第47話「間に合った!」
エミリー視点
私たちの乗せた馬車は、数日かけてエンデ男爵領に着きました。
「ここに潜入させていた部下からの知らせなんだけど、エンデ男爵はデルミーラを連れて、ゼーゲン村に向かったようだ」
殿下の言葉を聞いて、私は背筋が寒くなりました。
ゼーゲン村はリック様がいる村です!
「フォンジー様、もしかしてリック様が王都宛に領主の罪状を書いたこと手紙を送ったことが、領主にしられてしまったのでは?」
「その可能性は高い。リック……無事でいてくれ」
「僕たちも急いでゼーゲン村に向かおう!
ここからは道が特にひどくなるから気をつけて!」
私達を乗せた馬車はすぐにゼーゲン村に向けて出発しました。
私は馬車の中で祈りました。どうか間に合ってくださいと。
馬車をゼーゲン村の入り口につけると、王太子殿下は私達に馬車から降りるように告げました。
「ここから徒歩で行くよ。
馬車で乗り付けて領主たちに感づかれて、彼らに逃げられてしまっては困るからね」
殿下の言い分にも一理あります。
殿下はもしかしたら、領主が村民にひどいことをしてる現場を押さえ、彼を捕まえたいのかもしれません。
ですが私は領主を捕まえることより、リック様や村の方々の安全を優先したいです。
多分、フォンジー様も私と同じ気持ちだと思います。
村の入り口には殿下が男爵領に潜り込ませた、スパイと思われる男性がいました。
彼は殿下に「領主は村の広場にいます。村人は彼の配下に全員捕らえられました」と告げました。
彼の言葉を聞いて、私の喉がヒュッと音を鳴らしました。
馬車から降りた私は、流行る気持ちを抑え、殿下の部下のあとについて、広場に向かって走りました。
リック様、村の方々、どうか無事でいてください!!
「おい、誰か鞭を持ってこい!
この虫けらを、わし自ら鞭打ちの刑に処してやる!」
広場に近づくと、広場から領主と思われる男のドスのきいた声が響いてきました。
「おい! 鞭打ちはやりすぎじゃないのか!!」
「そうだよ! リック先生を離してよ!」
「リック先生がお前ら何したってんだよ! バカやろう!」
領主の声に続いて男性の声と、子供たちの声が響いてきました。
リックさんは先生と呼ばれ、村人に慕われていたのですね。
「そうだ! リック先生は俺たちに学問を教えてくれたんだ!」
「空腹で毒草を食べたてお腹を壊した時、助けてくれたのはリック先生です!」
「リック先生がいなかったら、とっくに俺たちは死んでたんだ!」
「リック先生を鞭で打つなら、俺たちを鞭で打て!」
「そうだそうだ! リック先生はこの村に……いやこの領地に必要な人間なんだ!」
リック様を守ろうとする村人の声が徐々に大きくなっていきます。
リック様がこの村の人たちに、どれだけ 慕われているのか伝わってきました。
「やかましい村人どもだ!
そんなに鞭が欲しいならくれてやる!
順番にな!」
私たちが広場に駆けつけた時、広場の中心にいた派手な衣装を着た若い男が、金髪の男性に向かって、鞭を振り上げているところでした。
金髪の男性には見覚えがあります!
私の記憶より日に焼けて少したくましくなっていますが、あの方は間違いなくリック様です!
リック様は猿轡をされ、両腕を後ろで縛られ、地面に膝をついていました。
「おやめください!
この方はすでに罰を受けています!」
私は彼の前に飛び出していました。
「私の大事な子に手を触れるな……!」
フォンジー様は領主と思われる男の腕を掴み、地面に組み伏せていました。
殿下の部下は素早く役人を取り押さえ、私がそちらに目を向けた時には、全員地面に伸びていました。
殿下の部下のお一人が、リック様の猿轡をほどき、彼を拘束していた縄を切りました。
殿下の部下の方はリック様の縄を切ると、未だに拘束されている他の村人の救助に向かいました。
「お久しぶりですリック様、ご無事ですか?」
私はリック様に手を差し伸べました。
ですが彼にそっぽを向かれてしまいました。
「リック、無事か! 怪我はしていないか!」
フォンジー様がリック様に駆け寄り、彼を抱きしめました。
お二人は仲の良い兄弟でした。
長年行方不明だった弟が生きてることがわかり、こうして再会したのです。
フォンジー様が彼を抱きしめたくなる気持ちもわかります。
ですがちょっとだけジェラシーを感じてしまいます。
私が嫉妬深いことを彼に知られたら、嫌われてしまうでしょうか?
そういえばフォンジー様が取り押さえていた領主はどうなったんでしょうか?
気になって振り返ると、領主は縄で拘束されて床に寝転がっていました。
さすがフォンジー様、お仕事が早いです。
フォンジー様は書類仕事が得意なのかと思っていましたが、私が想像していたよりもお強くて、悪人を縄で縛ることなどお手の物だったようです。
フォンジー様の新たな一面が知れて嬉しいです。
「兄上、いえザロモン卿、グロス子爵令嬢……。
僕は……あなた方に合わせる顔がありません」
リック様はフォンジー様の手を振り払うと、地面に手をつきました。
「ごめんなさい!
本当にごめんなさい!
お二人には……いえ僕は大勢の方に迷惑をかけてしまいました!!
本当に本当にごめんなさい!!」
彼は地面にめり込むんじゃないかというぐらい、地面に頭をこすりつけました。
私はリック様の前に座り、彼の手を取りました。
「あなたが王都で犯した罪は、あなたが拷問を受け、体に魔法封じられる印を刻まれ、死の荒野に捨てられたことで、十分罰を受けています」
「でも、それでも僕は……」
「あなたは己の犯した過ちを、ご自身の持ってる知識を使って、村の人たちを助けることで償ってきました。
私はもうあなたは責めてはいません」
「グロス子爵令嬢……」
「私もだよリック。
私はもう君を責めていないよ。初めから君を責める気はなかった。
君を一人にしてごめん。
君の心の声を聞いてあげられなくてごめん。
君の相談にのってあげられなくてごめん。
ダメな兄でごめん」
「そんな、そんなことありません!
兄上は何も悪くありません!
兄上はいつも僕を正しい方向に導こうとしてくれました!
いけないのは道を踏み外した僕です!」
リック様の瞳から大粒の涙がこぼれました。
私はリックにハンカチを差し出しました。
「涙を拭いてください。
広場に来るまでの間、村人の人たちの声が通路にまで響いていました。
リック様が村の人たちに大変慕われているのが伝わってきました。
あなたが王都を追放されてからの二年間、ここで何をしてきたのかよく分かりました。
こんなに村の人たちに慕われているあなたを、私一人が責められるわけがありません」
「グロス……子爵令嬢……!!」
リック様は顔を覆って、わんわんと泣き出してしまいました。
きっと彼はこの二年間、己の犯した罪に向き合い、苦しんできたのでしょう。
リック様に「許す」と伝えたことで、私の心の枷が外れた気がします。
◇◇◇◇◇◇◇
読んで下さりありがとうございます。
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