TSしたおっさんは姫になりたい

第1話【臨パ】探索１【ゴブＤ】

「行くぞ！」

「おうッ！！」

「うん」

前方に現れた灰色のゴブリン５体へ前衛の３人が突撃していく。

その光景をオレは後衛ポジションから眺めていた。

此処は東京都内ではビギナー向けと言われるゴブリンダンジョン９層。

ダンジョンは今から約３０年前に突如として全世界に出現した。

勿論、これによって日本や欧米など全世界が大混乱に陥ったのは言うまでもない。

当時まだ小学生だった俺はというと何かとんでもない事が起きそうだ。と胸を躍らせたのを覚えている。

それから色々あって、日本国政府はダンジョン管理省を発足、全世界に先駆けてダンジョンを一般開放した。

そして訪れるダンジョン黎明期。

先駆者たちの活躍によってダンジョンの仕組みやモンスターの能力、レベルや魔法などが解明されていった。

勿論、その功績を得るまでに築き上げられた屍の数も決して少なくはなかったという。

現在（いま）ではダンジョンを探索する資格――プレイヤーライセンスさえ取得できれば１３歳からダンジョンを探索できる。

そんな日常が訪れた。

ああ。ちなみにダンジョンを探索する者たちの事をプレイヤーという。

本日の臨時パーティは、大盾とメイスを使うレベル１７の盾使くん、両手剣を使うレベル１１の剣使くん、手斧を二刀流しているレベル１２の斧使くんの前衛３名。

オレの横で佇んでいるのがパーティリーダーでレベル１９の魔法使くん。

そして、オレ、レベル９の治癒使の計５名パーティだ。

オレとは言ったが、見た目は１３歳の女の子だ。

身長１４５ｃｍの小柄な体躯とセミロングの黒髪に整った顔立ち。

まぁ。端的に言って可愛い部類だと思うよ。

男であった時のオレが見ても間違いなく可愛いと思うレベルだ。

その証拠に街を歩けば年配の方々が、可愛い。と声を掛けてくれる。

時々、飴ちゃんも貰えたりする。

故に可愛いのだ。そう思う事にしている。うん……。

なお、オレはもともとは４０過ぎたくたびれたおっさんだった。

なのだが紆余曲折あってこの姿になった。

俗に言うＴＳというヤツである。

まぁ、ＴＳなんて漫画の世界の話みたいま感じだが、ダンジョンが存在しているのだからあってもおかしくはないだろう。

他ではオレの師匠くらいしか思い当たらないが。

「すまん。１体抜けたッ！」

焦ったような盾使くんの声が響く。

「問題ない。――火よ穿（うが）て。炎弾（ファイアバレット）」

即座に魔法使くんがゴブリン向けて炎弾を放つ。

炎弾の直撃を受けたゴブリンは盛大に炎上して消滅した。

「流石！　お見事です！」

「いえ。君を守るのが僕の役目ですから」

「ありがとうございます。嬉しいです」

んふふ。笑顔と言葉だけで若人たちが頑張ってくれる。

こんな楽なことは無い。

これこそ臨時パーティにおける紅一点の醍醐味だ。

やはり女の子。

可愛いというだけで全てがイージーになる。

と言っても、ただ笑顔を振りまいて楽をしているだけではないと弁明しておく。

支援と回復はしている。

してはいるが、それだけで良いので超楽である。

男（おっさん）だった時は、ステイタスが前衛向けの斥候だったので臨時パーティの時はモンスターや罠の探知、戦闘中はモンスターの攪乱などなど忙しなく動き回っていたからな。

レベルによるステイタス補正で身体能力が向上するとはいえ、それまでは普通のサラリーマンで、しかもデスクワークメイン。ほんとキツかったよ……。

それから、臨時パーティとは普段ソロで活動しているプレイヤーが目的に応じて一時的に組んだパーティのことだ。

ある程度レベルが上がり専業色が強くなったプレイヤーはクランに加入したり固定パーティを結成したりする。

しかし、低レベルプレイヤーや副業プレイヤーの場合はそうもいかないので、臨時パーティと言う事になる。

臨時パーティは基本的にダンジョン管理省の運営するプレイヤーズネストで募集が行われる。

そこで条件に合ったプレイヤー同士が集まるのだ。

勿論、条件が見合わなくて参加出来ないとか、メンバーが集まらずにお流れということもある。

故に臨時パーティはアタリハズレがあるのだ。

４０過ぎてプレイヤーになったオレはレベルも低かったので臨時パーティを良く利用していた。

ただ低レベルな新米おっさんとなると同年代は殆どいなかったのだ……。

大半はライセンス登録が可能になった年少組で、まぁ浮いてたな。

それでも気の良いプレイヤーは居た。が、残念なプレイヤーの方が多かった。

たかりみたいなプレイヤーもいて状況によっては収支マイナスになることすらあった。

更に若い女性プレイヤーがいたりすると大変だった。

所謂、姫という存在だ。

そんな姫プレイヤーに良いところを見せようとイキって突っ走る奴、護衛ばかりして前に出ない奴、分配で姫プレイヤーを優遇して媚びを売る奴、などなど。

ほんと良い思い出が無い。

時には臨時パーティが瓦解したことすらある。

なるほど、これがパークラ（パーティクラッシャー）の姫か、なんてやるせない気持ちになったもんだ。

ただこれらは初級プレイヤーの間ではよくある事らしい。

レベル２０になればソロでもそこそこ行けるようになるからそれまでの我慢なんて思ってたんだけどなぁ……。

と、そんな事を思い出していたら前衛くんたちがゴブリンを倒し終えていた。

「お疲れ様です」

労いの言葉を掛けながら前衛へケガを治す治癒（ヒール）と疲労回復の復調（リカバリー）の光属性魔法を使用する。

「おう！　やはり治癒使が居ると安定感が違うな」

「わかる。実は俺、普段は一人だからさ。９層（ここ）まで来たの初めてなんだよな」

「うん。僕も同じ」

「ハハハ。りのちゃんが居るだけで安定感が違うね。このメンバーなら上層ボス攻略は苦でもないだろうさ」

「はい。この調子で頑張りましょう」

りの、それが今のオレの名前だ。

なお、この臨時パーティは魔法使くんが募集したもので、目的はこのダンジョンの上層ボス討伐と中層ドロップアイテムの収集だ。

上層ボスの適性レベルは１５なので、魔法使くんと盾使くんならソロ攻略出来ないことはないのだろうけど。

まぁ、リスクを考慮してのパーティ募集だろう。

剣使くんと斧使くんはレベル的にソロはまず無理だからパーティに参加したのだろう。

オレはというと、未成年故の換金制限を緩和するのが目的だ。

プレイヤーライセンスは１３歳から取得可能とは言っても未成年の場合、アイテムの換金で制限が掛かってしまい満額報酬とはいかないのだ。

パーティの場合、報酬はメンバーで分配することになるがパーティに成人が所属することで年齢制限はほぼ無いに等しくなる。

つまり、ソロとパーティでは収入が全然違うのだ。

治癒使をやっているのもレベルが低くてもパーティ採用率が高いからだ。

それにあれだ、褒められてチヤホヤされるのって凄く気持ち良いのだ。

やはり人間は褒められて伸びる。

だからオレは決めたのだ。

二度目のプレイヤー人生は姫になって楽をするのだ。と！