第3話 僕は日本に入国した
もうすぐ僕たちを乗せた船が日本の港に着く。
僕たちは飛行機は使わない。
飛行機は雲の上を飛ぶから太陽光に当たる危険性もあるからだ。
僕には影響はないがファデスが一緒なので仕方ない。
時刻は夜8時。
ファデスも問題なく行動できる時間だ。
僕は甲板から日本の街の夜景を見た。
日本は経済大国だと聞いている。
確かにこれだけの照明を夜に使うのは贅沢な国だと思う。
ヴァンパイアは太陽の光はダメだが電気の光は特に影響はない。
まあ、だからこの日本にもヴァンパイアはいるんだろうけど。
「サイファ。もうすぐ下船だ。荷物をまとめておけよ」
ファデスが甲板に出て来て僕に言う。
「もう、まとめてあるよ。いつでも下船できる」
「そうか。港からはタクシーでマンションまで行くからな」
「うん、分かった」
ファデスはあらかじめ中古の賃貸マンションを借りる契約を結んでいた。
期間は二年契約らしいけど二年も日本にいるかは分からない。
獲物になる人間の数やヴァンパイアの数によっては早く次の場所に移動することになる。
ファデスの獲物の人間の女はいっぱいいるけど僕の獲物になるヴァンパイアは人間ほど多くはない。
この船に乗る前に食事をしたから僕はしばらくはヴァンパイアの血を飲まなくても大丈夫だ。
やがて船は港に接岸した。
僕とファデスは日本の地を踏んだ。
そしてタクシーに乗り住処となるマンションまでやって来た。
必要最低限の家具がついている物件だ。
足りない物は後日買えばいい。
僕とファデスは働いてお金を稼いでいるわけではない。
ファデスが獲物となる女性から血を飲むついでにお金も巻き上げてそれを生活費にしている。
人間はヴァンパイアに血を吸われている前後の記憶は曖昧になるらしい。
それを利用しているのだ。
正直、僕はあまりそういうやり方はしたくないんだけど僕たちは普通に働けない。
でも人間の世界で生きるにはお金は必要不可欠だ。
申し訳ないという気持ちはあるが仕方ないと思っている。
僕はマンションの自分の部屋に入ると荷物を片付ける。
「俺はシャワーを浴びてくるからな」
ファデスはそう言ってシャワールームに消えた。
電気もガスも水道も問題なく使える。
ファデスは放浪の旅に慣れているから何を事前にすればいいか全て分かっている。
だからいつも次にどこに行くかはファデス任せだ。
僕はリビングのソファに座りテレビをつけた。
日本に来たのは初めてだが僕は日本語が分かる。
これもヴァンパイアの力の一つだ。
どこの言語でも僕たちの脳は瞬時に理解して話すことができる。
便利な能力の一つだ。
おかげでどこの国に行っても大丈夫。
「サイファ。明日の昼間ここの自動車屋に行って車を引き取って来てくれ」
ファデスはシャワールームから出ると僕に一枚の紙を渡す。
ファデスと違って昼間動ける僕はこういった雑用を任される。
別に僕のできることでファデスの役に立つなら喜んで引き受ける。
「分かった。ここのお店に行けばいいんだね」
「ああ。俺の名義で車を用意しているはずだ」
「分かった。明日、行ってくる」
僕は紙を大事に本に挟む。
そして僕もシャワーを浴びる。
シャワールームから出るとファデスがお酒を飲んでいた。
僕たちは人間と同じ物を食することもあるがそれはあくまで味覚を楽しむ物であって僕たちの栄養にはならない。
「今夜は旅で疲れてるから明日の夜に街に散策に出るか」
「うん。そうしよう」
それから僕たちは明け方までおしゃべりしながらゆっくり過ごした。
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