第28話 反抗

 俺は借り人競争で一位になり、計画通りインタビューを受ける事ができた。それに進藤さんも無事に連れてくることができたしな。順調順調。


「さぁ、一位になった選手に少しインタビューしてみましょう! まずはお二人とも、学年とお名前をお願いします!」


「二年の、水城みずしろ 拓海たくみです」

「同じく二年の、進藤しんどう 真紀まきです」


「それではまず、競技を頑張った水城選手にお聞きします! 最後のお題は何だったのでしょうか!?」


「えーと……なかなか言えない秘密がある人、でしたね」


 俺が放送部のインタビューにそう答えると、『おぉ~』と期待が混じった声があちらこちらから聞こえてくる。進藤さんだから注目される、っていうのもあるだろう。



 そんな進藤さんは俺が借り人競争のお題を言うと、少し不安な表情で俺の方をじっと見つめてくる。その表情などからも、とても戸惑っている様子が読み取れた。ここまでくれば、進藤さんも流石に全てを理解したらしい。


「ち、ちょっと。私は」

「大丈夫。俺に出来るのはここまで」

「……いじわるっ」


 俺はあくまでも、最終的には本人の意思を尊重したいと思っている。


 進藤さんがここで殻を打ち破って告白するか、倉島との関係などを適当に言って逃げるか……最終的には本人が選ぶべきだ。


「自分の事は棚に置いといて、私にはこうして逃げ道をなくすんだから。拓海君は本当にいじわるな人だよ」

「自分と他人を考える事については、あいにく別なもので。それに……進藤さん自身が言うべき問題たと、やっぱり俺は思う。もし逃げたかったから、倉島の事とかを言って逃げてもいいし」

「はぁ。それってもう逃げ道がないようなもんじゃん。しょうがないなぁ」


 進藤さんは俺に色々と悪態をつきながらも、表情は少し笑っていた。


 俺に呆れているのか、追い詰められてなのか。


 いや……違う。


 きっと、進藤さんはこの状況を楽しんでいるんだ。


 進藤さんの表情は、無邪気な子供のような純粋な笑顔だった、

 これから先がどうなるか分からない世界を想像して、どこかワクワクしているような……そんな表情に見えた。


 「お二人とも色々話されてましたが、大丈夫ですか? もしよければ、お題の方についてもお聞きしたいのですが……」


 インタビューをしている放送部の男子がそう言うと、進藤さんが力強く一歩を踏み出して、少し前に出た。


「いいですよ。こうして水城君も私を選んでくれたんだし、せっかくの体育祭ですから」


 そんな進藤さんの言葉で、体育祭のボルテージは最高潮に。中には進藤さんを煽るような形での指笛や声も聞こえてくる、


 そういう状況の中、俺は改めて盛り上がっているグラウンドを見渡す。


 グラウンドの方を見ると、倉島が自分のクラスのテントから俺たちの方に少し近づいてきているのがバッチリと確認できた。

 もしかしたら自分にも関係が? と少し恐怖を感じているのかもしれない。


 次に俺は保護者席の方を見た。


 進藤さんのお父さんでもある孝蔵さんは、俺たちに期待の視線を向けながら少し笑っていたように思えた。

 やっぱり……二人は似てる。こうして期待して笑っているところが、本当にそっくりだ。



「では、体育祭の場を借りて色々と秘密を告白させていただきます。実は……私って親と喧嘩してるんです。だからクラスメイトとかが家族の楽しそうな話をしている時、少し気まずくなってました」


 進藤さんが意を決し、自分の事についてゆっくりと話し始めた。周りからは戸惑っているような声や驚きの声が聞こえてくる。


「私を知っている人なら、皆驚くと思います。でまぁ……私は、親と一生分かり合えないかなとすら思ってたんです。勝手に私のすることや将来、恋人とかも決めてくるんですよ? 皆が私だったら、きっと発狂すると思うんですよね」


 進藤さんは少し重い話という事もあってか、ユーモアを交えながら自分の事について色々と話していく。


「私は色々と逃げていました。今日までずっと……親から逃げてたと思います。でも、水城君が体育祭を通して私にきっかけを与えてくれました。水城君はネガティブで面倒で不器用ですけど、根はちゃんと良い人だと思うので皆も褒めてあげてください」


 進藤さんは俺の方を見て、してやったりの表情を浮かべる。


 進藤さん、俺にカウンターできる時を虎視眈々と待ってやがったな。本当に油断できない奴だ。



「兄貴ー! かっこいいー!」


「兄貴ってなんだ? まぁ確かにすげぇぜ!」

「かっこいいぞ~兄貴!」

「兄貴っ! 兄貴っ!」


 よく通る茜の声に皆が反応し、自然と『兄貴』コールが巻き起こる。


 やめてくれ……何か恥ずかしすぎて蒸発しちゃう……。



「これは私からの仕返し。水城君、注目されるの苦手でしょ?」

「進藤さんにはほんと敵わないな。めっちゃ恥ずかしい」

「それはお互い様だもん。水城君は顔真っ赤だけどね」

「これ以上言わないでくれぇ!」


 自分の顔がどうなっているかは分からないが、顔が赤くなっている事は間違いないだろう。


 もう顔に何か熱がこもっているような気するもん。本当に湯気とが出せそうなぐらい、顔が熱くなっているんだが?



「じゃ、私の事についての話に戻しますね。私は親の事を嫌っていたし、自分の事について何も考えていませんでした。でも、水城君のおかげでちゃんと話してみようって……今回の事を通して思いました。夢とかしたい事とか……明確に決まっている人の方が少ないと思います。だからこそ……少しずつ色々な事を調べて、自分のしたい事とかを考えていきたい! 私は自由に人生を歩みたいんだー!」


 その進藤さんの力強い言葉に、周りからも『頑張れ~!』とか『いつでも相談して~!』などといった温かい言葉が、進藤さんに次々とかけられる。


 進藤さんは一人じゃない。こんなにも多くの人が、進藤さんの事を応援してくれるんだ。


「長々と話しちゃってごめんなさい。簡単にまとめると、親と仲が悪かったけど自分も何も考えていなかったから、ちゃんと色々考えて親と話そう、と思えたってことです! 皆! ありがとう!」


 進藤さんが応援してくれる人たちに返す形で呼びかけると、グラウンドで大きな拍手が沸き起こる。


 その暖かいグラウンドの様子を見て、俺と進藤さんはお互いを見て笑い合った。こんなにも仲間になってくれる人がいるんだ……とお互いに確認するように。




「あっ。私から最後にいいですか?」


 進藤さんはまだ何かを言うつもりなのか、放送部の男子からマイクを受け取って大きく息を吸った。


「私って同じ二年の倉島君と付き合っている……みたいな感じになっているんですけど、これも私が望んだことじゃないんです。倉島君は確かにイケメンと思うんですけど、私のタイプじゃなくて」


 俺たちの近くに寄ってずっと話を聞いていた倉島の表情が、みるみるうちに苦しみの表情に変わっていく。

 結局自分の事は言われないか、と少し安心していたのだろう。


「私は別に倉島君を悪く言うつもりもないですし、これでいじめは起きてほしくないと思ってます。いじめちゃうと、皆も悪人になっちゃいますからね。私と倉島君って親同士が仲良くて、勝手に親が婚約関係にしちゃっただけですから。私たちにも、一応は自分の考えというか権利があるわけじゃないですか」


 倉島は何かを察したのか俺たちの方から離れ、スススッとどこかに行ってしまう。


 ただ倉島については問題ない。


 倉島については、進藤さんのお父さんでもある孝蔵さんがきっと上手くやってくれるはずだ。


「だから、私は倉島君と別れます! 私も倉島君もそれぞれの人生があります。倉島君についてもそうだし、私も自由に生きたい。だから……倉島君の事も、私の事もまた暖かく接してくれると嬉しいです。色々とご清聴、ありがとうございました」



 進藤さんは倉島のケアも忘れなかった。それとこの体育祭を通してか、お父さんである孝蔵さんの考えも、自分の悪かったところも理解したのだろう。


 自分の考えを話し、お辞儀をして頭を上げた後の進藤さんは、どこか少し雰囲気が変わったように思えた。



「水城君、本当にありがとう。私、ちゃんと自分について話せた気がする」

「そりゃ協力関係になったからな。これぐらいはやるさ」




 こうして、進藤さんの問題はだんだんと解決に向かう。




 そして体育祭は徐々に終幕へ——

 


 


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