しておきながら、痕跡を残さぬ手際の良さ……クソッ、忌々しい」

「かなり手慣れていますね。素人の犯行とは思えない」

「医療関係者が絡んでいるかもしれんな……後処理はこちらでする。男の身柄はどこだ」

「座標を送ります。カブキ・ストリートの近辺にある細道の奥です」

「直ぐに部下を手配する。しかし、お前さんのほうも空振りか……災難だったな」

「そうでもありませんよ。アルガーン警部の協力次第ですが……」

 ジュンイチはヘルメットの奥で目を細める。

 彼の黒い瞳の中で、アルガーン警部への信頼と危険が伴うことへの罪悪感がせめぎ合った。

 アルガーン警部はジュンイチの後ろめたさを吹き飛ばすかのように鼻で笑う。

「あまり無茶を言うな。と言いたいところだが、俺がどれだけの規定を破ってきたと思う? 機密情報の横流しなんざ最早日課だぞ」

「ふふっ……日課ですか。それはすごい」

「いや、日課は言い過ぎたかもな……で、本題は?」

「最近、妙な噂を耳にしまして。トウキョウ市には、人間の死体とその臓器を買取る輩がいるとか……」

「聞いたことがある。気色の悪い話だ」

「同感です。倫理を度外視すれば、死体もまた資源……人体に捨てるところなしと言ったところでしょうか。人間の死体とその臓器は、使い方次第でサイバー・オーガンのパーツや人工皮膚の培養に利用できますから」

「人様のご遺体を解体して売り物を作るご時世とは……この手の輩は人の皮をかぶった悪魔に違いない。早々に地獄へお帰り願いたいものだ」

「問題は、悪魔の目的にあります。集めた死体と臓器を加工して、その手の業者に売り捌くのが目的……と考えるのが妥当でしょう。ただ、使い道はそれだけじゃありません」

「別の使い道が、お前さんの本命だな」

「はい。命の灯火が尽きた残骸、とりわけ人間の一部というのは、魔術や儀式のいい素材になり得る。死体を買い取る悪魔の目的は、大規模な儀式を執り行うことではないかと」

「見境なく買い取った死体でデカイ儀式……テロじゃあるまいな」

「今はまだなんとも……確かなことは、死体の山が高く積み重なれば、それだけ規模は大きくなります」

「で、その死体の買取手と、女の死体を漁っていた男は繋がっている可能性がある……そう言いたいわけだな?」

「その通りです。男は女の死体から遺留品だけでなく、臓器まで盗んでいきました。まるで金目の物を拾うみたいに……死体をそのまま運ばなかったのは、準備も余裕もなかったからでしょう」

「なるほどな……今の話は取調官に伝えておこう。男には洗いざらい吐いてもらう」

「よろしくお願いします。アルガーン警部の捜査にとっても、有益な情報になるかと」

「ああ。何か掴めたらまた連絡する」

「ありがとうございます。それと、もう一つ話がありまして……」

 ジュンイチは気を失っている男に近付き、見下ろしながら片膝をついた。その視線に宿る思いは共感と憐れみ。

 ジュンイチもまた、抗えない力によって人生を狂わされてきた者の一人。彼は己を陥れた者の正体を掴むために、ひたすら怪事件を追っている。だからこそ、不条理な力に抗おうとする男の叫びは、ジュンイチの心に深く突き刺さるものがあった。

「俺が無力化した男たちは、全員行政に見捨てられた被害者でした。この街で生きていくには手段を選べなかったのでしょう。まともな食事にありつくために、俺を殺して切り売りしようとするほどです。ただ刑罰に処すだけでは、誰も救われない……どうにかしてやれませんか」

 アルガーン警部は溜息を吐く。そこに嫌味な空気はなく、ただ世話が焼けると言いたげだった。

「捜査の結果次第だが、当人が望むなら幾らでもやり直せるだろう。社会復帰の援助ぐらいはしてやれる。ジュンイチ……俺はお前さんのそういうところを気に入ってる。だがな、お人好しも過ぎると早死にするぞ」

「お気遣いどうも。これでも身体は丈夫な方ですから、心配御無用ですよ。それじゃあ、俺はこれで……ありがとうございました」

 ジュンイチは通信を切ると、膝に手をついて静かに立ち上がった。

 彼はホームレスの男を尻目に、アルガーン警部の気遣いについて考える。

 お人好しで死ねるなら、それも悪くない。ジュンイチはそんなことを思いながら、ブッチャーナイフを踵で踏み砕いた。

「正義のヒーローにはなれませんが、ナイフの代わりなら俺でもなれます。俺が首をはねてきますよ。もう二度と犠牲者が出ないように……だから、あなたが前を向いて歩くなら、人を傷付けなくても過ごせる日が来る。俺はそう信じてる」

 ジュンイチは男にそう言い残し、首をさすりながら暗闇の中に姿を消した。


 手がかりを一つ掴むうちに、儀式もまた手順を進める。また一つ、また一つ、悪魔は密かに、着実に。まるで積み木で城を造り上げるかのように。

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2024年11月24日 07:00

Laid-back//Case_File001_What’s done is done.【終わったのだ。前を向け】 アンガス・ベーコン @Aberdeen-Angus

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