第23話 ボウリングはボーリングにあらず

 「へぇ、マジでこんなところにあったんだー」


 終業式を終えた俺ら一年五組の有志達は大沢先導のもと、学校とは反対側にあるボウリング場に来ていた。


 「ふだんこっち側なんて来ないもんね」

 「学校側にもあればいいのに」

 「てかめっちゃ暑い、死ぬ」


 明神みょうじん高校からは駅を挟んで更に歩いて十分以上かかるため、電車やバス通学の人たちからは暗に遠いと不満が漏れる。それでもみんな夏休みを前にした開放感からか、その顔はどこかいきいきとしている。


 「俺はっていうからてっきり資源王でも目指すのかと」

 「ボーリング違いやめい。メタンハイドレートは掘り起こさないからな。俺らができるのはせいぜい地上で球を転がす方のだ」


 善信と覚えたての地理の知識で遊びつつ、俺たちは球を転がす方のボウリング場・ステージワンの自動ドアをくぐりエスカレーターを上った。


 「うわぁ、すごい! ゲームセンターもついてるんだ」

 「あ、ウチあのお菓子好きー」

 エスカレーターを上るとまず現れたのはクレーンゲームなどが置いてあるコーナーだ。天ヶ瀬さんたちもキラキラと目を輝かせて景品を眺めている。


 「後で無料券もらえるからボウリング終わってから来ようぜ」

 「そうなんだ。はーい」


 さすが立案者兼幹事の大沢。遊び方を熟知している。

 大沢に促されるようにさらに上の階へと上り受付を済ませた。


*


 「北浦君、一緒のチームだね」

 和田さんが横からふわっと覗き込むように話しかけてくる。


 「そうだね、優勝目指して頑張ろう!」

 「うん、頑張ろう。ところでシューズってどうやって借りるの?」

 「あぁ、多分この機械で自分の靴のサイズのところのボタンを押すと出てくると思う」

 「こう?」

 和田さんは23cmのボタンを押す。


 「あ、出てきた。これ面白いね」

 「じゃあ俺も」

 そういって俺はいつもよりも少し大きい26cmのボタンを押す。

 なんか25cmって男にしては小さいからちょっと恥ずかしいんだよな。


 靴を取り終えた俺たちは次にボールを選びに来たのだが、こっちの方が苦戦した。

 なにせ周りの男子が13ポンドだの14ポンドだのを選ぶ中で、握力の低い俺はどうしても10ポンドや11ポンドの方がしっくり来てしまったのだ。


 (でもやっぱりカッコ悪いよな……)


 結局俺も無理やり13ポンド球を手に取り、レーンの手前のボール置き場(あれなんて言うんだろうね)にその惑星みたいなデザインの球を置いた。


 ボールを選び終わった面々が次々とやってくる。

 ちなみに今回はチーム戦で、平均点の高いチームが優勝といういたってシンプルなルールだ。

 ボウリングが苦手な人たちへの配慮なのか、特に賞品や罰ゲームなどなく、純粋に勝敗を競うことにしたようだ。

 

 俺のチームは達也、矢川、和田さん、そしてなんと柚木ゆぎさんだ。


 矢川大丈夫なのか? なんて思ったけど、実は柚木さんからのリクエストらしい。

 まったく女心はどうなってるのかわからん!


 そして向かい側のレーンには羽村、大沢、善信よしのぶ、南野さん、天ヶ瀬さんが座っている。


 「なぁ、うちらだけでも罰ゲーム有りにしようぜ! 2レーンの中で最下位だったヤツが負けな?」

 大沢が自然なノリで聞いてくる。あ、これ慣れてる人だわ。


 「えー、罰ゲームとかマジ怖いんだけど」

 「いや大丈夫だって、これ使うだけだから」

 そういって取り出したのは……サイコロ?


 「最下位だった人はこの罰ゲームサイコロの質問に答えるってだけだよ」

 よく見るとサイコロの面には色々な質問が書いてある。


 「それって過激なやつと入ってないよね?」

 天ヶ瀬さんが心配そうに尋ねる。


 「大丈夫、ちゃんと下ネタ系のないやつ選んでるから」

 「それならうん、私はいいよ!」

 「おもしろそうじゃん! てか負けなきゃいいんでしょ?」

 「おっし、じゃあ矢川から負かしたるわ」

 「え、どうやって……?」

 「涼太君お願い、ウチのためにガーターに投げて?」

 「……おい達也。柚木さん使うのはせこいぞ!」

 

 かくして罰ゲーム付きボウリング大会のはじまりはじまり。


*


 一フレーム目。矢川選手からのスタート。


 後ろにゆっくりと振りかぶり一球目……投げました!

 「いやぁ、これは見事なコースですねぇ」

 「そうですね。球がみるみると右端に吸い寄せられていきますね」


 <G>


 「おい、その変な実況やめい!!」

 「おっと、矢川選手。これはかなり気が立っているぞー?」

 「おうおう上等だ、乱闘だ乱闘ー!」


 なんて茶番を挟みつつも二投目はしっかり軌道修正して8ピン倒していた。


 二人目は柚木さんだ。

 イメージ通りというかなんというか、うん、大変可愛らしくていいと思います。

 

 「ボウリングむずいね……3本しか倒せなかったよー」

 「投げる瞬間に腕が曲がっちゃってたから、次はまっすぐ投げる意識してみ?」

 「うん、ありがとー」


 お、矢川と柚木さん案外いい感じなのでは……?

 そういえばフラれた時になんて言われたのか聞いてなかったな。


 続いて達也が豪快に14ポンド球でピンをど派手に蹴散らしたが、残念ながら1ピン残り、二投目もわずかに軌道がそれてスペアには届かず。


 そして和田さんの番が回ってきた。

 

 (和田さんどんな球投げるんだろう。まったくイメージがわかないな)


 ゴロゴロゴロ……スコポーン!



 <STRIKE>



 「「「「「えっ!?」」」」


 「全部倒れちゃった」


 まさかのダークホース。

 確か和田さんって初心者だよな?


 「ひなたすごいっ! いきなりストライク?」

 隣のレーンから見ていた天ヶ瀬さんが和田さんに駆け寄りハイタッチしたり抱き合っている。

 あぁ、心が浄化されていくのじゃ。


 そして待っていました俺のターン!


 「北浦君頑張って」

 「ありがとう! 決めてくる!」


 和田さんの応援を受けた俺はこの一投に全神経を集中させる。

 

 (よし、いくぞ)


 俺は振りかぶるとゆっくりとレーンに向かいその右手をおろした。


 「よし、いけっ!!」



 <G>



 「素晴らしいフラグ回収ありがとう」

 「お前下手くそだなぁ!!」

 「ごめん……北浦くん隣から見えちゃった……あははっ」


 結局俺は相性の悪い13ポンドを無理して使い続けた結果、見事最下位の称号を手にしたのだった。


 「柚木さんに負けたのは納得いかない」

 「矢川君のおかげで上達したよー」


 柚木さんは矢川からのアドバイスをもとにどんどんスコアが上がっていった。

 投げ方は相変わらずぎこちないけど、もともと運動神経が悪いわけではないんだよな。

 とんだ誤算だったぜ……


 「ってことでうらっち、罰ゲームよろしくー!」


 仕方ない、ここまで来たら覚悟を決めるぞ。

 ロール・ザ・ダイス! 

 


 <ドキッとする異性の仕草は?>



 (うわ、確かに過激じゃないけど地味に恥ずかしいやつきた……)


 ドキッとする女子の仕草。

 そういわれて思案してみるも、俺も健全な男子高校生だ。どうしてもボディタッチとかエッチな方向にばかりイメージがいってしまう。

 この場が男子だけなら全然良かったんだけど、女子もいるとなると……


 (これ答えるのかなりむずくないか?)


 さぁ俺、どうするよ?

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