第三章 春隣、サクラトリップ
3-1 極レイド「灰戸ライド社長討滅戦」
――罪なき者のみ石を投げよ
ああその為に、
正しく生きてきたはずなのに。
◇
――VRMMOアイズフォーアイズ運営会社
社名もそのままアイズフォーアイズのこの会社は、30階建てのビルだけでなく、自社の技術を利用したアミューズメントスペース、社員達が暮らすマンションや、レストランにコンビニとサウナに銭湯と、一つの街を作り上げていた。
その中には、1000人を収容出来るコンサートホールがあり、その客席をスーツ姿の男女が埋める中、
ステージ中央に、一人の男が登壇する。
「お集まりいただき、ありがとうございまぁす!」
拡声機すら壊しかねない大声で――この街の創造者、
「それではこれよりぃ!」
アイズフォーアイズCEO灰戸ライドが、
「2089年度第115回株主総会をはじめるぅ!」
――叫んだ途端
彼の巨躯がさらに膨れあがり、スーツを破り、
全長10メートル、腰布を巻き、腕輪をはめた褐色の巨人へ変貌する。
だが、変わるのは社長だけでは無く、
客席の者達は、剣士になり、魔法使いになり、
無機質だったコンサートホールも、
青空の中に浮遊する、クリスタルの大地に変貌した。
――開発中の
「聞きたい事がある奴はぁ!」
数日置きに繰り広げられる
「俺に一撃食らわせて来いやぁ!」
けたたましく、始まった。
「質問でぇす!」
自分の身の丈2倍の斧を振り上げたファイターが、
「社長が在籍していた、世界初のVRMMOを作り出したゼロ社とのこれからの関係はぁ!」
その重い一撃と供に質問すれば、
「利益の為に自由を捨てる奴等なぞ、見限ったわぁ!」
ただの咆哮でファイターを吹き飛ばした。多くが怯む中で、女モンスターテイマーが、巨大鳥の背に乗り突っ込んでいく。
「初心者にはその自由度が高すぎて、何をしたらいいか解りません! ログボの実装やチュートリアルの充実を!」
そう訴えた彼女を、チョップ一発で叩き落とす。
「運営の講釈は最低限! 君がそう願うなら、君が導き手になればいい!」
――その後も続く
「チートスキルとかのラッキーで、強くなる人がいるの納得出来ません!」
「いわば宝くじを買う努力をした結果だ! 嫉むのは解る、俺も羨ましい!」
「セキュリティシステムがちょっと古すぎませんか!」
「管理AI Temperanceのバージョンアップは予定してる!」
「20周年で何が変わるんですか!」
「先程述べたセキュリティも含め、あらゆる面でのupdateだ!」
「えっちなのもっとお願いします!」
「全力で前向きに検討するぅうっ!」
斬撃、打撃、爆発、射撃、ありとあらゆる攻撃を、その巨躯で受け止めながら、質問に答えていくCEO。そして、
「――怪盗スカイゴールドを知ってますか」
一人のソーサラーレディがその質問と、
「知っているのなら、彼について一言!」
百人もの仲間達と練り上げた魔法――
がっぷり四つ! 両手で受け止める!
「ふぬぐうううう!」
唸り、歯を剝き、そして笑いながら、
「彼のようなヒーローが、次々と現れる事をぉ!」
――ついにはその隕石を持ち上げて
「俺は心底、願ってるぞぉぉぉっ!」
そのまま、ソーサラーに投げ返す!
――燃える巨石が着弾すれば
どかーんと一発、
「「「うぎゃああああああああああ!」」」
やってみれば凄まじい衝撃波が起こり、当然、プレイヤー達は、全滅した。
――XRが解除されれば
株主達は全員机に突っ伏して、う~んう~んと唸っており、
「ガーッハッハッハ!」
それを見て社長だけが、快活に哄笑するばかりだった。
そんな彼に、最前列の男が、
「あ、あの……最後に質問、いいですか……」
「うむ! なんだね!」
脳疲労でふらふらになりながら、質問を搾り出した。
「
「――ふむ」
「あの国の、運営が用意したミッションをクリアすれば、
「け、けど、未だにクリア者は一人もいない……」
「桜国出身のプレイヤーの中には、未だ、別のエリアへ行けない者もいます」
「難易度緩和は考えないんですか?」
つるべ打ちのように続けられた問いかけに、灰戸ライドはニヤリと笑う。
「そんな
そうそれは、
「俺が作りたいゲームは! 自由があり、それゆえに理不尽が有り、その不平等を砕く力を、運を、そして!」
彼が社長であるからには、けして変わらない。
「
「しかし、俺もチェックしたが、桜国のミッションそこまで難しいものじゃないぞ!? 一体全体何故クリア者が出ないんだ!?」
「い、いや知らないんですか?」
「社長だからって、なんでも知ってると思うなよぉ!」
子供のようにぷんすかした後、すぐさまガハハと笑いながら、そのまま彼は壇上を後にした。
そこで待っていたのは、スーツ姿の凡庸な青年。社長がのしのし歩くので、そのまま横に着いていく。
「秘書! 次の株式総会は
「三日後になりますね……」
「そんなに空くのか!?」
「株主だって暇じゃないんですよ、そもそも株主総会を毎日開こうとしないでください」
「楽しいのに!?」
「楽しくないです!」
ちぇっ、とまた拗ねる社長に、秘書はため息を付きながら、
「この後の予定ですが、プログラム部門の視察、政治家との会談、コラボ料理の試食、幼稚園での絵本読み、それと」
「それより秘書、少し脳に糖分が足りない」
自分の頭を、人差し指で叩いた後に彼は、
その指で今度は、自分の真っ白な歯を指した。
「飴をくれないか? 囓り甲斐がある奴をな!」
◇
桜国のミッションは、3ヶ月ごとに訪れるお祭りのメインイベントである。
だからその時期が近づけば、桜国を拠点とする
だけど、そんな中で、
オンボロ長屋のとある部屋が暗がりで、歌舞伎者のいでたちと、赤い隈取りをしても尚、
悲愴な顔を、隠せない者が居る。
「――ちくしょう」
職業シーフの、
「今度こそアタイが、奪い返すんだ」
自称義賊が、
怪盗スカイゴールドのプロマイドを、筆で
こう言った。
「この国に、春を」
このエリアを上空から俯瞰すれば、
氷漬けになっていた。
舞い散る桜吹雪も、そのままに。
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