俺の周りにはラブコメの属性を持っている奴らばかりなんだが、それでもなぜか俺に絡んでくる

向井 夢士(むかい ゆめと)

第1章

第1話 幼馴染って尊いじゃん

 俺たちの世界は生きづらい。


 普通という誰が決めたのかも分からない曖昧な概念で、少数派はいとも簡単に押しつぶされてしまう。多数派が強い力が持つというのが、俺たちの生きている世界では当たり前になっている。


 もちろん、多数派が強い力を持つ事は良い面もいくらかあるだろう。実際に世界はそういった事で上手く出来ている面もあるわけだし、俺も理解はしているつもりだ。


 ただ……学校ではそういった世の中の理が悪い面に作用することもある。まだまだ未熟な俺たちは、物事を上手く分別する事も出来なければ自分が絶対的で特別な存在だと思ってしまうのだ。


 自分だけが不器用で、皆ができる事ができなかったから馬鹿にされた。


 物静かであまり喋らないのが珍しかったから、それで馬鹿にされた。


 素直に告白されて喜んでいたら、それが嘘の告白で馬鹿にされた。


 

 どうやら俺の住んでる世界は、ちょっと他の人と違うだけで馬鹿にされるらしい。本当に何と生きづらい世の中なんだろうか。


 だから俺は何も期待しないし、自分の身は自分で守る事にした。


 結局のところ、人生というものは自分の手で色々と切り開いていかなければならない。最終的には、何もかもが自己責任として自分に降りかかってくるのだから。



◇◇◇



 ピピピピピッ、ピピピピピッ、ピピピピピッ。


「もう7時かよクソがぁぁぁぁっ……」


 今日から高校二年生になる俺、水城みずしろ 拓海たくみはアラームに腹を立てながらも何とか身体を起こす。アラームさんには全く罪はないのだが、夜型人間の俺からするとアラームさんはもう天敵と呼べるぐらいの憎い存在なのだ。


 だいたい俺の好きなアニメは深夜に放送されている事がほとんどだし、アニメ以外にも漫画やラノベ、それに他の好きな事や趣味を楽しもうとすると本当に時間がない。


 えっ、最近は配信でいつでもアニメとか見れるって? 


 バカ野郎っ! 好きな作品や話題の作品はリアルタイムで見ないと意味がないだろうが! それがオタクの流儀ってもんなんだよ!


 とまぁ……あれこれ文句を言っていても何も進まないので、俺は少し寝ぼけながらも学校に行く準備を始める。


 今日から新学期で学年も変わるという事で、いつもとは何か違う空気をどこか少し感じる。俺みたいなコミュニケーション力がない奴にとっては、クラス替えは超重要イベントでもあるからな。少し空気も気分も重々しい。


 ちなみに俺の通っている学校では、二年生と三年生の間にクラス替えはないので場合によっては地獄行きになって絶望、みたいな可能性もある。


 学校生活って……本当に難しい。


 中学生の頃はいじめられたりもして、ほぼほぼ地獄のような学校生活を過ごした。


 だからこそと言うべきか、高校では絶対にこんな地獄の生活を過ごしたくなかったので、俺はまず中学の嫌いな奴や俺の知っている奴が進学しない高校を選んだ。

 

 そして高校デビュー……というほど大層なものでもないが、少しばかり自分を変える努力をした。話し方とか少し明るく振る舞おうとか、本当に些細な事ばかりだったけどな。

 ただこれが思ったよりも効果はあったみたいで、今は学校生活を何とか上手く過ごせていると思う。たまたま読んだラノベに影響された節もあったが、作品同様に効果はあったので結果オーライだろう。


 ラノベや漫画は人生のバイブルだから、皆も読もうなっ!



「いってきまーす」


 そんな事を考えている内に準備も終わったので、今日からまた頑張ろうと少し気合を入れて俺は家を出た。

 俺は電車通学なので学校までは少し遠いが、ソシャゲのデイリーミッションを消化するのにちょうど良いので、電車通学はかなり好きだ。電車通学、かなりおすすめですよ。


 そして学校の最寄り駅で降りて、橋を渡った後に坂を下っていくと学校が見えてくる。今日は新学期に伴ってのクラス発表という事もあってか、正門付近はいつもと違ってガヤガヤと盛り上がっている様子だ。


 俺も少し緊張しながら、正門から新しいクラスが掲示されているピロティへと向かった。

 俺たち二年生のクラスは全六組で、俺は緊張しながらも順に一組から自分の名前を探していく。


「み、み……あった。今年は二組か」


 まずは二年二組の名簿に自分の名前があったことで一安心。それに自分の名前を確認する時に少し目に入ったが、一年の時に仲良くなった奴らともクラスが一緒だったので、クラス替えは大成功だと言えるだろう。



 こうして命拾いをしてよかったよかったと一安心していると、後ろからトントンと肩を叩かれた。


 後ろを振り向くと、そこには俺のよく知っている顔の男女ペアが立っていた。この二人も一年の時に出会って仲が良くなった奴らだ。


「拓海君とまた同じクラスになれて嬉しいです。また二年間よろしくお願いしますね」

「こちらこそだよ松家まつやさん。また二年間よろしく」


 まず俺に話しかけてきたのは、松家まつや 玲奈れなさん。勉強がめちゃくちゃできて、おしとやかで大人びた雰囲気から男子人気も高い。


 ただ男子人気は高いが、松家さんに告白する男子は誰一人いない。それは松家さんの隣にいる……ある一人の男子が強すぎるのが原因だろう。


「おおぉい拓海っ! 俺の事も忘れんなよ!」

「そうだな。琉生るいもおまけで付いてきたし」

「俺をおまけ扱いすんじゃねぇよ! まっ、玲奈とは長い付き合いだけどさ」


 要領がよくて何事もそつなくこなすイケメン……宮本みやもと 琉生るい


 俺の高校生活で初めて出来た友達であり、松家さんとは幼馴染の関係でだいたいは一緒にいるイメージだ。俺も琉生と仲良くなってから、その繋がりで松家さんと仲良くなることができたわけだし。


 琉生と松家さんが幼馴染の関係というのは多くの人が知っている話だし、二人は付き合っていないと話しているが、傍から見るとめちゃくちゃ恋人関係に見える。美男美女カップルで隙がない、と周りからもめちゃくちゃ言われてたっけ。


 まぁ……幼馴染の関係って上手く言葉にはできないけど、何か深くて特別な空気感というか雰囲気があるよな。二人を見ていると、何かリアルでラブコメを見ている気分になるし。


「それにしてもさ、玲奈とは昔からの付き合いだけどまた一緒のクラスかよ。絶対に俺ら離れることができないじゃん」

「ふふふっ。琉生君とは本当に不思議な関係ですよね」


うーんなんだろ。もう早く付き合わないかなこの人たち。尊すぎるんだが? 糖分過多糖分過多。


「でも拓海とも一緒のクラスになれてよかったわ。仲が良い奴らとは同じクラスになる事ができたんじゃね?」

「一年生の時の学期末面談でクラス替えの話が出た時、仲の良い人がいないと孤独で耐えられませんって熱弁したからな。もう先生も若干引いてたし」


 生徒の要望はクラス替えでは意外と聞いてくれるとは知っていたので、ここぞとばかりに面談の時に熱弁したのが功を奏したのかもしれない。

 クラス替えは生死を争う一大イベントなので、やっぱり打てる手は打っておかないといけないね。


「拓海なら誰とでも上手くやっていけそうだけどな」

「拓海君……なかなかのやり手ですね。流石です」

「全然そんな事ないって。見る目ないですよあなたたち」



 琉生も松家さんも俺の本質には気付くことはないだろう。


 本当の俺はただのネガティブで弱い、不器用な一人の男だ。


 ストレスなんてないように見せているだけ。


 何も考えてないように見せているだけ。


 明るくて強い人のように見せているだけ。


 俺は人生を楽しく過ごすために、自分から守りに入っただけの臆病な奴なのだ。


「まぁとにかく、また楽しい一年を過ごそうぜ! 拓海も玲奈もついてこい!」

「何で琉生がリーダーぶってるんだよ。まぁ別にいいけどさ」

「ふふっ。私は拓海君の方がリーダーは適任だと思いますけどね」

「松家さんの中で俺はどんな立ち位置なの……?」


 こうして高校二年生になった俺の新学期は、いつも通りな日常で幕を開けたのであった――



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【あとがき】


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