第24話 二人三脚
俺と進藤さんは二人三脚に出場するため、入場門で待機をしていた。
「水城君、ちゃんと私に合わせてくれる?」
「もちろん」
「せっかくなら一位になりたいよね。練習の成果が出たらいいなぁ」
「倉島とかの件があったにしろ、結構練習したからな」
進藤さん自身の問題があった事や二人三脚という競技の特性上、俺と進藤さんはかなり練習をした。
ペースを掴んでからはスムーズに走る事ができるようになり、どんどんと記録も伸びていったので、クラスに貢献できるような結果が残せると良いなと思う。
こうして進藤さんと話していると、二人三脚の開始を知らせるアナウンスが聞こえたので、俺と進藤さんはグラウンドの方に入場していく。
俺は緊張を抑える意味もこめて、心の中で『よしっ!』と言って気合を入れる。
「兄貴~! 真紀ちゃん~! 愛してる~!」
俺たちのクラスのテントの方から、茜の綺麗で大きい声が聞こえてくる。
茜の声はよく通って注目を集めやすいので、何だか少し恥ずかしい。
パートナーが進藤さんという事もあってめちゃくちゃ注目されている気がするし……。
更にグラウンドの方に入場すると、新聞部の活動でカメラを持って撮影している琉生が俺らの方に近づいてきた。
琉生は俺たちにカメラを向け、パシャパシャと写真を撮っている。
あれ? 何か大量に撮られてない? 何か会見をしている人ぐらい撮られているんだけど?
さては琉生の奴、おふざけ半分で俺たちを撮ってるな?
前に誠一や彩夏ちゃんと新聞部に行った際、琉生はふざけているって松家さんが言ってたっけ。
よし! あとで松家さんにチクってやろ!
そんな中で二人三脚は順調に進んでいき、俺たちの番がだんだんと迫ってくる。
俺と進藤さんは紐でお互いの足を結び、二人三脚の準備を進めていく。
「ここからだと保護者席とかも見やすいんだけど……進藤さんの親ってここから見える?」
俺は紐を調整しながら進藤さんに話しかける。この後の事もあるし、先に進藤さんの親を一度確認しておきたい。
「あっ、あれ! あそこの保護者席の後ろにいる」
俺は身体を起こし、進藤さんが指を差した方を見る。そして進藤さんが差した方を見ると、何だか厳格そうな一人の男性が目に入った。
進藤さんの父親、想像していた通りだけどめっちゃ怖いじゃん……。何か昭和のスポ根アニメに出てくる親父みたいだな。
それに何かめちゃくちゃ不機嫌そうだし……。
ま、まぁ競技とはいえ、知らない男が娘とくっついていたら不機嫌にもなるか。倉島っていう相手もいるわけだし。
そして次に倉島がいる、二年五組のクラスのテントの方を見る。
倉島はイライラしている様子で、少し不服そうにグラウンドの方を見ていた。倉島も何だかんだで余裕そうな様子だったけど、めちゃくちゃ気にしてるじゃねぇか。ざまぁみやがれ。
「あっ、もしかしてタカの方も見てた?」
「おう。何だかイライラしてたぞ」
「私の前では余裕そうにしてたのにね」
「ほんとだよ」
「じゃあせっかくだし、タカの事も煽っておこうかな」
「え?」
進藤さんはそう言うと、俺の身体に倒れるような素振りを見せながら、俺の肩をガシッと力強く掴んだ。
「おっとっと。これはこれは水城君、失礼したね」
「さ、策士すぎて怖い」
「まぁまぁまぁ。どうせ二人三脚が始まっても、勝つために水城君と密着するんだから良いでしょ」
「……まぁそうだな。それは正論だ」
「でもタカの方をチラッと見たら、何か凄い顔して少し笑っちゃった」
「それはまぁ……笑うよな」
まぁ考えられる懸念点と言えば……俺が役得すぎるポジションで色々な人から何か言われそうなことぐらいだ。
それに茜や松家さんはまた俺をイジってくるんだろうな……。
「はいじゃあ次の組準備して~」
いよいよ、俺たちの番がやってきた。
体育を担当している先生が、俺たちをスタート位置に誘導する。
クラスの為、そして進藤さんの為にも、できるだけ良い結果を残しておきたいので、全力を尽くしたい。
「位置について……よーい……」
競技の開始の合図を担当している教頭先生の言葉の後にピストルの『パンッ』という音が鳴って、俺たちは一斉にスタートする。
俺たちの走るグループは、俺と進藤さんの組を合わせて全六組だ。
走るグループは、一クラスごとに一組出場する形が基本になっている。
俺たち二年のクラスは六組あるので、走る組も六組という事になり、それが一つのグループになる。人数や組の調整でイレギュラーな時も少しはあるけどな。
「「イチニ、イチニ、イチニッ!」」
俺と進藤さんは練習した成果もあり、スタートに成功した。
二人三脚ではいかに速く走れるかが重要のように感じられるが、速く走る事は実はそんなに重要ではない。
スピードを求めすぎるあまりに息が合わなくなって、本末転倒になってしまう事がほとんどだからな。
じゃあ二人三脚で一番重要のは何なのか?
それは……二人の息がどれだけ合っているかだ。
そしてスタートに成功して抜け出した俺たちは、後続にグングンと差をつけていき、どんどんとゴールテープに近づいていく。
雲一つない快晴の青空と春の心地よさを感じられる風が、とても綺麗で気持ち良い。
——なんか青春を謳歌してる感じがしていいな。
そうして俺たちはトラブルが起きる事もなく、無事に一位を取る事ができた。
練習の成果も十分に発揮する事ができたので、俺としても大満足だな。
「兄貴~! 真紀ちゃん~! おつかれ~!」
歓声などの色々な声が入り交じる中、茜の声がハッキリと聞こえた。やっぱり茜の声はよく通るな。
俺と進藤さんは、その茜の言葉に反応する形で、茜たちがいるクラスのテントに向かってピースサインをした。
「やったね水城君。私たち一位だよ」
「練習の成果はちゃんとあったって事だな。本当によかったよ」
「でもこういう展開の時ってさ、何かライバルとか出てくるんじゃないの? それとも私たちが強くなりすぎちゃった? だから普通じゃない展開になっちゃったのかな」
「進藤さんがそれ言う? 進藤さんの環境とかも普通じゃないから、結構な展開クラッシャーだと思うんだけど」
「まぁ、私は茜や松家さんの枠を奪っちゃったからなぁ。いつかお返ししないとねぇ。もしくは、茜たちに忠誠する心を見せないと」
うーん……女心というやつはイマイチ分からないなぁ……。
その鎌倉幕府の時のご恩と奉公みたいな関係になろうとするのやめて?
こうして特に問題もなく、無事に二人三脚が終わったので、俺と進藤さんは退場門を出てクラスのテントに戻ろうとした。
ただ俺たちが退場門を出ると……先ほど確認した進藤さんの父親が俺たちに近寄ってきた、
更に進藤さんの父親の後ろから、倉島も近寄ってきているのが確認できた。進藤さんも思わず、「うわっ」と声を上げていた。
「私は
「どうも。進藤さんと同じクラスの、
「水城君、か」
そして進藤さんの父親である孝蔵さんは、俺を査定するように俺の全身を見てくる。
俺は骨とう品や盆栽みたいな芸術品じゃねぇぞ。
「あっ、孝蔵さん! どうもこんにちは。それと真紀も一位おめでとう! ちょっと嫉妬もしちゃったぜ。さっ、一緒にテントの方に戻ろうぜ」
俺は進藤さんに、倉島と二人でテントに戻って欲しい気持ちを視線で訴えた。
そんな俺の視線を見て進藤さんも何かを察してくれたようで、倉島と一緒にテントの方に向かっていった。
「……水城君は真紀について、色々と知っているんだな」
「えぇそうです。よければ少し、僕と話していきませんか?」
さぁさぁさぁ。
次は俺が頑張る番だ——
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