「モラハラ男と別れたら、才能が開花しました〜今度は誠実な人と恋愛します」

まほりろ

第1話「婚約者と魅了魔法」



それは学園の年度末に行われる進級パーティでのこと。


第二王子のアルド殿下と側近が、突如壇上に上がりこう発言しました。


「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢、マダリン・メルツ辺境伯令嬢、エミリー・グロス子爵令嬢、この三人は前に出ろ!」


突如名前を呼ばれた私はびっくりしました。


お話していたクラスメイトと別れ、一人壇上の前に向かいました。


そこにはすでにブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢が来ておりました。


ブルーノ公爵令嬢は銀髪紫眼の美少女で、賢くて語学が堪能でダンスもマナーも完璧で、淑女の鑑と評されているお方。


メルツ辺境伯令嬢は、黒髪黒目のクール系美少女で、剣と乗馬の達人。


二人共高位貴族らしく、凛としていて気品があってかっこいいです。


お二人はこんな時でも毅然としています。


私もお二人を見習わなくてはいけません。


私たちが壇上の前まで来たのを確認すると、第二王子のアルド殿下がニヤリと顔を歪ませました。


彼の横には男爵令嬢のミア・ナウマン様がいて、殿下の腕に自身の腕を絡めていました。


アルド殿下はブルーノ公爵令嬢の婚約者なのに、なんて大胆な行動に出るのでしょう。


ちらりとブルーノ公爵令嬢の顔を覗くと、彼女は眉一つ動かしていませんでした。


彼女は殿下が浮気するのを見慣れているのでしょうか?


殿下と男爵令嬢の後ろには、メルツ辺境伯令嬢の婚約者であるべナット・リンデマン伯爵令息と、私の婚約者であるリック・ザロモン侯爵令息がおりました。


リック様の父親は魔術師団長、リンデマン伯爵令息の父親は騎士団長を務めていて、二人は幼い頃からアルド殿下の側近を務めていました。


ナウマン男爵令嬢は、リック様やメルツ辺境伯令嬢とも親しげに話しています。


学園でこの四人が一緒にいるところをときどき目にしていましたが、友人というには距離感が近すぎる気がします。


メルツ辺境伯令嬢は嫉妬していないのかしら? と思い彼女の横顔をちらりとのぞきましたが、彼女もブルーノ公爵令嬢同様、一切動揺していませんでした。


公衆の面前で婚約者に浮気されても動じないなんて、お二人共凄いメンタルです。


私には真似できそうにありません。


壇上にいるリック様は私を鋭い目つきで睨んでいて、彼と目があっただけで小心者の私はビクついてしまいます。


婚約者のリック様は私の初恋の人でした。


幼い頃の彼はシャイで人見知りでしたが、とてもお優しい方でした。


リック様は金色の髪に碧眼の持ち主で、幼いときから美しく、私は彼と顔合わせの日、ひと目見て彼を好きになりました。


あの頃の彼は純粋で優しくて、私が手作りのお菓子や刺繍入りのハンカチを贈ると、喜んで受け取ってくださった。


彼の誕生日にお父様に頼んで他国から取り寄せた貴重な魔導書を贈った時も、喜んで受けとってくださった。


いつからでしょう、彼との関係が壊れたのは?


あんなに仲が良かったのが嘘のように、彼はいつからか私に冷たい態度を取るようになりました。


学園に入ってからは月に一度のお茶会もすっぽかされるようになり、誕生日にも女神の生誕祭にも、彼からプレゼントが贈られて来ることはなくなりました。


その頃から私の恋心も冷めていきました。


リック様との婚約は政略的なもので、それ以上でもそれ以下でもないと思うようになっていきました。


ですがやはりこうして目の前で、婚約者に他の女性といちゃいちゃされると、精神的にきついものがあります。


「三人とも揃ったな! これよりお前達の断罪を始める! 罪状はミア・ナウマン男爵令嬢を虐めた件についてだ!」


アルド殿下は壇上から私達を睨み付けると、大きな声で叫びました。


彼の発言を聞いた会場の生徒がざわついています。


私は身に覚えのない罪状を突きつけられ、動揺を隠せません。


隣にいるブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢を見ると、彼女達は眉一つ動かしていませんでした。


こんな時でも高位貴族は毅然としていて凄いです。


私も見習わなくては。


「殿下、おっしゃっている意味がわかりませんわ」


「わたしもだ。わたしはそこにいる令嬢を虐めたことなどない」


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢が殿下に抗議しました。


お二人共かっこいいです。


お二人が傍にいてくださって本当に良かった。


私一人だったら今頃泣いていました。


私もお二人を見習って何か言わなくては!


このままでは冤罪を着せられてしまいます!


「わ、私も何もしていません……!」


私は震える声で抗議しました。


「口答えをするな! ミアが制服にインクをかけられ、ノートや教科書を破られ、私物を隠され、噴水に突き落とされたと証言しているんだ!」


アルド殿下は私達の言葉に聞く耳を傾ける気はないようです。


殿下の怒号にびっくりし、私はすっかり萎縮してしまいました。


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢をちらりと見れば、お二人は殿下のお言葉にもいっさい動じていませんでした。


お二人共流石です。


「ぐすん、ぐすん、怖かったです」


ナウマン男爵令嬢が涙を拭きながら、甘えるような声で囁きました。


「心配するなミア、俺達がついてる」


「そうだぞミア、大丈夫だ」


「君の尊厳を傷つけた奴らには罰を受けさせる」


アルド殿下とリンデマン伯爵令息とリック様が、ナウマン男爵令嬢を慰めています。


一瞬リック様と視線が合いました。


私を冷たい目で睨むリック様を見て、彼の心は私にはないのだと痛感しました。


「殿下、証拠はございまして?」


「そうだ、証拠もなしに罪人扱いされてはたまらない!」


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢は、三人の迫力に気圧されることなく毅然とした態度で反論しています。


私も何か言わないと!


「わ、私もお二人と同意見です! し、証拠は必要だと思います……!」


私はやっとのこと声を絞り出しました。


「証拠など、ミアの証言だけで充分だ!」


殿下が私達の意見をバッサリと切り捨てました。


これには流石のブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢もあ然としています。


証拠もないのに大勢の前で断罪するなんてあんまりです!


殿下達に対して怒りが湧いてきました。


「証拠もないのに公衆の面前で断罪劇を繰り広げるなんてあんまりですわ、殿下」


「そうだ、この件については辺境伯家より王家に抗議させてもらう!」


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢の意見はもっともです。


お二人共、本当に頼りになります。


私も何か言わないと!


冤罪をかけられ、家名に傷をつけてしまいます。


ですが子爵令嬢の身分ではお二人ほど強くは言えません。


なんと言ったらいいでしょう? えーと、えーと。


「生意気な女達だ! 大人しく罪を認めミアに謝罪すれば良いものを!」


私が考えている間に、壇上の男性三人が何やら会話していました。


完全に抗議するタイミングを逃しました!


「殿下、やはりこいつらを大人しくさせるにはあれしかありません」


「そうです殿下、言ってやりましょう!」


アルド殿下とリンデマン伯爵令息とリック様が何やら話しています。


その様子をナウマン男爵令嬢がニヤニヤしながら見守っています。


三人でなんの話をしているのでしょう?


男性三人は一歩前に出ると、それぞれの婚約者を指さしました。


「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」


「マダリン・メルツ辺境伯令嬢! オレも貴様との婚約を破棄する!」


「エミリー・グロス子爵令嬢! 僕も君との婚約を破棄する! 君との関係は今日限りだ!」 


アルド殿下と、リンデマン伯爵令息と、リック様が声を揃えて婚約破棄を宣言しました。


まさか公衆の面前で婚約破棄されるとは思っていませんでした。


傍に立つブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢の横顔を覗くと、流石に婚約者の態度に腹に据えかねたのか、お二人共眉が引きつっていました。


壇上の男性三人に視線を戻すと「これからはミアだけに真実の愛を捧げるよ」「オレもミアだけを愛するよ」「僕もだ」……三人共、ナウマン男爵令嬢に真実の愛を誓ってました。


男三人が女性一人に愛を囁く異様な光景を見せつけられ、私の頭はパニックになりかけていました。


婚約破棄した舌の根も乾かないうちに、他の女性に愛を語らうなんて……三人共どうかしています。


悔しいし、傷ついたし、悲しいし、涙が出そうだし……私はどうしたらいいかわかりませんでした。


ですが、高位の貴族令嬢であるお二人はこんな時でも取り乱すことなく冷静でした。


「婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ」


「わたしもだ。婚約破棄の件は了承した。だがミア・ナウマン男爵令嬢に虐めの件は別だ。追って辺境伯家より正式に抗議させてもらう!」


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢は、周囲が見惚れるほど綺麗なカーテシーをすると、踵を返しました。


私はひとり取り残されたくなくて、慌ててカーテシーをし、その場をあとにしました。


リック様には、結局何も言えませんでした。





◇◇◇◇◇◇◇


読んで下さりありがとうございます。

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