第4話 桜の女神を見つけたんだ
明け方からお昼近くまで寝てから僕はファデスに言われた自動車屋に向かった。
自動車屋でファデスの名前を出すとすぐに店員さんが一台の黒い乗用車を持って来て鍵を渡してくれる。
車代は既にファデスが払っていたらしく問題なく車を引き取れた。
僕は車を運転してマンションに戻ろうとしたがただマンションに戻ってもつまらないので近所をグルリと車で回って見ることにした。
車を走らせてみると昨日は気付かなかったがマンションの近くに大きな公園がある。
僕は自然が好きだから少しその公園に寄ってみることにした。
駐車場に車を停めてバッグを片手に車を降りる。
公園は綺麗に整備されていて噴水もある。
今の季節は春。
太陽の日差しも穏やかだ。
僕は太陽の光を浴びても問題ないが兄のファデスにとっては太陽の光は命取りになる。
こんな穏やかな日差しを浴びられないなんてファデスは可哀想だなと子供の頃は思っていたけどファデスにそう言ったら不思議そうな顔をして僕に言った。「別に太陽の代わりに月があるからいいだろ」って。
まあ、月の光はヴァンパイアの力を増幅させてくれるからヴァンパイアには月があればいいってのは本当のことだけど。
少し本でも読もうかと噴水のベンチに座る。
バッグから小説を取り出して読もうとした時に近くで低い獣の唸り声がした。
「ウ~、ウ~」
顔を上げて前を見ると黒い中型犬が僕に対して牙を剥いて唸っている。
僕は溜息をついた。
「まあ、タロウちゃんたらどうしたのかしら? すみませんねえ。いつもは人に唸るなんて無いんですけど」
飼い主らしいおばちゃんが黒い犬の紐を引っ張りながら僕に謝ってくる。
「いえ。平気です」
笑顔でおばちゃんに答える。
僕は動物が好きだ。
犬も猫も鳥も好き。
でも動物の方が僕を避ける。
たいがいは逃げ出すがこの目の前の犬のように攻撃的な態度を取る奴もいる。
僕は一瞬だけファミリーキルの力を解放した。
瞳が金色に変わった瞬間「キャイ~ン」と犬が鳴き飼い主を引っ張って逃げ出す。
力を抑えれば僕の瞳の色はすぐに青い色に戻る。
「タロウちゃん! 待ってちょうだい!」
飼い主のおばちゃんは犬に引っ張られて行ってしまった。
脅かしてごめんね。でも僕も騒がれるのは困るから。
逃げて行った犬に心の中で謝る。
動物は本能で自分が勝てる相手かどうか理解できる。
それに僕が人間でないことも彼らは本能的に察知するのだ。
人間はヴァンパイアか人間かを判別する能力を持たない。
そのために各国のヴァンパイアハンターはヴァンパイアか人間かをある機械で見分けているのが普通。
でも機械は所詮機械でしかない。
ジョセフに教えてもらったがその機械はファミリーキルをヴァンパイアと見抜けないらしい。
そもそもファミリーキルの存在を人間たちは知らない。
僕らは偶然の賜物で産まれた存在だからヴァンパイアでも知らない奴らもいるぐらいだ。
まあ、この広い世界にファミリーキルは三人しかいないしファミリーキルに遭遇する人間の方が少ないだろう。
僕は場所を変えることにした。
少し公園内を歩いていると桜並木があった。
桜は今が満開だ。
風が吹くとハラハラと花びらが舞い散る。
へえ、桜ってこんなに綺麗なんだ。
桜は日本を代表する花だってファデスが昔言ってたな。
僕は桜の存在は知ってたけど満開の桜並木を直に見たのは初めて。
その美しさに心を奪われる。
しばらく満開の桜を見ていたけど小説の続きを読もうと空いているベンチを探す。
桜の木の下のベンチが空いていたのでそこに腰を下ろす。
ここなら邪魔は入らないだろう。
満開の桜を見ながら僕は小説の続きを読みだす。
小説に熱中していると声が聞こえた。
「お隣に座ってもいいですか?」
耳障りの良い綺麗な声に思わず僕は顔を上げる。
その瞬間、僕は心臓が止まるかと思った。
そこには黒いロングヘアの美しい女神が立っていたのだ。
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