嫌われヒロインの日常
夏山とわ
第1話 よくある転生もの
「エマ様、王太子様がお見えです」
メイドのメイベリンがノックも忘れてドアを開ける。後ろから母様も父様も転がるように部屋に入ってきた。
「エエエエエエ、エマに会いたいと!」
「王太子様が!」
いつもは穏やかな二人も口をぱくぱく。
私は息を大きくつくと、
「すぐに支度をします!」
とメイベリンに手伝ってもらいドレスや髪を整えた。
ヒールの高い靴も、少しばかり大人っぽいドレスに合いそうだと買ったものだ。
「とてもお似合いですわ」
メイベリンに言われ、にっこりとした。
そんなヒールの高い靴なんて履かなければよかったのだが、その時は王太子様に会いたい一心だった。
まさか廊下を小走りに進んで転んでしまうなんて。
そこから先、私は前世の記憶に支配されてしまうなんて思ってもいなかったのだ。
「うーん」
目を覚ました私は、部屋を見渡し、目の前にいるイケメンに目を丸くした。
「あ、あの」
「エマ嬢、よかった、大丈夫かい?」
「エマ」
「エマ様」
見ると、父親や母親らしい二人と、メイド姿の女性が私を覗き込んでいる。
「私、何で」
「エマ様、廊下をあわてて進まれてて転ばれたんです。それで頭を打たれたみたいで」
「気を失っていたのよ。そんなにあわててあなたは、もうっ」
よよよと泣く母親らしい人。横で父親らしい人が、
「ともかく、気が付いてよかった」
ほっとした顔をすると、ごほんと咳払い。
「エマ、王太子様にお礼を言いなさい。王太子様がここまで運んでくださったんだ」
「え!? あっ! すみません! ありがとうございます!!!!」
ひれ伏す私に王太子様と呼ばれたイケメンが、
「エマ嬢、顔を上げて」
「は、はい」
そっと目線を上げると、
目を細め、柔和な笑顔のイケメン王太子がこちらを優しい瞳で見つめていた。
また倒れそうになった私に、王太子様は「ゆっくり休んで、学園で待ってるよ」と帰っていった。
部屋でひとりになった私。
エマ、と呼ばれていて。
レースがふんだんに使われた天蓋付きベッド、テーブルとイスは猫足で、小花柄の上品な壁紙はお嬢様らしさを表現している。
メイドがいて、お父さんもお母さんもマンガで見るような貴族の恰好だし。
これは。
どう考えても。
転生もの?!
「流行りの転生をしちゃったってこと?」
私、エマはというと、鏡を見て驚いた。
薄い金色のさらさらヘアに空色の瞳、見るからに貴族のお嬢様。
「王太子様がいるってことは、私、もしかして悪役令嬢?」
悩みつつ、鏡を見つめていると、
「お嬢様、バーナード・マクドネル様がお見えです」
「フレディ・ハサウェイ様がお見えです」
「ノア・ホフマン様がお見えです」
同じ年頃の貴族の男性が次々に現れた。
何なの、このイケメン集団は。
目をしばしばとさせている私に、
「エマ、倒れたと聞いて、大丈夫かい」
「王太子がいらしたと聞いたよ。もう帰られたよね?」
「あの、これ」
花束を差し出すひとりに、他2人が色めき立つと、
「今日は何もなくて、今度お茶をしにいこう」
「いやいや、バーナード、君、婚約者がいるだろう」
「あれは、そういうフレディこそ」
「あれはただの幼馴みだ!」
「お花、飾るね」
そそくさと動く残りの男性に二人が「ノア!」と怒っている。
バーナードと呼ばれた男性は、
「そんなこと言ったら、王太子のランドルフだって」
とぶつくさ。フレディが横から、
「カロリーナ嬢だろ」
「あの、カロリーナ、様?」
首をかしげる私に、バーナードが、
「カロリーナ・レアロイド公爵令嬢だよ。エマ、君、カロリーナ嬢にいじめられてるんだろう?」
「え? いや、そんな」
「それでランドルフは怒っていたんだね。でもなあ、かりにも婚約者だしねえ」
ノアが肩をすくめたかと思うと、私に向きなおり、
「僕なら問題はないよ」
と囁いた。
またしても二人から「ノア!」と怒鳴られていたが。
何にしてもこの三人は王太子と友人関係にあり、私も含めてランタジリス学園ってとこに通っているらしい。
そんな三人からも言い寄られてるみたいなんですけど。これ夢かな。
でもこれって恋愛ゲームでよくあるパターンだよねえ。転生する前にその手のゲームもよくやってたし、漫画や小説も読んでいたけど。
どうにもあてはまるものが思い出せない。
何だっけ。
悩みまくっていた私は、ランタジリス学園に行ってある人物に出会ったことでとんでもないことに気が付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。