第16話【難易度】深遠3【狂気】
「うぇ……。き、気持ち悪いです……」
顔を真っ青にして蹲り口元を手で押さえる槍聖。
先ほどまでの活躍が嘘のように弱体化している。
「大丈夫? 万能薬飲んどく?」
「いえ。少し休めば……なんとか」
オレは蹲る槍聖の背中を撫でていた。
ほら、気持ち悪い時って背中を撫でるとちょっと落ち着いたりするじゃん?
それに女同士だしセクハラにはならない筈だ。たぶん。
で、なんでこんなことになっているかと言うと、なんてことは無いただの速度酔いだ。
結果、リバース寸前になっている。
「クカカ。槍聖よ。一度吐き出してしまった方が楽だぞ」
「うぅ。流石にそれは……。うぷ」
「ま、暫し休んでいると良い。――りのよ。儂も支援は60秒後に頼む」
「弓聖のじいさん……。ホントに大丈夫なのか?」
「カッカッカッ! 年寄りの冷や水と侮るなよ?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ視線を移す弓聖。
その先には出現した第4層のボス。
ジェスターレベル180、ジョーカーレベル183、クラウンレベル187、ピエロレベル189の道化師4体。
面倒なので省略したが、道化師の名前の頭にはザ・フールが付いている。
しかし、本当に大丈夫なのだろうか?
確かそろそろ還暦だって聞いた気がするのだが……。
「では征くぞ! ――
弓聖がその手に持つ和弓の弦に手をかけ引くと4本の矢が出現する。
確か、あれもマジックアイテムだったか。
弓聖の持つ弓はその中に実体矢が格納されていて任意で矢を選択、呼び出せる
弓というのは2種類あって、矢を使用する弓と魔力の矢を使用する魔弓がある。
弓は矢が嵩張るため収納アイテムが無ければ数を持てず継戦能力も劣る。
そのデメリットを解消したのが魔弓だ。
魔弓に装填された魔力カートリッジが魔力の矢を形成するため矢の持ち運びというデメリットがほぼ無い。
そして、残弾の無くなったカートリッジは交換すれば良いし、空のカートリッジは専門店で魔力を充填すれば再使用できる。
つまりコスパが良い。
そう言うこともあって、近接戦闘が苦手なプレイヤーのお手軽装備として魔弓は重宝されている。
ただし、魔弓には使用者のステイタスが反映されないというデメリットがある。
そのためレベルが上がると最終的な火力は弓の方が上になる。
と言っても、その段階まで弓を極めるものは極僅か。
ある意味趣味の世界なのだ。
――バシュンッ!!
弓聖の射った4本の矢が空気を震わせ道化師目掛けて飛翔する。
対応するようにジェスターが
「――貫け!
一早く態勢を立て直したジョーカーが攻撃へ移行しようとしたところへ今度は貫通の付与された矢が放たれる。
しかも3射。
ジョーカーは2射を左手と右手の短剣でいなし、3射目を蹴り落とす。
が、そこへ重撃の1射が追加され大きくノックバックさせられる。
なお、その間に弓聖は、ジェスター、クラウン、ピエロへも時間差で矢を射って動きを牽制。
突出したジョーカーへ集中砲火で矢を浴びせていく。
「なんつう手数だ」
弓で此処までやるなんて流石は弓聖だ。
並のプレイヤーなら近づく事も出来ないだろう。
「ですが、このままでは……」
「ん? 気付いた?」
ちょっと顔色が良くなってきた槍聖が心配そうに弓聖を見つめていた。
そうなのだ。深遠の道化師たちはただの道化師ではない。
「うぬッ!?」
クラウンの使用した
それを弓聖はサイドステップで回避する。
その間も攻撃の手は休めないが、手数は確実に減る。
クラウンによる妨害は呪鎖だけではない。
搦め手で
クラウンの闇魔法を妨害しようと射った矢は、しかし態勢を立て直したピエロによってガードされ届かない。
そして、ピエロが受けたダメージはジェスターが回復してしまう。
ジェスターの行動を妨害しようとしてもピエロが邪魔し、まとめて攻撃しようとすると威力が分散し盾で防御されてしまう。
その隙にジョーカーが
「のわッ!?」
――ガキィン。
ジョーカーの短剣を弓で受ける弓聖。
振り払い矢を射るがそれを縮地で回避するジョーカー。
移動先を読んだ弓聖が出現ポイントへ矢を射るが、ジョーカーは出現と同時に消えた。
――二段縮地。
縮地の到達地点ですぐさま縮地を使用することで出現時の隙をほぼ無くして別方向へ移動する技。
プレイヤーが使うと緊急回避としてしか使えないが、ジョーカーはそこから普通に攻撃してくる。
「ぐぬッ!?」
斜め後方からの攻撃をサイドステップで回避する弓聖。
しかし、完全に間合いに入られてしまいジョーカーを引きはがせない。
そこへ呪鎖が絡みつき、遂に弓聖の足を止めた。
「――ッ。盾。
ジョーカーの攻撃が盾に防がれ、解呪でもって呪鎖を打ち消す。
「ふんッ!! ――吹き飛べ!
弓聖が大地を踏みつけた直後、地ならしによって発生した衝撃波がジョーカーを吹っ飛ばす。
「感謝するぞ!」
「ちょうど時間だっただけだよ。――ッ。
オレは約束通り弓聖への支援を開始した。
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