第24話 嫌な作業音

 道路に出ると車が多数放置されていて、その中には古い軽トラックが鍵付きで放置されていた。


「町が近くに有りそうにないから、この車を借りて移動しようよ」


「すぐに動かせそうな車はこれしかないか。

ガソリンも結構入っているな。荷物は荷台に載せておこう」


 3人は軽トラックを15分程走らせ、寂れた商店街に到着した。


「照明が灯って無いし、元からシャッターが閉まってそうだから余計に雰囲気が暗く感じるよ…」


「攻撃や破壊された形跡が全然無いな。車が放置してあった場所も腐敗臭がしなかったし…この辺の人達は何から逃げて、何処に避難したんだろうか…?サウス、人の気配は感じるか?」


「この通りは無いな。物資は潤沢にあるから色々な所をサッと見て回ろうぜ」


 ヒロシとレイカは頷き、商店街を簡単に調べた後に軽トラックに乗って住宅街に入った。


「腐臭はしないな。破壊された形跡も無い…

住民は避難したのか?」


「サウス、グプ人って人を誘拐したりしないの?」


「ゼロでは無いが、アイツ等は地球の資源の方が大事で地球人は排除の対象でしかない筈だ。上位種に洗脳されて行動しているしな。誘拐の可能性なら、ボサツの方が怪しいかもな」


「食料や安全な避難場所をエサに人を集める

…確かにボサツの関係者が、人間がやっていると考える方がしっくり来るな」


 家屋等が破壊されていないのに人がいない事を3人が考察していると、遠くからでも明るいと分かる程の照明がカッ!と点灯してガガガ!と機械音がし始めた。


「あれは…球場の照明か?」


「また微妙な距離だね。車で行くには近いし歩くと遠い場所だね」


「幸い音が五月蝿いから、ギリギリまで車で近付こう」


 3人は軽トラックに乗り込み、照明が届かない住宅の壁際まで移動した。


「うわっ五月蝿いね!車降りたら会話が出来ないよ…」


「球場の中を工事でもしているのか?」


「ヒロシは…確かめたいよな。レイカはいつでも逃げれる様に車の中で待機していてくれ。俺とヒロシで様子を見てくる」


「分かった。気を付けてね!」


 球場の周りに人がいないのを確認して、ヒロシは球場入口まで一気に走り、バックネット裏上段に出る入場口で身を潜めてグラウンドの光景を見た。


「ああ…遺体袋だよな?やっぱり人を埋めていたか。破壊されていないのに人がいない商店街や住宅街。急に聞こえた機械の音…嫌な予感が当たってしまった」


「ヒロシの気持ちは伝わっていた。どうする?作業しているヤツ等はパッと見、国防軍だがボサツの関係者かもしれない。選択肢に無視は無いんだろ?」


「一旦、車に戻ってレイカを交えて相談しよう」


 2人は軽トラックまで慎重に引き返した。


「遺体処理かぁ…国防軍の仕事と言えばそうだけど怪しいよね。1人、捕まえて聞き出したいけど作業中は難しいかな?」


「レイカ、港の尋問で心得5箇条?を使ってたけど国防軍と分かる他の特徴は無いのか?」


「実はあれ、当てずっぽうなんだよね。あのオッサンが国防軍じゃ無いと確信があったから、それっぽい事を言っただけなんだ…特徴

…特徴ねぇ……一般的な事だけど、何処の国の軍隊も銃を撃つ時は右利きに矯正されるんだよね。だから左手で銃を撃ったり、カスタマイズされて薬莢が左から排出される銃を所持している連中は、大体非正規の軍隊か傭兵の類だけど撃たせる訳には…ヒロシ君、やる気の顔してるじゃん!」


「まぁな。国防軍はあまり機能してない事がレイカの話や港の状況で分かっているから、あの連中は高確率でボサツの関係者だと思っている。1発、あの中の1人の手足を撃って様子を見よう。本物の国防軍だったら申し訳ないが、ボサツは俺達の行く先々で敵対する事になるだろうから潰したり、情報集めはやれる時にやった方が良い」


「…オッケーヒロシ君。サウスが撃つと致命傷になりそうだから私が狙撃するよ」


「さっきの場所に3人で行こうぜ」


 3人でバックネット裏上段の入場口に行き、レイカが伏射で現場監督をしている人物を狙う。


「彼の足を撃つね!」


 ガガガ!と鳴る機械音の隙間にターンッ!と音が響き、足を撃たれた現場監督が地面に転がると穴を掘っていた重機が止まり、武器を構えた兵士が降りて来た。


「あっ!アイツ、カスタム銃だし左手で構えてるよ!」


「ヒロシ構えろ。掃討だ!」


 サウスからドドドドドンッ!と球体が放たれ、レイカがライフルをパーンッパーンッ!と2回撃つと球場は静かになった。


「下に降りて、彼等の持ち物を調べよう」


 3人がグラウンドに移動して、レイカが現場監督が持っていたファイルを調べるとボサツの関与が証明されるプリントや書類が出た。


「ヒロシ君、コレ…」


「予防接種…予定表…」


 ヒロシが土が被せられる前の遺体袋に駆け寄って開けると、身体の至る所が弾け飛んだ遺体が入っていた。


「ゔっ……酷いなこれは…」


「グプ人の血による拒絶反応だな。身体が弾け飛ぶ程の血液を体内に入れられたか」


「ボサツがこの辺の人達を集めて、予防接種と騙してグプ人の血を打ったって事だよね?地球が侵略される前からこれをやってた?」


 レイカが見ている予定表にはグプ人の地球侵略以前から、予防接種をしている事が記載されていた。








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