第45話 救えない人々
誠一は業務室の入口横の壁にあるキーボックスから鍵を取り、金庫を開けてタブレットを手に取った。
「国防軍支給の頑丈なタイプだな。電源を入れると何が起こるのかなっと…」
タブレットには日本地図が映し出され、北から南まで赤い点が複数点滅していた。
「堀端にこの赤い点のいずれかに来いと指示を出すつもりだったんだな…盾脇中将一派が壊滅状態だから、この辺りは無いとしても赤い点が多過ぎんな」
「誠一さん、堀端が使っていた無線機は利用出来ないんですか?」
「捕縛する時に見たが、ある意味高性能な音声認識を搭載した無線機だった。本人が平常心でパスワードを言わないと使えない仕様で、そんなもん何処で使うんだと思っていたが、このタイミングで利用していたな」
タブレットを押収して施設内を探索したが特に目を引く物は無かった為、誠一とヒロシ達は高沢と南田に合流した。
「親父どうだ?」
「2時間後に遠藤がここに合流する。大半の人間はそちらに行くが、ワシ達も女性や子供を数人預かる事になった。そっちはどうだった?」
「遠藤さんが来るなら安心だな…堀端は自ら死を選んだ。ヤツの部下や信者は無事だ。ここからヤツが何処に行くかの特定は出来なかったが、雨宮大将の名前が出て来た」
「そうか…」
「あまり驚かないんだな?」
「盾脇中将がいなくなったら、必然的に雨宮大将の名前が出て来る。その内、将軍やボサツの日本支部の教祖の名前が出て来る…不自然では無かろう」
「そうだな…国防軍や宗教が国民の敵とは…
この国はどうなってしまうんだか…」
「憂いた所で仕方無い。生きる為に精一杯やれる事をやるだけさ」
簡単な炊き出しが行われた後にトラックが数台やって来た。長身で筋肉質の男が降りて来た。
「高沢さん!」
「遠藤!来てくれたか。男女、子供合わせて60人程いるが大丈夫か?」
「ええ!勿論です。貴方の元部下として、出来る事はやらせて頂きますよ!では早速…皆さん!既に説明を受けたと思いますが、ウチの避難所で建築や農作物の栽培に従事出来る方はエンジンが掛かっているトラックに乗って下さい!」
遠藤の呼び掛けで、避難民の男女と子供達がトラックの荷台に乗った。
「後は堀端とか言うヤツの部下も引き受けますよ。しかし、ボサツの信者は遠慮させて下さい」
「勿論、分かっておるよ。異星人に侵略されているにも関わらず、ボサツの悪意は止まる事を知らん…恨みを持っている避難民も多いからな」
「そうですね…。加奈さんと紗奈さんの周りにいる方達は高沢さんの所に行くとして、あの集団はどうします?」
滞在していた建物の入口で、たむろしている数人の男女の避難民がいた。
「いつもの事だよ。無条件でこちらが助けてくれると思っている連中だ。避難先の労働等の条件を渋って、こちらの様子を伺っている。ワシ達も聖人では無い。田中君、榮倉さん…冷たく見えるかもしれんが勘弁してくれよ?」
「お気になさらず。至極当然の事かと」
「私もそう思うよ。働かざる者何とやらだね!」
「高沢さん、彼等は?」
「田中ヒロシ君に榮倉レイカさんだ。後日、暇があればゆっくり紹介しよう」
ヒロシとレイカ、遠藤は互いに軽く会釈した。
「では高沢さん、また後日に!」
「ああ。またな」
遠藤は追加で堀端の部下をトラックに乗せて去って行った。
「さて、ワシ達も帰ろうか。誠一、トラックの運転頼むな。ヒロシ君達は黒塗りのセダンに南田と加奈、紗奈を乗せてアジトへ向かってくれ」
「おい待て!」
たむろしていた男女の1人が声を荒げた。
「俺達を本当に置き去りにする気か?」
「アンタ達は避難所での労働条件を拒否してそこにいるのだろ?私達が救う道理が何処にある?」
冷静に対応する高沢に男はナイフを向けた。
「食い物を寄越せ!ぶっ殺すぞ!」
「やれやれ…本当に世の中どころか、周りも見えてない…」
高沢の言葉にキレた男はナイフで斬り付けようとしたが、南田に合気道の手首返しの要領でブォンッ!投げられ、腕の関節をガキィッ!と極められた。
「グェッ!?…ギャッ!」
「甘えるのもいい加減にしろ!私達はボランティア団体じゃ無い!助ける条件を拒んだのは貴様等だッ!」
たむろにしていた男女と腕を極められていた男は南田の迫力に負けて、脱兎の如く元いた建物に逃げ込んだ。
「ああいう輩共はいずれコチラを襲う賊になる。サウス、レディ済まんが脅しの1発を頼めないか?」
「了解、高沢」
「馬鹿な人間達ね…」
サウスとレディはドンッ!ドンッ!と1発ずつ撃ち込み、まだ人の気配の無い建物の3階部分をバッゴォォッ!と吹き飛ばした。
「ドローンから攻撃を見ていたが、生で見ると凄まじいな…彼等がこの攻撃を感じて、賊に身を堕とさない事を願うよ…」
「そうですね高沢さん」
「うん…それにしても、凄い体術使うんだね
南田さん!」
「レイカちゃんに褒められると照れるなぁ。私も一応、国防軍にいたからあの位はね…」
「サウス、車の中でまた色々変身してくれる?」
「勿論だ紗奈。レディもいるから、もっと楽しいぞ?」
「ウフフ。私達を見て怖がらないなんて、将来が楽しみね」
「あの…ヒロシさん、娘がすいません…」
「良いですよ。紗奈ちゃん楽しそうだし」
ヒロシ達はそれぞれ車両に乗り込み、高沢のアジトへと戻った。賊予備軍の男女とボサツの信者は何も考えられずに呆然としていた。
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