3-2 嫉妬の心は恋心?

 白銀レインが転校してきて、2週間程経った。

 リアルで起きた事を羅列すれば、マドランナ含むLust Edenの一部メンバーが、ソラの民泊施設を貸し切りにして、人生初のオフ会を開いた事。白銀レインの住む所が見つからず、いっそソラの隣の部屋に住む? と両親が提案し、なんやかんやでそうなった事。あとはレインがサウナで人生初のととのいを経験したり、二人でちょいと長浜の壁黒スクエアにおでかけしたくらいである。

 ――一方VRMMOの方と言えば、


「スカイゴールドすげー!」

「シルバーキューティ大好き-!」


 怪盗シソラは勿論の事、くノ一レインも連日で、ゲームでの話題を独占していた。


「超高難度ダンジョンの、最速クリアタイム更新したんだって!」

「アクゾーって悪い噂ばかりの奴いたじゃん、あいつからレアアイテム盗んだんだと!」

「スカイの技もかっこいいけど、キューティもスタイリッシュよね」

「キューティ……よみふぃだっこして……和んでた……」

「何それ、解釈一致!」


 実際シソラとレインはこの2週間、スカイゴールドとシルバーキューティとして、小さな物から大きな物まで、様々なミッションをこなしていた。

 それはブラックヤードの撲滅でもあるし、RMTの取引現場への突入、業者の調査とあぶり出し、罪を犯しそうな者に対する警告と救済等――

 それらの為の立ち回りが、映像や噂になって伝播していたのである。


「おいらも怪盗になりてーなぁ」

「ファントムステップ、あれどうやんだろ」

「既存のスキルじゃどうにもなんないって言うけど」


 シソラのスキルについては、勘付く者が多くなった。

 しかし今の所、怪盗の目的がRMT業者の撲滅という事は、一切気付かれてなかった。

 ――そして前の株主総会で

 世界的に有名な社長が、スカイゴールドの存在を認知していた事により、彼の人気はうなぎ登りの特上重。

 ――だけどそれに、嫉妬しちゃう者もいるわけで







 北湖高校、昼休みの1年B組の教室。

 青海あおみウミはこの日、昼食の様子を湖北系Vtuber淡海おしゃんとして配信して、最後にスペシャルチャットお布施へのお礼をしていた。


「伝Xさんおおきに、ヨロPさんおおきに、うに子さんおおきに、ほなね!」


 今更の話ではあるが、2089年、高校生の副業は世界レベルで推奨されている。

 “能力有る奴は若い頃から働いた方がよくね?”という訳で、学校も税金の授業を導入して応援する形になっていた。レインがVRMMO運営として働くのも不思議では無い理由。


「ふう」


 という訳で一稼ぎした彼女は、配信用ARを切ったのだが、


「はぁ~~~」


 その傍では、机に突っ伏してめそめそしている、リクの姿があった。


「もう、どしたんよぉリク」

「だってよぉ、今日もなぁ、ソラ、レインと校舎裏行ったじゃん」

「あぁそやねぇ、もうラブラブやねぇ」

「ラブラブかどうかは知らねーけど、VRでも、俺達と全然遊ばないでやんの」


 当然ながら、二人が怪盗業をこなす間は、リクヤとウミとは一緒に動けない。


「レインが来るまではよぉ、ずっと一緒だったのによぉ、寂しいじゃねーかぁ」


 うじうじ言いながら机を指でいじいじするリクヤに、苦笑いしながらウミは言う。


「まぁ、嫉妬する気持ちはわかるよぉ」

「――嫉妬?」


 その、ウミの一言に、


「俺が嫉妬してるだぁ!?」

「きゃっ!?」


 声をあげ、立ち上がるリクヤ、そして、


「本当だ、俺、嫉妬してるわ!?」


 自分の感情に、今更気付いた。


「うわ本当だぁ! レインなんていなきゃいいのにってめっちゃ思ってるわ俺、そっか、これが嫉妬か、うわぁ!」

「ちょ、だ、大丈夫リクヤ?」

「よし、じゃあ俺、この思いをぶつけてくるわ!」

「え!?」

「うおおおお! 妬ましいぜレイン、いや、シルバーキューティぃぃぃ!」

「ちょっとリクヤ!? 待ちぃよ!」


 教室を飛び出して、暴走機関車のように走り出したリクヤを、慌ててウミは追いかけた。







 ――さて、校舎裏


「ごちそうさま、美味かった」

「良かったです」

「すまないな、毎日弁当を作ってもらって」

「大丈夫ですよ、美味しいって言ってくれると嬉しいですし」


 ここは屋上に比べて、じめっとして暗くて、余り青春の場所には相応しくない。

 それでも秘密の話をするという点ではこの上なくで、二人は昼はほぼ何時もマスト、ここで過ごすようになっていた。


「ゲームだけじゃなくて、お前には本当に世話になりっぱなしだな」

「え、えっと、ありがとうございます」

「いやいや、私がお礼を言いたいのだぞ?」

「だけど、その、嬉しくて」

「……はにかむ所、凄くかわいい」

「え?」


 呟いた彼女、目を細め、あさりうとりとした表情で3cm近づいて、


「その、頭、撫でていいか?」

「え、えっと、学校では控えていただければ――」


 そんな風に真っ赤な顔で、ソラがたじろいだ、その時、


「ソラァァァァ!」

「え?」

「どっせい!」

「うわぁ!?」

「何ぃっ!」


 大声と供にいきなりリクヤがソラにタックルぶちかました。まるでぬいぐるみみたいにソラを抱きしめながら、レインを睨み付ける。


「やいレイン! いつもソラを独占するな!」

「え、ええ!?」

「な、なんだと!?」


 突然の発言に、二人はひたすら驚く。


「放課後になったら毎日一緒に林の中へ消えやがって、何をしてるんだよお前らは!」

「い、いやただの修行だ!」

「近道で帰ってるだけですよ!?」

「ゲームだって二人でばっかし! アイズフォーアイズには俺が先に誘ったのにOSS!」

「ちょっと、リクヤ!?」


 ひたすら慌てるソラであったが、


「そ、そうか……」


 ここでレインは、とても申し訳なさそうな顔をして、こう言った。


「私は知らない間に、お前の恋心を傷つけてたのだな」

「え?」

「へ?」


 ――恋心


「そういうつもりは無かったんだ、すまない、けしてソラは悪くなく」

「いやいやちょっと待て、恋心だぁ!?」


 リクヤ、叫んで、


「そうなの!?」


 とソラに聞いた。


「僕に聞かれても困るよ!?」


 当然そうとしか返せないソラ、するとそこに、息を切らしてウミがやってくる。


「ああもう、えらいことなってるぅ」

「え、偉い?」

「あ、滋賀弁でしんどいってくらいのニュアンスですぅ」

「そ、そうか覚えておく、……ああその、ソラ」

「は、はい」


 罰が悪そうな顔をしてたレインが、ソラに告げる。


「さっき私に相談していた事、お前の口から、今語るべきだ」

「え? なんなん?」

「なんの話だ?」


 リクヤは一瞬だけ戸惑ったが、


「もしかして、俺とウミも怪盗の一味にしてくれんの!?」


 そう叫ぶが、ソラは笑顔で首を振って、


「そうじゃなくて、桜国サクラコク!」


 この時の、ソラの提案は、


「怪盗のお仕事はお休みするから、この4人で、お祭りを見に行こうよ!」


 リクヤの嫉妬心を、一発で吹き飛ばすもので。


「こ、心の友よぉ!」

「ちょ、ちょっといい加減離して!?」

「やはり恋なのか?」

「恋なんやろかぁ」


 ――校舎裏なんて、青春に似つかわしく無い、暗くてじめじめした場所だけど

 四人の心は、明るく弾んでいた。

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