第9話 夜語り

「屋上に登ったら急に襲われたな。偶然かなあれは?」


「俺の意見は偶然だと思う。人間が潜んでいそうな所を飛んでいたら、偶々屋上の扉を開けた俺達を発見した…だと思う」


「その根拠は?」


「偵察機を見てヒロシも思っただろ?グプ人は言う程進んだ文明を持っていない。俺が寄生していた時も人を感知するセンサーや建物を透過出来る機器なんか持っていなかった。取り敢えず、破壊力の高い兵器を乱射して厳しい黒いフォルムで恐怖心を人間に与える存在だ。だから襲撃も偶然って思う訳さ」


「ふーん…。そうだとしたら、可哀想な存在だなグプ人も。上位の異星人に操られてると言っていたな?」


「ああ。それは間違い無いな。普通に考えたら階段の踊り場に待ち伏せしてるだけで、倒されてはくれないよな?それに前にも言ったが、グプ人の記憶や思考は寄生した時に分かっていたからな」


「俺達はそれで助かったが、本当に哀れな存在だな。最後の1人は洗脳や支配が一瞬、解けたのかな…?」


「推察になるがドゥメルク…つまりは俺と同種の存在を使用していて、他種族の返り血なんかを浴びたりすれば知識や記憶が流れ込んで来る。勿論、宿主にもな。アイツはそれで脳内のキャパがいっぱいになって一時的に洗脳や支配が解け、日本語もカタコトだが話せた…だと思う」


「人間を沢山殺したから束の間、支配から解放されたのか…正義の味方を気取る訳じゃないが、どの道人類の敵だな。ああ、話は少し変わるが、フェイスマスクを取ったらグプ人の顔は人間その物だったな」


「…ああ成程な。地球人の異星人イメージは自分達と大きく乖離していると思っている訳だな?グプ人は地球人で言う所の頭髪が無くて、聴力はあるが耳の形は無いな。違いはそんなもんだ。ヒロシの記憶にあるタコ型、イカ型や背が低くて異常にデカい黒目を持ったヤツ等も探せばいるかもしれんが、変わり者と言えば俺だな」


「フフッ…今のはちょっと面白かったよ、相棒」


「こんな時に宿主に笑って貰えて良かったよ

…で、気になったのはアイツの最後の台詞だな」


「…最後に逃げろと俺達に言った事か?」


「それの前だな。お前みたいなヤツを地球で確認した…と言っていた。これも推察だがな、ヒロシみたいな人間が地球上にまぁまぁいるって事じゃないかな?」


「サウスと生きてる様な人間がって事か?」


「その可能性もあるが、多種族の血を吸収しても拒絶反応を起こさずに自分の特性にしてしまう人間を言っていたんだと思う。グプ人はドゥメルクから自分の血液と地球の空気を混ぜて球体を打ち出している。それが人間に当たると拒絶反応を起こし、破裂して死んでしまうのは以前話したな?それを無傷とはいかないまでも、多少食らっても生存出来る奴等がいるんじゃないだろうか…グプ人の血液を予め接種したりしてな」


「ん?そのサウスの言い方だと俺も?」


「ヘタに傷付いて、ヒロシの行動力や体力が落ちるのは嫌だから敢えて言わなかったがな

…身体も強靭になってるだろ?」


「そう…だな。数年、碌に運動していないのに体力があるな…」


「それとだ、1番俺が聞きたい事は偵察機とグプ人を倒す時に自分が超高速で動いた自覚はあるかって事だ。どうだヒロシ?」


「確かにサウスの声がゆっくり聞こえる時はあったな…アレは火事場の馬鹿力ってヤツじゃないのか?」


「そんなレベルをとうに超えていたぞ?平たく言うと人間じゃないな、あの動きは…全くの無自覚か?」


「ああ。またやれと言われても、やり方が分からないからな」


「そうか…命の危機が迫った時にあの動きをしてくれると、寄生している身としてはやり易いな。…ヒロシ、提案だが俺と生きる為の行動をしながら自身のルーツを探る旅、いや冒険をしてみるのも良いんじゃないか?親や兄弟がいなくて、異星人が攻めて来たら普通は拒絶反応を起こして死んでしまう血を取り込み、更に酸性や可燃物の性質を物にした武器兼相棒の俺と行動をしている、そんな不思議な存在だ…グプ人の言う通り同類の、同じ出自の人間に会いたくないか?」


「それは楽しそうだな…サウスと一緒ならやれそうだ。何処に行こうか次は?」


「それなんだがな…海に浮かんでいる旗艦を俺達で攻めないか?」


「は?…2人では勝てんだろ?」


「いや勝算は充分にある。今日、俺達は偵察機を堕とした…たった1発でだ。要するにヤツ等の装甲に俺が打ち出したモノは文句無く効くって事だ。それにヒロシの動きが合わされば、不可能な話じゃないと思う」


「だから、アレは自分でコントロール出来ないぞ?」


「戦闘になったら間違い無く使えるよ。戦闘経験がヒロシより豊富な俺が言うんだから間違い無い。生きる為に戦闘経験を磨くのも必要だし、大体今日の戦闘で疲れたか?」


「うん…疲れて無いな」


「だろ?いきなり旗艦に攻め込む訳じゃ無くて、ゲリラ戦で相手の戦力を少しずつ削いでいく…身体も精神力も強くなったヒロシと俺なら出来る!」


「旗艦を堕とす事のメリットは?」


「何があったかと武装した人間がこの地域に訪れる筈だ。その時、高確率でヒロシと同じ様な人間が現れる筈だ。…分かって聞いたな?」


「ああ。意見は一致してた方が良いだろ?」


「ハハッ。食えない宿主だ。意見が一致した所で休めよ。周りは警戒しておく」


「ああ頼むよ、相棒」


「また明日な、相棒」

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